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囀る鳥は羽ばたかない 第58話【ついに】

「囀る鳥は羽ばたかない」58話の私的ネタバレ覚書。

ここんとこずっと百目鬼矢代ふたりきりだったので
チラ見せでお仕事ツートップの登場に
両肩ゆさゆさされた気持ち。
あー……そうですねいろいろ問題山積みでしたねはいはい忘れてませんよ(ため息)

なんかもういろいろ盛り沢山の58話、キーワードは
〇お久しぶり!
〇ついに

特に「ついに」はほぼ全ページに対して使える3文字かと。
それぞれいろんな意味で。

※毎度の注意事項:
 以下がっつりネタバレ含みます。
 登場人物の心情とかストーリー解釈とかは
 あくまで個人の感想・深読み・妄想です。

******

感情は置き去りのまま――

******

三角(呼び捨て)に話をつけると言っていた綱川が三角邸を訪ねる。

三角が矢代に奥山組を探らせていた理由。
道心会の末端が港で取引していた拳銃を強奪された。
強奪したのは竜頭。奥山組がバックにいる半グレ。

奥山組の上・極星会は道心会と大昔から因縁がある。
でも奪った拳銃が向けられるのはおそらく道心会ではなく綱川の桜一家、と綱川は考えている。

ここはウチに花持たせちゃくれませんかね

つまり「この件からおたくらは手を引け」ということ。
その申し入れを三角は薄く微笑みながら聞き

お前はつくづく極道の鏡だな

誰かと比べるような物言い。
比較対象は矢代。
その流れで綱川が百目鬼の名前をするりと出すと、天羽がピクリと反応する。
天羽をからかうと同時に三角の反応をうかがう綱川だったが、三角が想像以上の反応を示したことに興味をひかれる。

三角「まさかここんとこ矢代に付かせてたのも」
綱川「百目鬼です」
くわえたばこで天を仰ぐ三角。

何百人も構成員を抱えている道心会のトップが、盃も交わしていない、数か月所属していただけの百目鬼を気に入らないという。

――矢代か

綱川が、百目鬼と矢代の関係に気付く。

そのタイミングで、綱川に百目鬼から電話が。
姿を隠している奥山の居場所がわかったとの連絡。
目つきがすうっと険しくなる綱川。
ここで、あの夜――前話から2週間経ったことが知らされる。


そのころ、
矢代は影山の医院にいた。
影山先生久しぶり!!4年後初の登場だ!!
椅子に座って雑誌を広げている矢代の横で、内科医・影山がカジノの店員の怪我を、指震えながら縫っている。
襲ったのはおそらく竜頭か奥山組。

影山は、矢代がヤクザから足を洗ったわけではないと知らなかった。
影山と矢代、この4年間全然会ってなかったわけではないけど、そういうことは話していなかったのね。
若頭時代みたいにちょくちょく怪我人を連れてくることもなくなっただろうし。

矢代の右目の件を七原が影山にペラっていたことが発覚、わーわー騒いでいるところに久我が仕事から帰ってくる。
久我!超久しぶり!!よかった今も影山のところにいるのね。
髪型もすっきりさっぱりした久我、夜の仕事や接客業が自分に向いていないと気付き(あー、と納得する矢代七原そして私)、今はバイクの整備士。
渋谷のクラブで働いている久我の友人から、人探しをしているヤクザが「ドーメキ」と呼ばれていたと聞いたけど、まさかね?という久我に

そのまさかだ

百目鬼は今や立派なヤクザ様、と言う矢代に「初耳だぞ」と影山。
まあ矢代がそれ知ったのもつい最近だからねえ。

「あいつこそ(ヤクザに)向いてないと思ってたのに」と言う久我と
黙り込む影山をよそに、
矢代はこの2週間を思い浮かべていた。

「また来ます」と言って部屋を出て行った百目鬼、有言実行。

人探しで忙しいあいつは
合間を縫うように突然来ては
言葉もなく
何の意味もなく
本当にそれしかないと感じるくらいには
何度も
何度も
何度も
来ては
帰った


この時の回想もまた妖艶で超エロい。
矢代と百目鬼、このふたりの回想は毎度毎度ホントいいですね!
「何度も」リピート、これほぼ毎日だな。

なんでヤクザに戻ったんだ、向いてねーのに、アンタもそう思ったから4年前百目鬼を突き放したんじゃねーの?
と、どストレートなことをズバズバ言う久我に答えず、怪我人を置いてさっさと帰ろうとする矢代に影山が声をかける。

大丈夫か?

目なら大丈夫だ、とめんどくさそうに答える矢代に
目じゃない、いや目も心配だけど……
と、メガネを押さえながら言い淀む影山に

だから何――、
と言いかけた矢代の脳裏に
4年前の影山医院での光景が浮かぶ。

百目鬼は捨ててきた、と言う矢代に影山が突きつけた言葉

惚れてたんだろ?

