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ブックペアリング01 『悪魔のピクニック』タラス・グレスコー著 早川書房 ×『幻の黒船カレーを追え』水野仁輔 小学館

『悪魔のピクニック』タラス・グレスコー著 早川書房 ×『幻の黒船カレーを追え』水野仁輔 小学館

渇望

世の中には法で禁止されている物や、存在するか不明の物がある。
人はそういうものほど求めてしまう習性のある生物である。
たとえそれが犯罪であろうとも、たとえそれが生涯をかけて徒労に終わろうとも。

『悪魔のピクニック』の副題は「世界中の「禁断の果実」を食べ歩く」で内容は副題そのまんまである。
一番最初に出てくるノルウェーはヨーロッパで一番酒類の規制が厳しく、買うための手続きが大変な国である。
だから酒に対する渇望は凄まじいものがある。
博物館内のレプリカの酒棚にある酒瓶(中身は色水)の前に「飲んではいけません!」と標識がたっており、航空会社のキャビンアテンダントはドリンクカートを明け渡して、殺到するノルウェー人から退避する。
そんな国だからイェベレメントという度数96%越えの密造酒が各家庭で盛んにつくられている。そして密造、密輸した酒を政府に絶対に見つからない所、胃袋にしまい込むため週末にはどんちゃん騒ぎが始まる。
他にも、無殺菌牛乳でのチーズ作りが危険視された時、「ならこれでどうだ!」とばかり半導体工場並みの衛生基準で「世界一臭くて美味い悪魔のチーズ」エポワスを作り続けるフランスの業者等、良くも悪くも、禁止され、もしくは禁止されかけた食物を渇望する人間が数多く登場する。
『悪魔のピクニック』では渇望しているのは取材対象の第三者であることが多かったが、こちらは著者が渇望する人である。
題に「幻」とつくだけあってこの世に存在するか不明な物「日本のカレーのルーツ」を追いかける男の話である。「日本に入ってきたのはイギリスのカレー、そして蛙のカレーでした。」……というのが割と良く知られた蘊蓄である。しかし、著者はそんな通り一遍の蘊蓄では満足しない。レシピが存在することと、そのレシピが良く使われたかは別の話である。
三ヶ月かけて「日本のカレーによく似たトロミのついたカレー」と当時のカレーに関する文献を探すため、家庭のある身で安定した仕事を辞めて無職となってイギリスに旅立つ。その間、「俺は一体何をしているんだ?」と自問自答しつつイギリスでカレーをひたすら食いながら探求を続ける。生涯をかけてあるかどうかさえわからない物を探し続ける著者の旅の記録。


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毎月第二月曜日は、ブックペアリングと称して、二つの本を抱き合わせる至福の感想をお届けいたします。

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