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2022年12月のFavorite Music

Jaromír Honzák / Twenties

チェコのベーシスト=ヤロミール・ホンザークの新作。シンプルな構造の楽曲で、ノイジーな音も含め、音色や音質への拘りを感じる即興演奏を聴かせるエレクトリックでコンテンポラリーなジャズ。アンビエントや瞑想的な音の感じが今っぽくて良い。今作で初めて聴きましたがJaromír Honzákはチェコのジャズシーンの重要人物で、参加メンバーもオールスター的な感じのよう。キーボード=Vít Křišťanの音が全体の雰囲気を作り、ギター=David Dorůžkaとサックス他=Luboš Soukupがそれを踏まえた音色&プレイで広がりや奥行きを加えていく感じ。様々な聴きどころがあるけど、浮遊感のあるギター、柔らかく伸びのあるサックス、まろやかで淡い煌めきを含んだ繊細なキーボードの音色が印象的で、ゆらゆらと解決しないで漂うようなフレーズが心地よい。柔らかい光に包まれているような、抽象度が高く瞑想的な雰囲気のあるタイトル曲が特に好き。

Matt McBane & Sandbox Percussion / Bathymetry

アナログシンセにヴィブラフォンやドラム、ピンポン玉やボウルも使ったエレクトリックでアンビエント&ASMRなミニマル・ミュージック。シンセの低音が効いていて、海底で岩の様子や水の流れ、光を感じているような心地良さ。

Eve Risser Red Desert Orchestra / Eurythmia

フランスのピアニスト=イヴ・リッサーによる、西洋のクラシックとアフリカの伝統音楽が融合したジャズ・オーケストラ。難解さもあるけど、バラフォンなどの西アフリカの伝統楽器の音がつくるポリリズムが心地よく聴きやすい。管楽器やシンセの即興演奏による不協和音やノイズの使用、叙情的な和声や楽曲の組み立てなんかは西洋的な感じで、西アフリカの伝統楽器の音やフレーズ、リズムがとても印象的。どちらが主という訳でもなく、相互に絡み合ったり、いろんな面が強調されて見えてくるような楽曲でとても面白い。バンドキャンプによると、メンバー全員が楽譜を読めるわけではなく、"作曲の効率化"を避けたゆっくりとしたプロセスを重視するため、ほとんどの曲はイヴ・リッサーが口頭でアイデアを伝え、それをメンバー全員でアレンジしていったとのこと。西アフリカの伝統伝達者グリオが行う口承伝承のようで、こういった過程の中で音楽以外の文化や物語みたいなものが共有され、お互いを認め合うような演奏や楽曲の雰囲気に影響している感じがする。こうして行われた文化の伝承・共有・理解等による創造が今後どう繋がっていくのかも気になる。

Mthunzi Mvubu / The 1st Gospel

南アフリカのサックス奏者、フルート奏者のデビュー作。メロディアスなサックスと、力強く軽やかな煌めくようなピアノが印象的で、時々入るシンセや控えめなエフェクトの使用がモダンな雰囲気を感じさせるスピリチュアルなジャズで良かった。基本的には軽やかでリラックスした雰囲気があり、程よくアグレッシブで、ロマンチックだったり、ポジティブなフィーリングを感じる。Mthunzi Mvubuは14歳からプロとして活動、様々な作品に参加しており、最近だとドラマーのTumi Mogorosiのアルバムにも参加。
Mthunzi MvubuとTumi MogorosiはShabaka & the Ancestorsのメンバー。今回Mthunzi Mvubuのことを調べるまで気づきませんでした。南アフリカのジャズはこれからも色んなアーティストが出てきそうで楽しみ。

Rafael Martini / Martelo

ブラジルのピアニスト。弦楽器やクラリネット等を含む、アコースティックを中心とした室内楽的で緻密なアンサンブルに、エレクトリックでブリブリのシンセベースや打ち込みのビート&生ドラムによるポリリズムビートがかっこいい。長い年月をかけて生態系が生み出す有機的で美しい構造の中をサッと風が吹き抜けるような心地良さがある。大小様々なところで構築されたものが崩れ、再度新たな形が生まれていくようなところがあり、大胆に展開していくけれど、破壊や喪失もプロセスの一部であることが当たり前のようにサラッと表現されている感じが好み。

Karolina / All Rivers

イスラエルのSSWのソロ。RejoicerやAvishai Cohen他、ジャズミュージシャンが多数参加。アフロビート、ジャズ、ダブ、ソウルをミックスした、心地よい浮遊感と少し奇妙な雰囲気のあるアルバムで、シリアスでポジティブな祈りのようなボーカルが良い。Rejoicerの独特なシンセの音色や空間的な音響処理、楽曲全体で程よい隙間を感じさせるタイトで乾いたリズム、Avishai Cohenの掠れたトランペットがいい感じ。Jenny Penkin 、Amir Bresler、Eyal Talmudi、Nitai Hershkovits等が参加。

Ralph Heidel / Modern Life

ドイツの作曲家・サックス奏者のセカンド。弦・管・ピアノによるクラシック〜ジャズ的なアンサンブルにエレクトリックなビートを加え、繊細なエフェクトで融合&音響的魅力を引き出し、大胆に展開するネオクラシカル・エレクトロニカ・ジャズ。アコースティックな音とエレクトリックな音のバランスがダイナミックに変化しながら融合・補完しあっていて、電子音に人間的な温かみを感じたり、アコースティックな楽器に含まれるノイズが電子ノイズのように聴こえたり。美しさやノスタルジーや狂気などを感じる音で、ボーカルのある曲もいい感じ。

中村海斗 / BLAQUE DAWN

ドラマー中村海斗をリーダーとしたカルテットのデビュー作。繊細さと力強さを併せ持った反射神経の良いスリリングな演奏が素晴らしいコンテンポラリージャズで最高!イマニュエル・ウィルキンスとか、現代NYのジャズに通ずるセンスを感じる。作曲と即興が高度に融合した、いい意味で緊張感のある気の抜けない演奏で、録音作品としても素晴らしいけど、ライブはさらに凄そう。細かくアクセントに変化を加えて多彩なリズムを叩くドラムだけでなく、バンド全体のリズムのキレが良く、エネルギッシュで疾走感のあるグルーヴがかっこいい。バンドメンバーはピアノ=壷阪健登、ベース=古木佳祐、サックス=佐々木梨子。全員めちゃうまいし、ガツンと前に出るときは出つつ、全体のアンサンブルを壊さないバランス感も見事。佐々木梨子は現在高校生とのことですが、豊かな音色で多彩なフレーズをキレ味よく奏でていて、とても引き込まれる。

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