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2023年のFavorite Albums & EPs

2023年にリリースされたアルバム・EPから特に好きな作品、印象に残っている作品を50枚選んで、Songwhipのリンクと感想(X(旧Twitter)に書いていたものを一部修正)をまとめました。いろいろ考えましたが、ジャンルでまとめたりランキングをつけたりはせず、アルファベット順で並べています。記事の最後にはアルバムの1曲目をまとめたSpotifyのプレイリストもありますので、よかったらアルバムへのリンクや試聴用としてご利用ください。
今年も昨年同様に、ジャズをベースとしてエクスペリメンタルな音を探して聴いていました。また、なんとなく興味深い動きが出ているような気配を感じているブラジル、韓国、アフリカ、ドイツの音楽など、地域を意識して聴くこともあり、特に韓国のジャズは新譜以外も沢山聴いて記事も書きました
個人的に、世の中は一向に良くなる気配が感じられず、この2~3年くらいは軽い鬱的な感じが続いています。強いものの立場に立って、人と違うことを簡単に笑ったりいじったりする世間の雰囲気などにうんざりすると同時に、自分の周りのそういった雰囲気を変えるアクションが十分にできない自分の弱さが嫌になることが多かったです。そういったことが、個人的な音楽の好みに影響があったように思います。とても個人的な好みを反映したものですが、ここで紹介した作品がだれかにとっての素晴らしい音楽・ミュージシャンとの出会いとなれば嬉しいです。

アルバムジャケット一覧

Aguidavi do Jêje / Aguidavi do Jêje

Letieres Leiteが率いたOrkestra Rumpilezzのメンバーでもあるブラジル北東部バイーアの打楽器奏者Luizinho do Jêje率いる打楽器アンサンブルの1st。儀式的で生命力溢れるパーカッション&コーラスの変幻自在なリズム・アンサンブルに圧倒される。エフェクトも使っているけど、アタバキ、ビリンバウ、パンデイロほか、シンプルな構造の楽器が発するアコースティックな音のエネルギーが凄い。

Alogte Oho & His Sounds of Joy / O Yinne!

ガーナ北部のフラフラ族のゴスペルシンガーAlogte Ohoによる、アフロビートやレゲエのリズムにパーカッシヴな歌と管楽器のコール&レスポンス、チープな電子音などによる絶妙な緩さが心地良い、陽気でサイケでエキゾなダンス音楽。めちゃくちゃ楽しい!

Babi / 花降る日

音楽家Babiの10年ぶりのフル・アルバム。様々な童話的世界が面前に広がる、マジカルで優雅&キュートな変拍子満載のチェンバー・ポップで素晴らしい。演劇的な感じや、色んな音が立体的に聴こえてくるミックスもいい感じで、複雑なリズムとアレンジを凄くポップに楽しく聴かせていて、元気が出る。

Banksia Trio / MASKS

ベーシスト須川崇志をリーダーとする、ピアノ=林正樹、ドラム=石若駿の3名によるピアノトリオの3rd。ゆったりとしたテンポの曲の中にも、スリリングで緊張感のある高純度の美しさがスピード感をもって現れる即興演奏が素晴らしい。三者のもつ固有な音色や響き、音質表現をとらえた録音も凄くいい。雨の雫が滴れるようにそれぞれのリズムでつかれずの微妙な距離感を保つ一曲目や、変則的なリズムに歪で分裂していくような和音や調子外れなメロディが絡み合う二曲目など、どの曲もとても面白い。石若駿のドラムは色んなところで聴くけど、このトリオでの演奏が一番好きかも。日本のジャズでは一番よかった。

Berke Can Özcan / Twin Rocks

イスタンブール出身のドラマー、作曲家。鳥の鳴き声や環境音、エレクトロニクスと生の楽器の音を丁寧に重ね、環境と作曲と即興が融合した深遠な空気感のあるアンビエントな音響が素晴らしい。太鼓の自然や生き物を讃え、探究するような音で、Arve HenriksenとJonah Parzen-Johnsonをフィーチャーし、アブストラクトで捉えどころがないけれどポップな感覚もあり、ボーカルのある曲もとても良い。古代リュキアの海岸の一部を巡る旅がもとになっているようで、環境や体験への理解を深めることでみえてきた景色や感覚の記録のよう。

