18歳~2年間、記号で呼び合う世界で働いていた話。

テーマ:裏通り

大学生のころ
大阪の老舗純喫茶でバイトしていた。

まず最初に、バイトは全員、あだ名をつけられる。
あだ名と言えば聞こえはいいけど
カタカナ1文字の記号のようなもの。

私はたまたま空いていたおかげで
本名の頭文字から取ってもらえた。

でも、オガタユキちゃんは
「オ」くんが先にいたこと
ユは「コ」ちゃんと似ていて読みにくいので却下され
「ア」ちゃんとして働いていた。

「コ」ちゃんも、本名はナゴミちゃんで
「ナ」ちゃんが先にいたので
渋々「コ」ちゃんを受け入れていた。

お互いが記号で呼び合う、リアル千と千尋の世界。

ガリガリの店主「ママさん」は
湯婆婆と見た目は真逆ながら
甲高い声で従業員に指示を出すところや
馴染みの太客への猫なで声は
アニメ以上の怖さだった。

当時、仲よくしていた
5つ上の中国人留学生「シ」ちゃんは
頭がよく、日本語もペラペラ。
観光客相手に、英語・中国語で接客するプロだったけど
ママさんや、その娘「セ」さんに怒られると
同じく留学生の「カ」ちゃんに中国語でまくし立てていた。

何を言っているかはわからないけど
強烈にキレていることだけは伝わった。

さて。
喫茶店には、従業員用の勝手口が裏通り側にあって
その手前が、雨の日に滑りやすくなっていた。

「どうにか対策をしてほしい」とシちゃん始め
従業員から要望が出ていたけど
雨が止むとママさんが忘れてしまっていた。

ある雨の朝、シちゃんがそこで派手に転んだ。
バイト先は目と鼻の先。
着替えもタオルもロッカーにあるのに
シちゃんは「前から言っていたのに!」とブチギレ。
びちゃびちゃのまま、帰っていった。

バイトは残りのメンバーで回せたのでよかったけど
「ママさんのせいで、シちゃんを怒らせた!」と
セさんがパニックになっていた。

オくんは「僕も滑ったことあるけど…」とテーブルを拭き
コちゃんは「あれはママさんが悪いよな」と冷静に分析し
ナちゃんは「シちゃん帰ったん?最高!」と笑っていた。

18歳の私は、そんな勇気なかったので
ただただ呆気にとられた…という話だったはずが
改めて文字にすると
記号呼びがめちゃくちゃ奇妙だと感じたのでありました。

ちゃんちゃん。



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