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言葉で伝えること


私の本業は医療クラークです。
簡単に言うとお医者さんの補助として、地元の総合病院の小児科で働いています。

今年の4月に転職をして、初めて医療業界へと飛び込みました。きっと大変だろうなぁとは思っていましたが、これがもう想像以上。

恐らく、小児科だからというのもあるとは思います。だけど単純に、自分自身の物覚えの悪さも相まって、未だに何をするにもてんやわんやの日々です。

なかでも、私は一般外来の他に(あまり詳しくは書けないので濁しますが)2つの専門外来を担当に持っています。もうこの2つが難しくて難しくて。満足にひとりでできた試しがありません。

2つとも常勤医ではなく、出張医の先生が担当をしているため、先生と顔を合わせるのも当然外来があるその日だけ。そのためこの3ヶ月、私は担当の先生と満足に会話をしたことがありませんでした。

特にそのうちの1人の先生は、ベテラン中のベテラン。
見た目もベテラン!雰囲気もベテラン!診察スピードは光の速さ!その先生の診察はついていくのがやっと……というか、ついていけなくて、毎回「あわわわわ」となってしまうんです。

だからという訳ではありませんが、私はその先生が苦手でした。苦手というより「ベテラン怖い!」「モタモタしてごめんなさい!!」と、勝手に‟苦手意識”をもっていたんです。

だけどきっと良い先生なんだろうということは、早い段階から気づいていました。患者さんへの接し方を見ていたら、それは一目瞭然だったからです。

小児科といえど、その先生の外来は子供だけではなく、大人の方も診察に来ます。大人の患者さんへはフレンドリーに接し、子供たちへは無邪気に接する、そんな先生でした。

そのため、その先生の外来は常に診察室に笑い声が響いている、賑やかな診察です。そんな風に患者さんと接することができるのは、ただ単に腕が良いだけではなく、その先生の人間性もあるのだと思います。

だけど苦手なものは苦手。怖い。怒られたらどうしよう!ガクブル!といった意識は消えません。消えないけれど、なんとなくこのままではいけないとも感じていたんです。

というのも、私が小児科に配属になった理由は、ひとりの先輩クラークさんが別の科に異動になるから。私はその先輩の代わりに小児科に送り込まれました。

その先輩は勤続歴6年で、ものすごく仕事のできる方でした。そして、その2つの外来を担当に持っていたんです。
そうつまり、私はものすごく仕事のできる人の後任。それだけで「ひぃっ!」って感じ。

だけどこの3ヶ月、その先生の診察についていたときは、先輩も近くにいてくれたんです。だから分からないことがあれば、すぐに助けを求めることができました。

しかし、その先輩は7月から本格的に異動をしてしまいます。そうなればもちろん、診察につくのは完全に私ひとりだけ。ひとりof theひとり。あぁ、恐ろしい。

だからよりいっそう、7月からは頑張らねばと思うと同時に、先生にもきちんと一言意気込み(?)を伝えておいた方がいいかな、となんとなく思ったんです。

良く言えば、決意。
悪く言えば、保身。

突然話しかけるの恥ずかしい……。と思いながらも

「せせせ先生、来月から私、完全にひとりで診察につくことになりますが、頑張りますのでよろしくお願いします」(コミュ力皆無野郎)

と、モジモジしつつ言いました。モジモジ、ドキドキ。

すると先生は振り返り、はっはっはっ!と笑いながらにこやかに話をしてくれました。恐らく、これが先生とまともに会話をした初めての瞬間だったと思います。

その時、思ったんです。
やっぱり、思いはきちんと言葉に出して伝えることが大切だな、と。

正直、私は話したくない人とは無理に話さなくても良いと思っているタイプです。だけどその反面、人と接するうえでコミュニケーションは大切だとも感じています。

その塩梅は難しいですが、感情というのはどう頑張っても目には見えません。喜び、悲しみ、怒り、不安。そのどれもが、言葉にしなければきちんと相手に伝わることはない。言葉にして伝えるからこそ、そこで初めて伝わる思いがあるのだと。

現に、その後の会話で先生が
「まだ分からないことだらけでしょ」
そう言ってくれました。

先生がどういう意味合いで言ったのか、その全てを理解することはできません。
もしかすると、「まったく!こいつ何も分かってないな!」という意味かもしれない。だけど、私はその言葉にホッとしました。

「頑張りたい、頑張ろう」と思っても、実際は先生の言う通り、私はまだ分からないことだらけです。
そのなかでもし、‟病院に勤めているなら、分かって当然でしょ”のスタンスをとられると、私としてもかなり辛いものがあります。

甘えかもしれませんが、‟分からないことを分かってくれる”。それだけでほんの少し、救われるものがありました。

だけどこれは、私があの時先生に話しかけなければ分からなかったことです。
『きちんと言葉に出して伝えることができて良かった』と穏やかな感情を抱きつつ、今週また先生に会うのを目前に、私はこのnoteを綴っています。

まだ分からないことだらけの私は、きっと今週も何かをやらかすことでしょう。だけど先生に宣言した通り、これから新しいことをたくさん学び、一つずつ仕事を覚えながら、自分なりに精一杯頑張っていこうと思います。


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