Blue Lake / Sun Arcs

デンマークのミュージシャンJason Dunganのソロ・プロジェクト。自作のツィター、アコギ、オルガン等の音を丁寧に重ね、軽やかでフォーキー、煌めきを含んだ透明感が感じられる一方、瞑想的で柔らかい揺らぎの中に幻想を見るような感覚もある音。冒頭のアコギの演奏にドラムや別のギターの音が重ねられた瞬間、パッと空間が広がり世界の豊かさが立ちあがってくるようで、その後も新しい音がお互いに挨拶をするような親密さをもって重ねられ、全てが有機的に繋がっているような感じがする。水や光、若々しい生命の息吹が感じられてとても良かった。

Bongeziwe Mabandla / amaXesha

南アフリカのSSW=ボンゲジウェ・マバンドラの4thアルバム。クールでアンビエントな電子音を纏いつつ圧倒的な生々しさが感じられる音で、そのバランス感が凄く新鮮だった。ソウルフルで繊細かつ力強いボーカルが素晴らしく、奇跡のような美しい瞬間が何度も訪れる。圧倒的な美しさに触れるような神秘的な感覚と寄り添うような親密さや人間的な温かみ、リアルな空気感が混ざりあった感じが素晴らしく、内的世界や神聖な世界へドップリ浸かるのではなく現実と繋がっている感覚が残っている感じが好み。

Bru._.Jo / Bru._.Jo

エレクトロニクス=Bruno Qualとクラリネット&ボーカル=Joana Queirozのデュオ。森の中での即興演奏を素材に、クラリネットのフレーズや響きをエレクトロニクスで変形・拡張、電子音や環境音と一緒に空間的にミックスしたトランシー&スピリチュアルな音。繊細に音の層を重ねてつくられる、空間に染みていくようだったり、綿のような柔らかな質感を伴って変化する音響的広がりが心地よく、エフェクトされたクラリネットの奇妙な響きの中に浮かび上がる、アコースティックでクラシック的な響きやフレーズの組み合わせが面白い。程よくビートがあるのもいい。

cabezadenego & Leyblack & Mbé / Mimosa

Mbé含むブラジルのアーティスト3名の共作。バイレファンキ、サンバ、ドラムンベース、ラップ等をミックスした、めちゃくちゃエネルギッシュでフレッシュなサウンド&リズムが詰まったアルバムで最高!クラブで浴びるように聴きたい音。

Caroline Davis / Alula: Captivity

サックス奏者Caroline DavisによるAlulaプロジェクトの2作目。監禁された人々の人生をテーマとした作品で、ターンテーブル&サンプル、エレクトニクスを取り入れた変則的なカルテットによるポストバップ、フリージャズ的で刺激的な音。Val Jeantyのターンテーブルによるエレクトリックでアブストラクトな音響と、Caroline Davisのサックス他、アコースティックなノイズを含んだ他のメンバーの音の組み合わせ、反射神経の良い即興演奏がかっこいい。ドラムはTyshawn Soreyで、アルバム後半が特に好み。曲名で名前があがっている人について、恥ずかしながら知らない人ばかりだったので少し調べてみたら、冤罪で投獄されたJoyce Ann Brown、投獄された人のための活動をしてきたSusan Burton、政治活動家Jalil Muntaqim、異端審問所で尋問されたのち、異端信仰で殺されたAgnes and Huguetteなどでした。Caroline Davisは以前ジャズ界の女性作家の楽曲含むリストを作成していたし、社会問題に対して具体的にアクションを起こしていて、そういった活動姿勢もリスペクトしています。

Conic Rose / Heller Tag

ベルリンのクインテットのデビューアルバム。ポスト・ロック、エレクトロニカ、フォーク、ローファイ・ヒップホップ等のエッセンスをテクスチャや音響に拘ってセンス良く取り込み、シンプル&ミニマルに聴かせるシネマティックなジャズでかっこいい!トランペット&フリューゲルホルンのKonstantin Döbenがリーダーのようで、メンバーは30歳前後くらいのようで、まだ若い人ばかりなので今後の活躍が楽しみ。Konstantin Döbenは2021年リリースでよく聴いていたFabia Mantwill Orchestraのアルバム「Em.Perience」にも参加してました。