同時に浮かぶ、4年前の百目鬼。
「かしら」と呼び慕い、まっすぐに見つめ、自分の傍を離れなかった男。
その百目鬼の膝枕で矢代が尋ねたこと。

人を好きになるのってお前はどんな感じだ?
どんな風に好きになるんだ?


自分にとっては、血がにじむ百目鬼の頬の傷のようだと言った矢代。
恋情に痛みが伴う矢代が今、激痛に喘いでいる。

外は雨が降り出している。
(ここで雨!)
うつむき、歯噛みし、小さくつぶやく。

勘弁してくれ
本当に


つぶやきは雨に溶けていく。

******

冒頭からお久しぶりの波状攻撃!
三角と天羽は7巻ぶり、
影山は6巻ぶり、久我に至っては3巻から姿見てなかったよ!


今回、矢代と百目鬼のつながりを各方面がついに知ることとなった。

得物を28丁も強奪されたとか、絶対に外部には漏らせないどころか内部でもトップシークレットであろう大失態を三角が綱川に話したのは、4年前の借りがあったから。
矢代からの報告で、桜一家が大きく関与していることも知っているし。
しかし拳銃強奪か。
以前、「三角が乗り出すということは相当なトラブル」と予想したけどホントに相当なトラブルだった!

矢代は、三角が頼んだ「調査」の件は報告していたけど百目鬼のことは黙っていた。
まあ、百目鬼に逢ったよーとか報告することでもないしねえ。
そもそも4年前から三角は百目鬼を嫌っていた・矢代から引き離したがってたし。
なんか三角、矢代の身辺探らせそうだなあ。鯨鮫さんたちとか使ってでも。
そして矢代のマンションに百目鬼が連日通っていることを知った三角がどうするか?
電話でねちねち小言を言うだけじゃ済ませないだろうし……


綱川は天羽の警告を無視して百目鬼の名前を出したけど、まさか三角があそこまで激しい反応を示すとは思っていなかったのでは。
天羽が「三角さんには内密に」と言った。なんでだ?
話の流れでなんとなく、を装って名前を出したらどうなるんだろうげへへ、くらいだっただろうにあの反応。
何百人もいる構成員の中でも下の下、4年前にほんの数か月所属していただけの男を覚えているだけじゃなく「気に入らない」と言う。
「矢代に付けていたのは」と問いただす。

神谷が行くはずだった矢代連行に百目鬼が行った。
矢代の護衛・監視も神谷のはずだったのに、百目鬼がすることになった。
矢代との再会後、感情が揺れるようになった百目鬼。
百目鬼を捨てたけど、百目鬼に落ち度はない、むしろ百目鬼のためを思ってと語った矢代。
矢代を溺愛する三角が、百目鬼を気に入らない。
点と点が線でつながっていく。

道心会に手を引かせ、奥山組との抗争を本格的に始めようとしている綱川は百目鬼を大きな戦力として考えている。
なにかあったら、矢代を最優先にするであろう百目鬼を、綱川はどうするだろう?
三角に「極道の鏡」と言われた綱川は。


影山は矢代が組を解散した後、闇カジノのオーナーになったことを知っている。
矢代は久我が整備士に転職したことを知っている。
でも影山は矢代がヤクザからは足を洗ったと思っていた。
ふたりはこの4年間、つながりは途絶えておらず、たまに会ってはちょっと会話したりしていたんだろう。
矢代がふらっと立ち寄って「元気ぃ?」と声をかける程度だとしても。
(久我が、七原には「超久しぶり」と挨拶したところを見るに、矢代ひとりで来ていたと思われる)

影山の目には、百目鬼を手離した後の矢代は、どう映っていただろう。
他人に興味がなく、自分にすら興味を持たず、まっとうとは言い難い仕事を続けている矢代。
前に会った時より瘦せたか?とか顔色良くないな?とかそういう気づきはあったかも。

矢代が手離して足を洗わせたはずの百目鬼がヤクザになっていて、その百目鬼と矢代が再会していたことを知る。
影山が、帰り際の矢代にかけた言葉
「大丈夫か?」
鈍いと評判の影山が、矢代の心情を慮る。
久我から「矢代は百目鬼に惚れている」と聞かされてから、百目鬼を手離した矢代を影山はそれなりに気にかけてたんじゃなかろうか。
そして、百目鬼がヤクザの世界に今もいるという話が出ると、矢代が緩やかに黙り込み、視線を落とす。
いつもの矢代と様子が違う。
鈍い影山にもわかる、押し殺した動揺。

大丈夫か、と声をかけるとまた矢代が黙り込む。
そして
「おっさんが気色悪ィ心配してんなよ」と返す。
つまり影山が何を心配したか、矢代は理解したのだ。


矢代の身体の変化を百目鬼が知り、追い詰め、抱いてから2週間。
毎日来たらいいと思うの、とは前回思ったけどホントに百目鬼ほぼ毎日通ってるかも。
あんなに「何度も何度も」言ってるし。
そして毎回部屋にいて百目鬼を迎え入れる矢代。
来たけりゃ勝手に来ればいいだろ俺はいないけどなじゃないんですよ。部屋で待ってるんですよ。
忙しいだろうから来ないかも、と思いつつ。
そして部屋に入ってすぐ、1秒も無駄にできないかのように手を差し伸べ、飢えた獣が獲物を貪るかのように抱き、会話もないまま帰っていく百目鬼を見送る。

百目鬼が帰り支度をする背中を見つめる目も
ぽつりぽつりとこぼれるようなモノローグも物憂げ。
そして影山の問いかけ。
――俺は大丈夫なのか?

