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実世界と虚像が共進化する双子:デジタルツイン(2050年)

次節で「未来を読み解く」ための前提・背景として、各企業などで計画されている30年後の未来を概観する。

4.1 計画されている未来のコンセプト
・実世界と虚像が共進化する世界:デジタルツイン
・ 計画されている未来サービス
・ミラーワールドをけん引するメディア:スマートグラス

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Google検索、iPhone、Google Earth、 ストリートビュー、ポケモンGOが示した道筋の延長に、今後数十年の壮大な未来が計画されている。超高速ネットワークの上に多層に重なって広がるバーチャル・ネットワークをベースとして、実空間におおいかぶさり巨大に広がるamazonモデル。大量のサービス支援を通して、ヒトとモノ、モノとモノをつなぎ、あらゆる行動履歴をトレースして、分析・モデル化した情報を実生活に循環させる。

現実世界とデジタルツインが情報とメタ情報を循環し、相互に影響を与え合いながら動的に適応、変化し続ける。

●社会環境の変化と影響

超グローバル化とフラット化:
グローバル世界からの人材参入が、大国資本主義を脅かす。仮想世界が現実世界の大規模な分断・分散化を促し、世界規模・国家規模でフラットなネットワークでつながる社会を広げる。

超高齢化:
先進国の高齢化による労働人口の不足が、動的に適応する柔軟な組織へと企業のあり方を変える。10数人程度の小さなチームが動的に連携する企業、複数のチャネルで社会につながる個人、共同組合で助け合う企業なき労働形態など多様なコ・ワーキング、パラレルワーカー※が世界を変えてゆく。

バーチャル化:
グローバル化とフラット化、コ・ワーキングの浸透により、物理的な実態を持たないバーチャル国家、バーチャル企業が誕生し、物理とバーチャルの両方に拠点を持つ、マルチチャネル型のワーカー、生活スタイルが国家、企業、地域社会という概念の見直しを迫る。

コ・ワーキング:
事務所スペース、会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイルを指す。一般的なオフィス環境とは異なり、コワーキングを行う人々は同一の団体には雇われていないことが多い。
 ウィキペディア(2021/5/21)より
  https://ja.wikipedia.org/wiki/コワーキング

パラレルワーカー:
一つの企業に専属で就職するのではなく、複数の企業と契約を結び、または兼業して副業を行う労働者。ネットワークを活用して時分割で仕事を行う環境が整ってきていること、終身雇用という形態の見直しにより今後広がっていく傾向にある。


●ディジタルツインの連携がスマート化を推進する

 デジタルツインの構成イメージ

書籍や商店だけでなく、ホーム、教育、都市、マネーや企業、国家までも巻き込んで、リアルとデジタルが混在する世界が構築されようとしている。現実世界にあるすべてのヒト、場所、モノをデジタル世界=デジタルツイン(デジタルの双子)に投影する世界では、合わせ鏡のように現実世界とデジタルツインが相互作用し、爆発的なスピードで共進化を繰り返す
  
今後、生まれる様々な用途向けのサービス -- 交通、輸送・物流、金融、製造、医療、不動産・建設、小売、農林水産業、エネルギーなどのあらゆる産業支援、人びとの生活支援 -- がネットワークで接続・連携していく。「サービスネットワーク」を通して相互に情報交換・融合・複製し、連携・協調・組み合わせて編集しながら、「分析・モデル化ネットワーク」によりデジタル情報に変化して現実世界をデジタルツインに取り込み、「情報抽出ネットワーク」によりデジタルツインから各サービス毎の用途に応じて情報を選別して抽出し、現実世界にフィードバックする。


●リアルとデジタルツインのフィードバックループ

 当初、デジタルツインはモデルサービルや新規ビジネスとして、個別に構築される。現実世界に向けたサービスネットワークが利用者やモノの情報を収集し、デジタルツインに記憶し、デジタルツインから必要な情報を引き出し、サービスネットワークを通して利用者への支援を通してフィードバックされる。サービスの利用と、それを通した情報のフィードバックループが、現実世界とデジタルツインの共進化をうながす

