〈森のお姫様〉

 人里離れた森の中。鳥の鳴き声や川のせせらぎ、風のざわめきに混じって、少女の歌声が森の中で響いていた。少女はすそとそでがギザギザになった服を着ていた。少女の名はアンジュ。11才。倒木をひょいと乗り越え、鳥たちに歌を聞かせながら、歩き慣れて獣道のようになった道を歩き、川を渡った。

「 誰も知らない森の奥 秘密の小部屋に住んでいる

私は森のお姫様 妖精たちの夢の国

深くて暗い湖の 300年の眠りから

小鳥の声で目が覚めた おとぎの国のアンジュ姫 」

 その日は春真っ盛りだった。アンジュは毎日のように森に遊びに来ては歌を歌っていた。森は日に日に草花で色とりどりになっていた。鳥たちも盛んに鳴くようになった。まるでアンジュの歌で森が目覚めているようだった。

 前の年と比べても森の様子は違った。種類の少ない背の高い草だった所が色鮮やかな花畑になった。森の中では木の実やきのこが増えていて、それを食べる栗鼠(りす)や兎(うさぎ)も増えていた。

「いつかこの森がかわいいお花やおいしい食べ物や動物でいっぱいになったらいいな。」

 アンジュはそう願いながら歩いた。

 アンジュは森で食べ物を集めて歩き、それをお弁当と一緒に花畑で食べた。 



 すると近くに狐(きつね)が通りかかった。

「あっ、狐さん、こんにちは。」

 アンジュは挨拶した。狐はじっとアンジュを見ていた。この森では狐はあまり見かけなかったのでアンジュは嬉しくなった。

「そっか、この森には狐も来るようになったのね。」

 アンジュは狐に話しかけた。

「どこから来たの?」

「あなたの森には他にもたくさんの狐がいるの?」

 アンジュはいろんな質問をしたが狐は答えることはなかった。

「いつか本当におしゃべりできたらいいのにな。そして動植物の森の迷宮を案内してもらって秘密を知りたいな。」

 狐は歩き出した。ゆっくりとしたスピードだった。まるでついてきてと言っているようだった。アンジュはついていった。

「あなたのふるさとへ案内してくれるの?」

 アンジュは本当に狐と話しているかのように話しかけた。そして辿り着いたのはアンジュが見たこともない場所だった。

 よく分からない物がたくさん山のように置かれていた。そこはガラクタ置き場だった。だが、そのときのアンジュにはそれがなんなのか全然分からなかった。

つづく

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