矢代は百目鬼への想いを、再会後自覚した。
自覚はしたけど、それを受け入れられないでいた。
百目鬼の言動に傷つき、それを百目鬼に伝えた。
百目鬼は態度を一転、まるで4年前のように矢代を抱いた。
その「優しいセックス」におびえたものの、百目鬼に抱かれた矢代は、「また来ます」と言って帰っていく百目鬼を見送りつつ、己の矛盾に苦悩する。
百目鬼に優しくされたい自分、でも優しくされれば怖くなり逃げたくなる自分、なのに抱かれて全身で感じ、百目鬼にしがみつく自分。

百目鬼が部屋に来る理由はそれ/セックスしかない、と思い込む矢代は、それがつらく、寂しいと感じ始めてる。
帰って行く背中をじっと見つめる。
矛盾に切り刻まれる心の痛みが、自ら百目鬼に語った「好き」だということを、矢代がついに、ようやく受け入れたんだとしたら。

人を好きになることが怖い。
想いを伝えて、あるいは想いが伝わって
拒絶されたら、捨てられたら。
でも、それでも。

初めて受け入れた恋情が痛い。
怖い、つらい、なのにどうしようもなく百目鬼が愛しい。
そして自分も百目鬼に想われたい。
あの頃みたいに。
(影山の「惚れてたんだろ?」と同時に4年前の百目鬼を思い浮かべたのはそういうことよね)

ダムが決壊するように想いがあふれる。
歯を食いしばってこらえようとしても、想いはもう止められない。
感情の激流に翻弄される。

「勘弁してくれ」
心の叫びが、弱々しくこぼれる。

ていうかね、連日忙しいのに時間作って逢いに来る男が「やりたいだけ」のわけがないんだよねえ。


今回本人不在のあっちこっちで名前出まくりだった百目鬼。
命じられた仕事で奔走しつつ、矢代に逢うための時間を作る。
一緒に行動してる神谷に、なんかしら気付かれたりしてないといいけど。

矢代が言うところの

突然来ては(連絡もしないで)
言葉もなく(話もしたいのに)
何の意味もなく(意味はあって欲しいけど)
(やりたいだけって言ってたし)
本当にそれしかないと感じるくらいには(だってホントにそれしかしないし)
何度も(昨日も)
何度も(一昨日も)
何度も(その前も)
来ては帰った(帰っちゃうのか……)
(泊ってけ、と言える立場でもないし……)

※矢代のモノローグなので、こんな感じの二重構造と妄想。
 大体合ってる気がする!

連絡したら逃げられそうな気がするのでしない。
(根深いトラウマ)
元々無口なうえに、売り言葉買い言葉も言葉攻めも必要なくなったし。
(会話よりキス優先説)
何の意味もないわけがない。
矢代に逢うこと。
矢代の身体に触れること。
少しずつ優しいセックスに慣れさせること。
他の男たちとの接触を断たせること。
……などなど深読み。
セックスしかしてないかもしれないけど、意味はてんこ盛りなのでは!
そろそろ着替え数着持ち込んで一緒に寝てから仕事に戻ってもいいと思うよ!

******

次号はお休み。
おそらく9巻の準備。
58話が久しぶりの登場人物出まくりで、いよいよ物語がクライマックスに向けて走り出した感じがします。
がんばって元気に生きねば。

******

最後にもうちょこっと。

〇百目鬼が桜一家預かりのこと
もしかして三角は知っているのでは?と思ったりしたこともあったけど、何百人の構成員を抱え、あやうい問題も絶えないヤクザのトップがよその下っ端のことなんてわかるわけないかー。
と、今回の綱川との会話で思い直すなど。

〇天羽と綱川
天羽の無表情「コロス」は意外w
そして天羽なので冗談っぽくないところが笑える。
そんな天羽を綱川は心底面白がっている。
天羽と綱川のつながりは絶妙に良い感じ。
今後の抗争で綱川が百目鬼を切り捨てようとか捨て駒にしようとか考えた瞬間に、「天羽が連れてきた男」であることを思い出して踏みとどまってくれたらいいのになー。

〇水も滴る
矢代の回想で、訪ねてきた百目鬼の顔や肩に水滴が。
ラストのシーンが4年後・第2部初の雨!と思ったんだけど、これも雨なのかな。
もしかして訪問前にシャワー浴びてきたか、
全速力で矢代のもとに走って来た百目鬼の汗か。
(囀るの雨には深い意味があると思い込んでるのでつい気になる)


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