Daniel Santiago & Pedro Martins / MOVEMENT

ブラジルのギタリスト2名による、川の流れや風にゆれる草木のような、心地良くてリズミカルかつ流麗なサウンドが心地よいギターデュオ。ギターの音の鳴りが素晴らしく、ナチュラルな複雑さと開放的で豊かなハーモニー、流れるようなインタープレイが素晴らしい。ボーカル曲も最高。

Dave Easley / Ballads

Dave Easleyのペダル・スティール・ギターの音を中心として、様々なスタンダードをアンビエント的で抑制されたトーンで、ゆったりと柔らかくきらめくような響きを聴かせるカルテット。Jeff Parkerのギターの音との相性が抜群で、とろけるような揺らぎとまどろみを含んだアンサンブルが堪らなく心地よい。Dave EasleyはAlex Sadnikのアルバム「flight」でもペダル・スティール・ギターを弾いていて、そちらも凄くよかった。どちらもカリフォルニアのBIG EGO Recordsからのリリースで、このレーベルは今後もチェックしたい。

Dave Okumu & The 7 Generations / I Came From Love

オーストリア出身ロンドン拠点のシンガー・ギタリスト・プロデューサーの2nd。ファンク・ゴスペル・サイケ・ヒップホップ・ロック・ジャズ等の様々な音楽を血肉化した、シリアスで力強くディープで濃密な音に圧倒された。ダークなサイケデリアやスピリチュアルな雰囲気、ファンクやヒップホップやレゲエなど、UKの音楽的伝統への敬意が感じられつつ、大人な視点から現在進行形の新しい音が鳴を鳴らしている感じが凄くかっこいい。メンバーはドラムTom Skinner、キーボードNick Ramm、バイオリンRaven Bushなど、Dave Okumu も参加した今年のUKジャズの話題作London Brew(これも凄い)のメンバーとも一部が重なっています。その他、サックスでRobert Stillman、ボーカルでGrace Jones他、様々な注目アーティストが参加。日本語の情報があまりなく、歌詞やコンセプトなどわからないことが多かったのですが、DIG DIGGER DIGGESTさんのレヴューがとても参考になりました。
4つのチャプターにわかれた映像も素晴らしいので是非。
Chapter 1: You Survived So I Might Live
Chapter 2: The Intolerable Suffering of (The) Other
Chapter 3: Seduced By Babylon
Chapter 4: Cave Of Origins

Emin Gök / Silentio

トルコの実験音楽家によるChinabotからの1stアルバム。儀式的な雰囲気があり、不穏さや親密さ、物語性を感じさせるエクスペリメンタルな音。フィーレコの音や電子音の質感が好みで、サックスや弦の音も印象的。リズミカルなビートもかっこいい。

Faten Kanaan / Afterpoem

ブルックリン拠点の音楽家。クラシック音楽からの影響を感じるミニマル&アンビエントな音。美しくてどこか怪しげな雰囲気もあるメロディの反復、様々なうねりや残響を丁寧に組み合わせ、昔から知っていたような懐かしさと同時に、新鮮な違和感がある。

Harald Lassen / Balans

ノルウェーのサックス奏者の4枚目。サックスやシンセ等のテクスチャの組み合わせが心地よく、ノスタルジックだったりやけにキャッチーだったりするメロディと抽象的な表現が自由&ダイナミックに混ざり合う、バランス感覚が面白いジャズで良かった。感傷的な面もあるけどあまりシリアスにならず、基本的に思いついたことや起こったことを楽しむような、ありのままをうけいれるオープンで楽観的な雰囲気になんとなく救われる感じがある。

Isach Skeidsvoll / Dance to Summon

ノルウェーのピアニストのリーダー作。歌心のあるメロディとフリーキーでパワフルな管楽器やピアノの音が印象的な、ポップでスピリチュアルでハードコアなジャズ。エモーショナルで人情味溢れるポジティブな雰囲気にグッとくる。

Jason Moran & Marcus Gilmore & BlankFor. ms / Refract

ピアニスト=Jason Moran、ドラマー=Marcus Gilmore、エレクトロニクス=BlankFor.ms(Tyler Gilmore)のトリオ。テープループ&エレクトロニス、ピアノ、ドラムによるアンビエントでエレクトリック&アコースティックな即興ジャズで、電子音響と即興ジャズの間を漂う、音響や音質への拘りと即興的瞬発力が高度に融合した音で凄い!ジャズのリスナーからもアンビエント・電子音響系のリスナーからも、あまり注目されていなかったように感じるけど、個人的には今年のベスト3に入るくらい大好きなアルバム。

