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人物の位置と動作で観る「ドライブ・マイ・カー」

※ネタバレしまくります。


ドライブマイカー、すごい好きだ。
円盤で購入しようかと迷っている。アカデミーの受賞も嬉しい。
作中の人物の動きから、作り手の気持ちが込められていそうな部分をいくつかピックアップして、メモしておこうと思う。
注目するのは、動作と位置関係(体・顔の向き、各人物の高低差)です。

冒頭・家福と音がベッドで話すシーン。
家福より音は高い位置にいる(腕枕で頭を持ち上げて)。
次の、朝になって二人が眠っているシーンでは、家福の胸元に音が頭を置いている。3次元的な位置では下にいる家福が、2次元的な位置では上にいる。それは紙の上の事象が立体に干渉できないように、この時点で音の真の姿に触れられない事を意味している?

冒頭、物語の起こしを音に説明する家福。俯瞰のショットで、少しの間サーブが建物に隠れる。脚本では
「部屋に入るとわずかな匂いを求めて隅々まで嗅ぎ回る。帰り際にはいつも山賀の印を持ち帰る。筆立ての鉛筆とか、無くなっても気づかれないもの。彼女も引き換えに、自分の印を置いていく。
最もエスカレートした時。彼女は自分の履いていた下着を彼の衣装ダンスの一番奥に入れた。
印の交換によって二人がだんだん混じり合う。そんな気がする。」
の、太字の部分で、車は見えなくなる。

キスシーン・具体的にセックスをするシーン
抱き合う場面では、必ずお互いの顔は交差し、視線を合わせる事ができない。キスもそう、近づきすぎては相手の表情は伺えない。
分かり合えているという幻想的な安心感に包まれ、手放しで喜び近づいていく時こそが、最も分かり合えない瞬間を生み出している。

ヤツメウナギのくだりを話す音と家福のシーン。
3次元的な高さは家福の方が上だが、二人は向き合ってはいない。(音の方向を家福は見ている。彼女を追いかけている?)向き合うと、音は騎乗位の姿勢になり完全に家福の上になる。

みさきと家福が初めて一緒にサーブに乗るシーン。
後部座席の家福と運転席のみさき。信頼関係が上昇すると後のシーンで家福は助手席に移る。ユンさんと高槻の場面でも分かるが、同じ前後の位置で並んで座る時、二人の人物は対等な関係になる。
ここに加えて気づいた点。1回目にみさきと家福が乗るシーンでは、二人は対角線上、つまりx軸とy軸のどちらにも重ならずに配置される。
翌朝の2回目も同じ。
3回目のオーディション終わりのシーンでは、(恐らく)y軸方向で二人の位置が重なっている。4回目も同じ。5回目のシーンでは家福は後部座席のちょうど真ん中に座っている。
6回目、ユンさんとの夕食後では、y軸方向で重なる座り方に戻る。7回目の朝も同じ。8回目、ゴミ処理状に行く時も同じ。
9回目、高槻と一緒に乗った後、やっと家福は助手席に行き、みさきとx軸方向で重なる。(xとyでは、示される感情・心境の種類は異なっている気がする。)そしてその後、タバコをつけてルーフから火を出すシーンで、みさきと家福は同じ高さに腕を伸ばし、z軸方向でも重なる。それは逡巡の末に、第3の道筋を見つけ出したように見える。

ゴミ処理場を歩く際、みさきはずっと家福の前を歩き続ける。階段を降りる際も、高低差でそれは強調される。
海際の石段を降りるシーンで、前後の位置関係は逆転する。だがみさきは、タバコに火をつけた後、石段の一番上に座り、家福と目線の高さを同じにする。俯瞰のショットから切り替わって、二人のアップを映す際に、カメラが目線の高さを合わせることでそれは強調される。

高低差の位置関係と動作が最も意味をなしてくるのが、最後のシーン。上十二滝村の、丘の上でのみさきと家福のやりとり。
丘の上は現在。丘の下は過去の思い出を示唆している。降りていって直接触れることができないから、みさきは上から花を放り投げる。しかしその後、少し丘を降りて、タバコの火を線香代わりに土に刺す。
みさきの母親の、主人格と、サチの人格。二人に対する別々の弔い?
家福は、汚れたみさきの手を、それでも掴んで上に引き上げる。
その後のシーンで、二人は向かい合って話す。家福の独白の後、二人は抱き合い顔を交差させるが、それは「結局、相手のことなど分からない」という現実を、前向きに飲み込んだ事を示唆している。
抱き合った二人の顔がz軸で重なる正面のアングル。家福とみさきの視線は、それぞれ微妙に別の方角を向いている。二人は眼下に広がる街(過去の全貌)を、高さも方向も違うそれぞれの目線で、完全に俯瞰する。


以上、
まだ分からないから掴み損ねているシーンもあるし、直感で書いた部分もある。監督が思い描いた意志とは全くずれた解釈をしているかもしれない。
でもまぁ、仕方ない。他人が言っていることなど、解ろうとしても解らないのだ。誤解することが、理解への第一歩なんだろう。きっと。




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