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生まれたての光

「今日も暑い一日となります。皆様、熱中症にはくれぐれもお気をつけください」

そう言えば出社前、お天気キャスターが朗らかに告げていたな。
そんなことを言われたら、誰だってなるべく外には出ないようにしようと思うだろう。
最近は、やたらと汗をかくようになったし。
窓から見上げた空は、夏がその力を誇示みたいに抜けるような青空だ。
「いやいや、そんなに気張るなよ」
そんな小言の一つもいいたくなる。

それでも、一歩も外へ出ずに済めせられるはずもなく「よっしゃ、やってやろうじゃないのさ」とばかりに、夏に挑む気持ちで重い腰を上げるのだ。
おもむろにオフィスを出て、エントランスへと向かう。そして、クーラーの届かぬ世界に出たとたん、早々に敗北を悟る。

ただ、そんな刹那にも、そこには美しい光景が広がったりするもので。
日陰のその先、外へとつながる出入口には、まるで生まれたての様な光が輝いていたりする。
陰となった屋内から見やる光の景色は、まるでフレームに納められた一枚の写真の様だ。暗と光、静と動、なんだか外の世界は、希望に満ち溢れているかのように見えたりする。

夏のこの感じが好きだ。

建物の中から外を見やった時、燦燦と溢れるその光に、本当の明るさというものを知る。
そんな時、世界はちょっとだけ優しいものに変わる気がする。

クーラーの効いたロビーの翳から眺める行き交う人々は、まるで活動写真でも観ているよう。
ショッピングセンターのガラスドアの先、傾き始めた夏の日差しが眩しく揺れる。
海の家の奥のテーブルからは、照りつく太陽がなんだか白昼夢みたいだったりする。

夏の翳と光のコントラストは、どこか懐かしく、永遠について考えたりしてしまうのだ。

そんな生まれたてのように輝く光は、あまりにも無垢で、今の自分には眩しすぎる。
だから、どこか哀しく感じたりもするのだ。

#エッセイ #短編 #夏 #陰

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