Julia Reidy / Trances

シドニー出身、ベルリン拠点のギタリスト。ギターとエレクトロニクスと声によるエクスペリメンタルな音響フォーク。ドローンによる揺らぎやうねり、爪弾かれるミニマルなフレーズ、様々なギターのテクスチャや響きが雲集霧散する、独特な煌めきを含んだ音響が凄まじい。音の抜き差し、残響音や音の広がる時のスピード感のコントロール、響きの混ぜ方や対比の仕方が絶妙で永遠に聴ける。一つの音や響きに瞬間的に意識が持っていかれたり、全体の響きや音の鳴っていない空間を意識するような瞬間もあり、時間や空間が伸縮し、速さと遅さを同時に感じるような感覚にもなる。

Jung Sumin / Intrinsic nature

韓国のベーシストのソロ。数曲でボーカルとピアノがゲスト参加した、幽玄で叙情的なアンビエント・ジャズで凄く良かった。ベースの鳴り、ボーカルやピアノのエフェクト処理が素晴らしく、繊細にレイヤーを重ねた不穏な音響に耳を奪われる。

Koma Saxo / Post Koma

リリースを楽しみにしていたスウェーデンのベーシスト/プロデューサーのPetter EldhをリーダーとするKoma Saxoの新作。ヒップホップやエレクトロニカの手法をジャズの即興演奏に取り入れ、生演奏で解体&再構築したような、過去と現在と未来を感じる先進的なジャズ。一曲が短く、短い曲の中でも頻繁に景色が変わり、Autechreを生演奏でやってるみたいで、今作も凄く良い。前作では弦楽器が加わって室内楽的な感じが強かったけど、今作では最初の頃のメンバーに戻って、よりフリージャズ的な音が増えた印象。ただ、所謂フリージャズではなく、そういった音が素材として演奏されているというか、凄くジャズなんだけど同時に俯瞰した感覚がある。

KNOWER / Knower Forever

ドラマー・プロデューサーLouis ColeとボーカルGenevieve ArtadiによるLAのユニット。ロマンチックでデジタル、クールでクレイジーな未来的なビート・ポップミュージック。パンクな衝動を残しつつポップ&キャッチーなかわいい音で、高度なテクニックでタイトにグルーヴするドラム&高速フレーズを混ぜ込んだファンキーなベースが最高!様々な音楽の要素が含まれていてよく練られているのだろうけどあまりそうは感じさせない、いい意味での軽さがあり、曲のテンポが絶妙で、凄く気持ちよく音がはまっていく感じがする。Genevieve Artadiのボーカルも楽曲の雰囲気にピッタリで、このボーカルしかあり得ないと思わせる説得力がある。

Laurel Halo / Atlas

坂本龍一が自身の葬儀用のプレイリストの最後に彼女の楽曲を選曲したことで話題となったLA拠点の電子音楽家。不穏さの中に甘美でロマンティックな瞬間があり、温泉に入るとお湯が体に染み渡って身体が緩むように、音が体に染み渡り記憶が緩んでいくようなアンビエントで素晴らしい。いろんな人がベストにあげていて、ある意味2023年を象徴するアルバムだと思います。私は参加できなかったけど、2023年12月18日に淀橋教会にて「MODE AT YODOBASHI CHURCH」という実験音楽のイベントでライブがあり、Xのタイムラインに参加した人達の絶賛コメントが溢れたのも印象的だった。環境的にもタイミング的にもベストで、めちゃくちゃうらやましかった…

Linda May Han Oh / The Glass Hours

NY拠点のベーシスト・作曲家。ベース&ヴォイス=Linda May Han Oh、テナーサックス=Mark Turner、ヴォイス=Sara Serpa、ピアノ&エレクトロニクス=Fabian Almazan、ドラム=Obed Calvaireのカルテットによる、変拍子満載で複雑なフレーズにパルス的なビートや歪なループが絡み合う、プログレっぽさもあるジャズ。変則的なアクセントをキッチリあわせることが求められる複雑な構造の曲も、ヴォイスがあることで清涼感や風通しの良さが感じられ、所々で揺らぎや心地良い違和感も感じさせる高度な即興演奏からも自由な雰囲気が伝わってくる。力強いベースの音やフレージングが素晴らしく、ピアノは控えめにエレクトロニクスも使いつつ、タッチや奏法の変化でフッと曲の雰囲気を変えて異なる景色を感じさせる。力強くて優雅、ダークな部分もありつつアグレッシブで生命力に満ちた音で、とてもスリリング。

marceu marceu / Poma

サンパウロの音楽家Marcel Valério de Arrudaのプロジェクト。ブラジルのポピュラー音楽がクラウトロック的でサイケデリックな音響とミックスされたエクスペリメンタルな音で凄く面白い。透明感のあるギターの音がノイズの彼方から浮かんでは消える。

