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『大吉』(立方体の思い出)

 近所にたこ焼き屋が開店した。真丸と真四角が好きだという店主のこだわりで新築された店舗は完璧な立方体。店名は『大吉』。
 店主が知り合いの魚屋からたこを生きたままの状態で仕入れる為、新鮮で大きい身が沢山入っていてお美味いと途端に繁盛した。
 最初の頃は週に一度定休日を設けていたが、客が殺到するので定休日を廃止して売ることに。
 しかし定休日を廃止したことに不満をつのらせたたこ焼き器とレジ袋がある日、ストライキを起こした。
 両者は連れだって大海へ逃げた。
 たこ焼き器はすぐに回収されたが問題はレジ袋だった。レジ袋は海洋汚染の原因となる。
 国は自衛隊に支援要請をし、数日後無事に全て回収されたが、その様子を店内のTVで観ていた新入りのレジ袋たちが、膨らんだり破れたり、くしゃくしゃに丸まって悲しんだ。
 何より一番悲しんだのは実はたこだった。
 水槽の中から自分達の未来を知ることとなり、絶望して墨を店内にぶちまけた。
 
 その墨が看板へ飛んだこの店は後日潰れ、『犬吉』というペットショップとなった。

                (了)


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