現実世界とデジタルツインが共進化する世界

○収集する: デジタルツインへの情報収集

 現実世界からデジタルツインへの情報収集は、多様なサービスのネットワークを経由して集められる。

サービスネットワーク例:
・各種産業やインフラ、危機管理のために配置される監視カメラやセンサーのネットワーク
・金融・株式・経済指標などの経済情報ネットワーク
・ウェアラブルデバイス情報ネットワーク(ヒトの位置、健康管理、写真・動画)
・電子製品と家電のネットワーク
・自走カーを含む、支援ロボットとロボット連携のネットワーク
・環境情報(気温、湿度、騒音、....)ネットワーク
など

 現実世界をそのままデジタル化しても、情報量が膨大すぎてサービスにフィードバックして活用することはできない。現実世界の情報は、その用途毎に分析・モデル化ネットワークによりモデリング、デジタル情報化してデジタルツインへ送り込まれる。

分析・モデル化ネットワークでのモデリング例:
・統計処理、特徴量を圧縮
・シミュレーション
・イメージ化、パターン認識
・機械学習 
・ヒトの利用傾向として圧縮(ヒトとヒト、ヒトとモノの距離など)

 デジタルツインは、モデル間でかわされる相互作用(情報交換、相互演算)により、より複合的なものへと変わっていく。

○記憶する: デジタルツインへの記憶

 現実世界にあるものすべての場所(地図、道路、建物、部屋、...)やモノ、ヒトが情報化され、デジタル情報としてデジタルツインに投影される。

デジタルツインへの記憶の例:
・地形、植生、道路、建物、部屋、家具や家電の配置などの3次元地図
・リアルタイムのヒトやクルマ、ロボットの移動、移動先の予測
・リアルタイムの環境情報(天気、気温、気圧、湿度、CO2濃度、...)
・社会、経済状況
など

○引き出す: デジタルツインからの情報の引き出し

 デジタルツインの記憶はサービス毎にあつかいやすく加工されるが、それでも膨大な量を扱わなければならない。膨大なデジタルツインの記憶から、目的に応じて情報を選別して引き出す技術が、用途毎に構築される。

情報抽出ネットワークによる情報の選別例:
・検索、フィルタリング
・マッチング
・レコメンド


○支援する: 未来サービスとサービス連携

 未来サービスは、当初は用途毎に個々に発生するが、互いに情報交換・連携することにより統合サービスへと変わっていく。

・リアルタイムに情報を提供・予報する
 各地の気象、災害情報の提供と予報

・自動化する、ロボット化する
 スマートシティ、スマートファーム、スマートファクトリー、スマートオフィス、スマートホーム、スマートカー

・ロボットでサポートする
 医療、高齢者、障がい者、遠隔分身、ナノロボット

・シミュレートする
 都市デザイン・予測、社会生活デザイン・予測、実験、創薬

・バーチャルとリアルを連携する
 職業訓練、手術補助、創薬、実験、旅行、リアルに重ねてAR情報表示

・ウェアラブルで健康を管理する、ライフログを記録する

デジタルツインは、個別の目的で徐々に構築され、しだいに相互連携して浸透する。

・モデル都市、自動運転カー
・情報・商品売買プラットフォーム
・スマートホーム、ウェアラブルデバイス
・スマートファーム、スマートファクトリーなどの作業自動化と遠隔管理
・スマートオフィス、コ・ワーキング

分断されていた各サービスの協調と競合を共進化させるエコシステム、共通基盤プラットフォーム、相互インタフェースの規定と連携がブレークスルーとなり、ある瞬間を境にデジタルツインが現実世界と切り離せない存在となってゆく


参考書籍:
[1] ケヴィン・ケリー(2019), "Mirror World :デジタルツインへようこそ", 松島倫明訳, Wired, Vol.33
 参考:https://wired.jp/special/2019/mirrorworld-next-big-platform/
[2] 川口信明(2020), "2060 未来創造の白地図 :人類史上最高にエキサイティングな冒険が始まる", 技術評論社
[3] リンダ・グラットン(2012), "ワーク・シフト :孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉", 池村千秋訳, プレジデント社



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