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ダンサーインザダーク(2000)感想

10月末でUnext配信終了という事で視聴した映画。あらすじは知っていましたが、ちゃんと本編をまじまじと見たことが無かったため、満を持して見ました。

結果、物語の展開だけでなく、ちゃんと見て良かったと思いました。ストーリーだけでなく、演技、音楽、演出が有ってこそ。全てが合わさり、あの強烈な一撃となっていたと感じます。


あらすじ(ネタバレ無)

簡単にまとめると、息子のために頑張るお母さんの話です。
舞台はアメリカの片田舎、チェコからの移民である主人公・セルマはシングルマザーで、毎日息子の為に朝から晩まで働きます。
そんな彼女の趣味は、仕事の合間に市民ミュージカルの舞台で歌い、踊る事。彼女はミュージカルが大好きで、仕事場の工場の機械音などもミュージカルの演奏だと想像して、辛い仕事を乗り切ります。
しかし、彼女の病が大好きなミュージカルの楽しみすら奪おうとします。彼女は遺伝性の病気で、視力を失いつつあったのです。これは息子にも遺伝しており、セルマは息子に手術を受けさせるために一生懸命働いていたのでした。
しかし、そんな彼女に追い打ちをかけるように、事件が起こります。

特有の後味の悪さ

演出面

内容の重さ・暗さはもとより有名ですが、ストーリーと映像のマッチングが見事だと感じました。始終手持ちカメラによる撮影方法が用いられており、これが演者の迫真の演技と相まって、ストーリーを「フィクション」として割り切れない感じを生み出していたと思います。なのに、フィクションでなくては余りに酷な物語を展開するものだから、そういう所で見る人にショックを与えるのかもしれません。

「ミュージカル」のイメージを打ち破る

ダンサーインザダークはミュージカル映画です。しかし、一般的に煌びやか・華やかなイメージのミュージカルとは異なり、ダンサーインザダークのヒロインは機械が軋む工場で、自身が責め立てられる裁判所で、歌い、踊ります。このアンバランスさ、そしてセルマが辛い現状を耐えるための「妄想」としてのミュージカルが、不気味な美しさを作り出しています。

以下、物語の結末を含めて感想が続きます。


セルマの人物像

主人公・セルマの存在も、この映画独特の味を出す一助となっています。
セルマは息子を女で一つで育てるシングルマザーですが、その姿は傍から見ると弱弱しく、無邪気で素直な彼女はまるで少女のようです。
しかしその実、息子の事となるとひどく頑固で、たとえ自身を死へ追い詰める結果となろうと、「息子の幸せ」に繋がる選択をしようとします。一方でいざ自身に死刑が執行される段になると恐怖で足が竦み、いつも穏やかなセルマが泣き喚く様子から、(感情移入も相まって)彼女は決して心が強い訳ではなく、息子の為に「強く」在ろうとしているのだ…という事を実感させられてしまいます。

この二つが相まって、彼女に降りかかる人間の悪意や境遇が、弱い子供を痛めつけている様子をずっと見せつけられるかのような胸糞悪さに繋がっていると感じました。

物語の結末

ここまでひたすら「不気味さ」「胸糞悪さ」を前に出してきましたが、この映画をただイヤな物を描いただけのものとして終わらせるのは浅はかだと感じています。
ポイントは、この映画の物語の中で「結末はセルマが選択した道であり、この結末でセルマの望みは達成されている」という点です。
彼女を取り巻く環境や金銭面で彼女が恐ろしく不利な立場にいた事は確かですが、「彼女が死刑となる」という結果は彼女が望みを押し通した結果です。従って、災害に巻き込まれるのと同じだとは言い切れません。背中を押した物は有りましたが、彼女自身も同じ方向に足を踏み出していたのです。
この物語は、「一方的にか弱い女性を痛めつける胸糞悪い話」ではなく、「身ぐるみ剥がれた後でも何とか望みを叶えようともがく女性の物語」です。その望みが彼女自身の身を救わなかっただけで…彼女自身はある意味救われているのです。

まあまあ感じる悪意

とはいえ、監督の悪意を全く感じないという事は無く。
小柄で童顔のビョークをセルマ役に選んだ所や、最後にセルマが歌い終えない所で死刑を執行する所や…後味の悪さはやはり、監督により計算された物だと思います。ストーリー自体も、「どんな展開にしたら、見終えた後も鑑賞者が頭を悩ませるような、心にわだかまりが残るような映画になるか」を考えながら作ったのかな..と思わせられるような作りになっており、そういった意味では、監督の狙いは見事に成功したのでしょう。

時代が追い付いてきた?

ダンサーインザダークは、ある意味最近の映画の流行に乗れる作品なのではないかと思います。
最近はアリ・アスターのミッドサマーを発端として、「後味の悪い」「妄想と現実が入り混じる/不気味な」「考察が盛んに行われそうな」映画が(特にホラージャンルで)熱狂的に支持される傾向が有ると感じています。ホラー映画でこそ無いものの、約20年越しにダンサーインザダークは(既に名作と銘打たれているものの)再び評価されるのではないかと思います。
…まあ、考察が多い作品は、ストーリーの難解さから劇場に足を運ぶ回数が増えることで話題になる可能性も有りますが。そのような点からは、ダンサーインザダークは興行収入では測れませんし、ストーリー展開で謎を残すような点も無いので、少し違いますね。

とはいえ、この作品は映像で見てこそ真価を発揮すると感じております。ぜひともあらすじをなぞるだけでなく、実際にその目で映画を見てみてください。


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