Mbuso Khoza / Ifa Lomkhono

南アフリカのアーティスト。ボーカルがメインなんだけど、全ての音が有機的に繋がり楽曲全体で歌っているような感覚のある、伝統的かつ現代的なスピリチュアルなジャズ&フォーク&ソウルで最高!Nduduzo Makhathiniがプロデュース&ピアノで参加しており、管楽器やギターのフレーズや歌うようなベース、伝統楽器の響きなどが調和した素晴らしい演奏の中にあっても、Mbuso Khozaの深みがあって優しく神秘的なボーカルに寄り添い、語り合い、共に舞い踊るようなNduduzo Makhathiniのピアノの美しさや力強さはとりわけ印象に残る。

MC Yallah / Yallah Beibe

ウガンダのラッパーの2nd。ヒップホップはあまり聴けていないのですが、ダーク&ヘビーで未来感もある多彩なトラックに、キレの良い力強くスキルフルな高速ラップがかっこいい。デスヴォイスやインダストリアルサウンドも反響する、終始ヤバい空気に満ちたとにかくアガる音。

Meshell Ndegeocello / The Omnichord Real Book

ミシェル・ンデゲオチェロのブルーノート移籍後の第一弾。ソウル、ブルース、ジャズなどの様々なアフリカン・アメリカンの音楽が、初めて聴くのにどこか懐かしさも感じるような、普遍的かつ新しい感覚で演奏されていて、全てが尊重され、有機的に繋がっている感じに圧倒された。大好きなジャズ・ミュージシャンが多数参加&個性的で素晴らしい演奏をしているんだけど、全く個性がぶつかる感じが無く、凄く自然かつ自由に個の音が鳴っていて、全体も調和している。現在、過去、未来が繋がり、全ての生命が集い語らうような感覚があり、愛や希望や癒しや赦しを感じるスケールの大きな音。

Moment Joon & Fisong / Only Built 4 Human Links

12月29日の年末にリリースされたラッパー二人のコラボアルバム。このアルバムを聴いてからこの記事はアップしようと決めていました。ハードなものからメロウなものまで様々なトラックがあり、Moment Joonの強さと繊細さの両面がある演劇的で強烈な皮肉を含んだユーモアのあるラップと、Fisongの韓国語と日本語が混在した力強くスキルフルで堅実なラップが描く、日本社会のリアルな描写にやられる。ここでは書ききれないけれど、心を揺さぶるヤバいリリックが満載で、立場は違うし、自分は批判されている対象で不勉強な部分も多いけど、同じ日本に住む人として日本社会に対する問題意識に共感できる部分もあるし、現在は過去の歴史から続いてきたもので、未来へと繋がっていることについての責任と覚悟が伝わってきて、自分の生き方に目を向けさせられる。短い言葉では語りにくいし、まだ十分に聴き込めていないけれど、選ばずにはいられないアルバム。

Nara Pinheiro / Tempo de Vendaval

ミナス出身の音楽家・フルート奏者のSSWとしてのデビュー作。アコースティックとエレクトリックが融合し、色彩豊かに風や水のように自由に形を変えていく心地良い浮遊感のあるハーモニーが美しく、器楽的感覚もあるボーカルが素晴らしい。歌と演奏がナチュラルに融合しつつも、しっかりと言葉が印象的に響いてくる。ドラムとピアノでAntônio Loureiroが参加しており、シンセの使い方や全体の音の融合の仕方にはAntônio Loureiroのセンスを感じる。

