〈33.ハドソン川〉
僕たちはステファニー先生と一旦別れて、アンサーくん、アンさん、キングくんと一緒にハドソン川の川辺のカフェで景色を眺めた。ここはニューヨークで1番の夜景スポット。摩天楼の景色がよく見えて、夕日が沈もうとしていて、景色が夕焼けに照らされて綺麗だった。遊覧船の汽笛がポーッと鳴った。
アーサーくんはつぶやいた。
「綺麗な景色だ。私は時間がある時はいつもここに来てハドソン川を眺めている」
「アーサーくんのお気に入りの場所なのね」
アンジュちゃんは共感した。
「アーサーくん、アーサーくんがここでくつろぐ時はいつも心の中にモルダウが流れてるでしょ?」
アンさんが冗談っぽくそう言うと、アーサーくんは答えた。
「私はモルダウよりもレッドザリバーランの方が好きだな」
「へぇ、意外!普通のポップミュージックじゃない!」
アンさんは驚く。僕は共感した。
「僕もレッドザリバーランは好きだよ。ワーキングガールという映画の主題歌になったよね。レットザリバーランは高校生の時に聴いて僕のお気に入りの曲になったよ。そして僕が、川が好きになったきっかけ」
それに対してアーサーくんはこう言った。
「それもそうだけどもう一つあるだろう。レッドザリバーランが主題歌になったドラマ。ホテルっていう日本のドラマだよ」
「ああ、そんなのもあったね」
「あのドラマは私が、日本が好きになったきっかけだ。そういうドラマをアメリカでも作るといいなと思った」
そのドラマは高嶋政伸さん主演で高級ホテルのホテルマンやホテルガールがそのホテルのために頑張るという物語だった。
それに対してキングくんは、
「そんなドラマ、アメリカじゃウケないんじゃねぇか?」
と疑った。
僕はアーサーくんについて思ったことを言った。
「アーサーくんって時折り優しい側面を見せるんだね。一見すると英国貴族の厳しいリーダーみたいな感じだけど、庶民にも優しいし、今だってこうやって僕たちと仲良く交流してるでしょ」
「それも日本の影響だよ。日本の和の心や庶民の人情に触れる内に、法令遵守だけでなく優しさも大切だと気付いたのだ」
♪♪♪
川を流れさせよ
夢想家全員が国を目覚めさせよ
来たれ、新しいエルサレム
銀色の街が台頭
朝が彼らを導く街路を照らす
そしてサイレンが歌で彼らを呼ぶ
♪♪♪
カフェの店員さんがレッドザリバーランをかけてくれた。すると、キングくんは歌詞の解釈を言った。
「この歌の中にニューエルサレムという歌詞が入ってるけどそれは多分ニューヨークのことを指してると思うよ」
アーサーくんはそれに対して追加した。
「エルサレムとはキリスト教の聖地である。ニューヨークはプロテスタンティズムの拠点である。プロテスタンティズムこそ資本主義の原点である。カトリックの中心地がバチカンであり、プロテスタンティズムの重要拠点はニューヨークである」
僕はそれに対して感想を言う。
「そっか。僕が今まであまり知らなかった宗教拠点としてのニューヨークの一面だね」
ダイアナさんはこう言った。
「アメリカは自由の国よ。誰でもアメリカに住んでいいのよ。ニューヨークの自由の女神像は誰でもアメリカに来ていいと誘う自由の象徴なのよ」
それに対してキングくんは、
「ラスタファリアニズムではニューヨークはバビロンと呼ばれてるぜ」
「バビロンって?」
「バビロンってのは犯罪都市さ。地球上にキリスト教が生まれる前、バビロンでは犯罪が盛んだったと言われる。キリスト教が生まれたのはそんな社会を失くすためさ」
それを聞いて僕は気づいた。
「そういえばキングくんってキリスト教徒だったんだよね。ここにいる中でキリスト教徒って言えばキングくんだけだ」
「ニューヨークがバビロンと呼ばれるのはゲットーがあるから?」
アンジュちゃんは聞いた。するとダイアナさんは訂正した。
「違うわ。ウォール街があるからよ。ニューヨークの金融街が資本主義の中心で、搾取が行われてるから世界の貧困の原因になってるのよ。
宗教拠点としてのニューヨークはもう潰れた方がいいわ。ニューヨークは終わりよ。世界はこれからどんどん変わっていくのよ」
アンジュちゃんは反論した。
「そんなことないよ。ニューヨークはこれからもずっと繁栄し続けるのよ」
「いや、あなたの考えは違うわ。ニューヨークは変わるのよ」
アンジュちゃんとダイアナさんは言い合いをした。
するとアーサーくんが意外なことを言った。
「ダイアナさんの言う通りだ。」
「えっ!?」
アンジュちゃんも他のみんなも驚いてアーサーくんにに注目する。
「アメリカは自由の国だ。人も変わる。街も変わる。国も変わる。 川を流れさせよ。それこそ国の目覚めである」
僕も驚いた。
「アーサーくんがダイアナさんの肩を持つなんて」
みんな驚きで言葉が出なくなり沈黙してしまった。
つづく
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