〈13.魔法の儀式〉
ある日、アーサー君がカフェクラブに入ると床に大きな魔法陣が描かれていた。魔法陣の周りでは他の生徒たちが魔法陣の周りをグルグルも回っていた。アーサーくんはそれを見て驚いた。
「君たちは一体何をしているんだ!」
「見ての通り魔法の儀式を始めるんだよ」
僕は冷静に答えた。僕とアーサーくん以外の生徒は見向きもせず無表情で回り続けた。
「これは魔法陣グルグルっていうマンガで描かれた魔法陣で、それで実際に魔法が出てくるかどうか試してるんだ」
僕は笑顔で説明した。
「なんて愚かな。そんな魔法に効果があるわけないではないか!」
アーサー君が魔法陣をよく見ると方程式が描かれていた。
「これは量子力学の方程式ではないか?」
「漫画に描かれた通りに書いただけだよ」
「魔法陣グルグルの作者は量子力学の理解者だったというのか?
ともかく即刻こんな野蛮な儀式はやめたまえ」
するとキング君が無表情のままアーサーくんの前に近づいてこう唱えた。
「3回回ってワンと鳴け」
「えっ、なんだって?」
アーサーくんは訳分からず聞き返す。
アンさんも唱えた。
「 ピーチクパーチクひばりの子」
ロリポップさんも唱えた。
「はじめちょこちょこ中ぱっぱ、赤子鳴いてもフタ取るな」
アーサーくんは動揺した。
「君たちとうとう狂ったのか? 確かに最初から変わり者だと思ってたが」
アンジュちゃんも唱えた。
「プカプカドラゴン塀の上、ネズミチューチュー猫がバー。天使と悪魔の女の子、くるっと回ってあっかんべ〜。」
キング君がまた唱えた。
「ぬるい風呂には入らねぇ。おいらに惚れちゃあ怪我するぜ。家事と喧嘩は江戸の花。山越え谷越え海越えて。驚き桃の木山椒の木、ブリキにたぬきに蓄音機」
キング君は腕をガッツポーズのように曲げて振りながら、
「ウッホッウッホッ!」
と掛け声あげて1歩進んで2歩下がるのを繰り返した。
アーサーくんはハッと気づいたような顔をして僕に向かって言った。
「人に催眠術をかけることは簡単にできる。もしかして君は彼らに催眠術をかけたんだな。即刻催眠を解きたまえ」
僕はこう言った。
「魔法を解くにはアーサーくんも踊らないといけないよ」
キングくんがアーサーくんにヘルメットをかぶせた。それはトゲトゲでカラフルで奇抜なデザインだった。逆さにかぶらせたのでアーサーくんは前が見えなくなり周りに手を伸ばして右往左往し始めた。
僕も唱えた。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」
アーサーくん以外でで大合唱した。
「モローカカリーマエルサムニー、モローカカリーマエルサムニー、モローカカリーマエルサムニー、モローカカリーマエルサムニー!」
騒ぎを聴きつけたピッツギャルド博士がやってきた。
「何の騒ぎだね?」
ビッツギャルド博士はアーサーくんのヘルメットを取り外し叱った。
「アーサーくん、見そこなったぞ。君こそ次期リーダーにふさわしいと思っていたのに、こんなおふざけをするとは」
「いや私はみんながふざけてるのを止めただけで」
アーサーくんが弁解しようとしたけど、その時にはアーサーくん以外は席について コーヒーを飲んでいた。
ピッツギャルド博士は、
「こういうことは二度とないように」
と言って立ち去った。
キングくんは笑った。
「ドッキリ大成功だね」
みんなも笑った。
アーサーくんは怒った。
「やっぱりイタズラだったんだな」
キングくんが手を上げた。
「俺の発案だよ」
「英国貴族を侮辱するとは許されることではないぞ」
それに対して僕は反論した。
「でもアーサー君もコンゴを侮辱していたよね」
アンさんも同調した。
「そうよ、そうよ。アーサーくんだってキングくんを侮辱してたから文句言えないわよ」
アーサーくんは一瞬言葉を失った後、落ち着きを取り戻した。
「分かったよ。それを言いたかったんだな。確かにコンゴを侮辱したのは間違いだった。実は私もコンゴについては深く知るものではない。博学を売りにしている身でありながら恥知らずな発言をしてしまった。
キングくんに謝罪する」
「こっちこそごめんよ。ちょっとやりすぎちまったな」
キングくんとアーサーくんは握手して仲直りした。会場から拍手が巻き起こった。僕は笑顔で言った。
「よ〜し、これで アーサー君も英国紳士としての品格が1つ上がったね」
「全く。魔法を少しでも信じた私が愚かだったよ」
それに対してアンジュちゃんは言った。
「魔法の効果はあったよ。アーサーくんとキングくんが仲直りする」
「そうだね」
みんな笑顔になった。
翌日、カフェクラブにキングくんが血相を変えて現れて僕たちにスマホを見せた。
「おいおい、みんな見てくれよ」
ワールドカップの試合でイギリス対コンゴの戦いが行われ、コンゴが勝った所が放送されていた。
それを見たアーサーくんは驚いた。
「なんと、コンゴがイギリスに勝つとは」
「これでコンゴも先進国だ」
キング君は喜びに湧いた。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?