〈22.ニューヨーカー風の軽口〉
「ちょっと寄り道しましょ」
僕たちはニューヨークの高校に行く前にダイアナさんが通っているダンススクールを見せてもらうことになった。
ダイアナさんに従ってニューヨークのストリートを歩いていった。通りに音楽が流れていた。ダイアナさんはその音楽のリズムに乗りながら体を動かして歩き続けた。
「道を歩いてて音楽が流れてたらこうやってリズムを取るのよ」
それにアンジュちゃんが共感した。
「分かる。スキップしたりスカートの端を持ったり人とすれ違いざまにウインクしたり障害物があったら華麗によけていくの」
「あなた分かってるじゃない」
ダイアナさんはアンジュちゃんを褒めた。アンジュちゃんは嬉しそうに答えた。
「やっぱり女の子が可愛くなりたいっていうのは世界共通よね」
ダイアナさんはその意見を否定した。
「ちょっと違うわね。女の子が可愛くなりたいなんて日本人だけよ。黒人は女性も男性も強くセクシーになりたいのよ。黒人女性に若いですねっていうのは失礼よ。それから日本人が言いがちだけど、痩せてるねっていうのも失礼よ。アメリカじゃ体が大きい方がいいとされてるのよ」
そこへ奇抜な格好の男性が現れた。
「よぉ、お姉ちゃん! あんたの帽子イカしてるね。今日は子供たちとお散歩かい?」
僕は身構えた。ナンパか?カツアゲか?と思った。けどダイアナさんはにこやかに対応する。
「あなたのカッコも素敵よ」
その男性は僕にも話しかけた。
「兄ちゃん、その帽子似合ってないね」
「えっ、そうですか?」
僕は戸惑った。
アンジュちゃんにも話しかけた。
「君、野原に花でも摘みに行くのかい?」
「うん、天気もいいからそれもいいかもしれない」
アンジュちゃんもにこやかに対応する。
男性はまほろちゃんを見て驚いた。
「わっ!人形が動いてるのかと思ったよ。ハハハ」
「フフフ」
まほろちゃんは笑顔になった。
男性はまたダイアナさんに向かって行った。
「あんたの可愛い帽子を友達にも見せたいんだ。ちょっと写真撮ってもいいかい?」
「いいわよ」
男性はダイアナさんの写真を撮った。ダイアナさんはカッコよくポーズを取っていた。
「じゃあこのお金でもっと素敵な帽子買ってくれよ。じゃあな。人類に平和を」
その男性はダイアナさんに5ドル渡して去っていった。
僕はよく分からずに呆然とした。
「何だったの、今の男性?」
「今のはストリートスナップよ」
「えっ、そうだったの? 通りがかりの陽気な人だと思ってた」
するとまほろちゃんが共感した。
「分かるわ。直接お願いして説明口調で語ってお辞儀して、なんていうのは野暮なのよ。ちょっとした劇をするような感覚でノリに乗ってウィットの効いたジョークを言うの。それがクールなのよ」
ダイアナさんはまほろちゃんのことも褒めた。
「あなたも分かってるわね。ニューヨークじゃこういうノリが大切なのよ。ニューヨークで有名になりたければこういう時に気の利いたセリフを言えないといけないのよ」
「スパイダーマンみたいな喋り方?」
「そう。それがニューヨーカー風の軽口よ」
僕の質問にダイアナさんはそう答えた。僕は何だか自分の野暮ったさを思い知らされた気がした。
そして公園に辿り着いた。
バスケットしている人やバク転、バク宙、ムーンウォーク、コマ回し、ブレイクダンスしてる人がいた。歩きながらバスケットボールを一歩ごとに股にくぐらせている人もいた。🏀⛹♂
「わぁ、なんかすごい!」
アンジュちゃんは感動の声を上げた。僕もまほろちゃんも見とれた。ダイアナさんは僕たちに言った。
「着いたわ。ここがダンススクールよ」
つづく
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