Natalia Kiës / Phœnix

ケルンとNYを拠点とするピアニスト・SSWの1stソロ。ミュージック・コンクレート、ミニマル、クラシック、ジャズ等の要素があり、軽やかに複雑なステップを踏みながら様々なイメージに飛び込み、融合、越境を繰り返すようなポップ・ミュージック。多面的で精緻に設計された感じがありながら、見晴らしが良くのびのびとした自由な空気も感じる。Natalia Kiësのピアノとボーカルの表現力が素晴らしく、楽曲は知的かつ実験的・挑戦的でリズムも面白い。ベースでMoto Fukushima、パーカッションで小川慶太が参加。

Nite Bjuti / Nite Bjuti

ボーカリストCandice Hoyes、ドラマーVal Jeanty、ベーシストMimi Jonesによるトリオ。呪術的なボーカル、太くウネるベース、ミニマルで変則的なドラムやパーカッションの音をベースに、エレクトロニクスを用いてディープかつスリリングで心地良いグルーヴと音響を作り出す、エクスペリメンタルでダブな即興ジャズ。初めて聴いた時めちゃくちゃ興奮した。

Radian / Distorted Rooms

ウィーンのポストロックバンド。音の響きやテクスチャに注目してアンサンブルを組み立てて、歪なリズムのエレクトロニカをバンドで表現したような音楽で、ポストプロダクションや編集がされた音だけど、ダイナミズムやライブ感も感じられてかっこいい。ポストプロダクションによるトリートメントされた音の心地よさと、録音時の即興的なエフェクトによるある意味ラフな音作りやリアルタイムでのグリッチがミックスされていると思われ、それにより分断&再接続された音響の中にもライブ感や身体性が保たれているような気がする。シンプルにかっこいい音が詰まったアルバム。

Raphaël Pannier Quartet & Acid Pauli / Letter To A Friend

フランス出身NY拠点のドラマーRaphaël PannierがMiguel Zenón & Acid Pauliと取り組んだプロジェクト。ミニマルなループに縛られないカルテットの自由な即興演奏、新鮮な音色やテクスチャの組み合わせが最高。アルバムのテーマは、15世紀の画家フラ・アンジェリコが書いた手紙の音楽的表現とのこと。Acid Pauli のエレクトリックな音とカルテットの演奏の相性が抜群で、ECM的な静謐さを感じる音の中に、静かな情熱を感じるMiguel Zenónのサックスの美しさが際立つ。

Rasmus Oppenhagen Krogh / Until Then

デンマークのギタリストの3rd。控えめで繊細に余白を聴かせるような演奏が素晴らしく、美しいハーモニーやメロディが耳を捉えては消えていく、シカゴのポストロックやECMの作品と親和性のある音響派ジャズ。静けさが際立つ落ち着いた魅力のある作品ですごく良かった。

Ricardo Dias Gomes / Muito Sol

カエターノ・ヴェローゾのアルバムやツアーにも参加したブラジルの音楽家のソロ三作目。柔らかく優しいボーカルに、丁寧に重ねられた音の層からドローン・サイケ・ジャズ・ハードコアなど様々な要素が浮かび上がる実験的なアレンジが素晴らしいMPB。今年聴いたブラジル音楽の中で一番の驚きでした。結構いろんな人がベストに選んでいた印象があります。

Rodrigo Campos / Pagode Novo

ブラジルのカヴァキーニョ奏者、SSWの新作。シンプル&ミニマルかつ挑戦的なアレンジがされた、伝統的な魅力と未来感が同居したサンバやボサノヴァ。ディストーションや透明感のある電子音を効果的に使った音響的な楽しさもあって素晴らしい。Meta MetáのJuçara MarçalやQuartabêのMaria Beraldo他、好きなミュージシャンがゲストが多数参加していました。

Samuel Rohrer / Codes of Nature

スイスのドラマーによるソロ作。モジュラーシンセやエレクトロニクスによるエレクトリックな音と、変則的でクールかつリズミカルなドラムやパーカッションの演奏が作る揺らぎが心地よい、アンビエントでミニマルなダブ・テクノ的な音で最高!エレクトリックとアコースティック、シャープでキレの良い音や幽玄な音、ほんのり温かみのある音などの様々なテクスチャの音が有機的に絡み合い、ゆっくりと空間を侵食していくように徐々に変化していく感じが癖になります。メロディがスッと入り込んでくる瞬間があったり、盛り上がりすぎない感じも好み。

Scott Orr / Horizon

カナダのSSWによるゆったりとしてエレクトリックなアンビエント・フォーク。可愛らしいリズムと、フィーレコや声を使った独特な音響アレンジが印象的で、ボーカルのリバーブのかけ方がとても心地良い。全ての音が優しく控えめで、静かな肯定感を感じる。

Siv Jakobsen / Gardening

ノルウェーのSSW。現実を見つめるナイーヴでヒリヒリとした剥き出しの感覚と、それ故に切実な希望や祈りが同居したような声に、孤独や不穏さを含みつつ癒しや救いを感じるシネマティックで幽玄なサウンドが素晴らしいです。フォーキーなギターと声を中心として、弦楽器の重厚さや管楽器の風通し良い音を効果的に使い、上品にエレクトロニクスも取り入れたアレンジやミックスもすごく良い。傷ついた心に寄り添い、優しく包み込むような、凄く生々しく、かつ神秘的な音。一年通してよく聴き返したくなるアルバムでした。

Steve Lehman & Orchestre National de Jazz / Ex Machina

NYのサックス奏者Steve Lehmanとフランス国立ジャズ管弦楽団(ONJ)のコラボ作。エレクトロニクスとオーケストラを用いた様々な音色の組み合わせ、音のぶつけ方・融解のさせ方による斬新な音響に、シャープなリズムと自由に飛躍するフレーズが複雑に絡み合うラージ・アンサンブル・ジャズ。リズミカルなフレーズやドラムの打音がパズルのピースをはめるように驚きと確信に満ちて響き、どんどん形を変えていく多面的なアンサンブルに圧倒される。リキッドな質感の溶けるような音響や残響音まで計算されたようなハーモニーの揺らぎが素晴らしく、今まで聴いたことのない響きが沢山聴こえた。

Suwon Yim / Guilt or Tragedy

韓国のピアニストのトリオ作。ピアノが率先して前に出るのではなく全体をまとめる感じで、複雑にリズムをミックスした手数の多いドラムや、ベースのタッチやフレーズが印象に残る現代ジャズ。楽曲の幅が広く、アルバム通して凄く良かった。クラシック、モダンジャズ、ヒップホップなどを自然に取り込む作曲や全体のバランス感のセンスが好みで、なんとなく若い頃の感情を思い出させる楽曲が多い。メロディが綺麗だったりして親しみやすさがありつつ、サウンドやリズムの多様さがあり、フリーな展開へも繋がる自由さもいい感じ。ベースのHwansu Kangが自由で印象に残る演奏をしていて、Suwon Yimの懐の深さというか、プロデュース力の高さを感じる。ドラムのSunbean Kimは今回初めて知りましたが、サウンドコントロールに拘りを感じる演奏がとても良い。YouTubeにyoungwoo lee、hwansu kang、hanearl lee等の気になるミュージシャンとの演奏動画もあったので、今後もチェックしていきたい。

Svitlana Nianio & Tom James Scott / Eye of the Sea

イギリスのTom James ScottとウクライナのSvitlana Nianioのコラボ作。自身の出した音に導かれるように丁寧に奏でられる柔らかいピアノと神秘的なボーカルが素晴らしい、幻想的で美しいアンビエントで凄く良かった。

Tilo Weber / Tesserae

ドイツのドラマー&作曲家。Petter Eldh、Elias Stemesederとのトリオ+ゲストによる演奏で、ハープシコードの音が印象的。バロック的な古典の雰囲気とポップで未来的な感覚のミックスが新鮮で、変拍子が交錯するスリリングでかわいいジャズ。Tilo Weber、Petter Eldh、Elias Stemesederの3人は大好きなOtis Sandsjöの「Y-OTIS」に参加しており、この辺の人たちの作品はどれも凄く好き。

カネコアヤノ / タオルケットは穏やかな ひとりでに

いろんな人が褒めているので気になっていたのですが、今年初めてちゃんと聴きました。曲と向き合ったときにひとりでに出てきた気持ちの揺らぎを、不安定な所も含めてそのまま剥き出しで表現したような、狂気を感じるほどの切実さと繊細さと強さのあるフォーク&パンクなギター弾き語り。日々の中で感じる心の機微に絶妙な言葉を与えるような歌詞、ギターとボーカルの表現力が素晴らしくて、音が自分の中に入り込んで広がるスピードが凄く速いのでサイケデリックな感覚にもなる。日常から生まれた、彼女自身のための祈りや叫びのようでありながら、彼女が歌っていてくれることでこちらが救われるような感じがした。先にリリースされたバンドアレンジの「タオルケットは穏やかな」は、弾き語りと比べてとても安心できる場所でのびのびと歌っている感じで、不安や孤独を表現していても常に誰かが寄り添っている感じがして、バンドの音と無邪気に戯れているような、バンドっていいなーと思える音。「あなたもこのバンドの関係性の中に入ってきていいよ」って言われているような、優しく包み込まれるような感じがした。どちらもよかったけど、個人的には「ひとりでに」にやられた。

高山燦基 / 掬ぶ

京都の音楽家の1st。サイケ&アンビエントな音響的魅力もある、シンプルで余白の多いアレンジと儚く優しいボーカルが素晴らしい。音の鳴っていない瞬間、音色や音程の揺らぎへと意識が向き、リズムのずれや不意な音の強弱、間の取り方など、全てが心地良い。ある風景とそこにある心情の揺らぎを曖昧なまま丁寧に音にしたような、光や風や温度が感じられる映像的かつ身体的な感覚にも作用する音で、夜の空気が窓から入り込む様子が感じられる一曲目冒頭のギターとボーカルの録音の感じからグッと心を掴まれた。その後のアレンジ・演奏も最高なので是非聴いてほしい。CDの装丁にも拘りが感じられ、ものとして持っておきたくなる。黒と灰色の2種類のジャケットがあるようで、私は黒を購入しました。

野口文 / botto

C子あまねのメンバーによるソロプロジェクト。ミニマル、フリー、ジャズ、ヒップホップ、ロック、ラテン等の様々な要素を変則的なリズムとミックスした曲に、歌やラップをのせて聴き心地はポップでナチュラルにまとめていて凄くかっこいい。色んなタイプの曲があるけど全体の雰囲気には共通したものがあり、フリーなフレージングやノイズを使用したり、複雑なリズムに意外な展開や不思議なアレンジがされていたりするけど、トータルの印象に難解さはなくてキャッチーだったりもする。ドラムやパーカッションの音色やリズムが凄く好み。

細井徳太郎 / 魚 _ 魚

SMTK等で活躍するギタリスト細井徳太郎のうたものソロ。即興演奏を積極的に取り入れ、過去と未来を繋ぐようなポップ・ミュージック。日記っぽい雰囲気があり、日々の暮らしの匂いを感じるとてもリアルなライブ感のある音で、なんとなく外に出て人に会いたくなる。ロック、メタル、ファンク、フォーク、ジャズ、ノイズなど様々なアプローチのギターの音が聴こえるんだけど、色んな音やスタイルが違和感なくうたのもつ世界観と融合しており、それらが狙ってつくったのではなくバンドメンバーとの関係性や暮らしの中から自然に出てきた感じに凄くグッとくる。ライブをみたり、クラブで踊ったり、友達の家でダラダラしたり、部屋で一人で音楽聴いて本を読んだりネットしたりして、たまにふっと不安になったり寂しくなったりした大学生の頃の感じを思い出した。ノイズも含んだ、オープンで柔らかくエモーショナルな音に救われるような気持ちになった。

谷水車間 / 家庭

中国の3人組バンドの2nd。ジャズ、ポストパンク、サイケな楽曲に程よくエレクトロ要素もあり、ノイジー&サイケなギターとポップなボーカルの組み合わせがかっこいい!音作りやフレーズ、曲の魅力や面白さが引き立つ、余白を感じるミックスや演奏もいい感じ。

最後に

最後まで読んでいただきありがとうございました。
個人的な話になりますが、2019年からサブスクを利用するようになり、これまで聴いたことの無かったアーティストを気軽に聴けるようになったことで、好きなミュージシャンがどんどん増えました。2023年は、そのころに知ったアーティストの新譜のリリースがあったりして、なんとなくサブスクを使った音楽の聴き方が一回りしたような感覚があります。サブスクを使うようになったことで無限に聴きたい音楽が増えたことにより、「新譜のアルバムを中心に聴く」というマイルールをつくったのですが、そろそろ違う聴き方をしてもいいかなという気がしています。なにかしらルールがないと、聴きたいものが多すぎて翻弄されてしまいストレスになってしまうので、まだどうするかはわかりませんが、何かしら新しい聴き方を模索してみようかとも思っています。

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