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1992年から描く未来:社会変化に適応するバーチャル・オフィス/コ・ワーキング

第三章 1990年から描く未来
 本章では「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルとアイデア・プロセッシングのサンプルとして、1990年代に読み解いた未来(現代ではあたりまえとなったサービス・コンセプト)を例として紹介する。
 今あるコミュニケーション、ネットワークをベースとして次のメタ・コミュニケーション、メタ・ネットワークを問い続けることにより、次の時代のサービスに気づくことができる。

3.2 アイデアとプロトタイプで描くもの
 本節では、商品化にいたらなかったアイデアやプロトタイプについて、「コンセプト編集」に焦点をあてて例示する。
・動的に適応する仮想コンピュータ(1990年)
⇒社会変化に適応するバーチャル・オフィス(1992年)
・曖昧な要望に応える通信サービスコンサル(1994年)

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社会変化に適応するバーチャル・オフィス/コ・ワーキング

●背景:

 携帯電話の人口普及率が1.4%[1]、日本で初めてインターネット・サービス・プロバイダがサービスを開始した1992年。インターネットの利用は大学や研究機関がほとんどで、静止画を扱うにも四苦八苦していた時代。


●お題: 


 ⇒到達フェーズ:社内資料
 オフィス研究を行っていたチームメンバーの各研究を統合して未来に向けた指針を示す。


●言葉で表現する:

○アイデアを言葉で表現する

 ・ネーム(呼称): バーチャル・オフィス
 ・クレーム(短文):
 
低成長時代において、社会環境の急激な変化や多目的化に自己組織的に適応する「動的企業組織」として「バーチャル・オフィス・モデル」を提案する。

※バーチャル・オフィス: 社会環境の変化に対応して、動的に編成して、自由に組み替えできるオフィスのイメージ呼称

〇バーチャル・オフィスの変遷

・Step1: 分散オフィス
・Step2: 協調オフィス
・Step3: 自律分散型オフィス(自己組織化オフィス)
・Step4: ボーダレスオフィス
 会社の壁を取り払い、異業務/異業種のオフィス業務を動的に連携することにより社会変化や多様化する要求に対応する。

ここでは、Step3:自律分散型オフィスについて紹介する。

○「ミクロ・マクロ・ネットワーク」モデルでコンセプトを表現する


■構成要素:
□技術・社会的背景:
 バブル崩壊を契機にデフレが長期に続く低経済成長時代、ネットワークの高速化(当面は1Mビット/秒をターゲット)  
 ・経済成長の頭を抑えつけられた状態での企業経営は、極端な企業成長が期待できない
 ・衣食住の基本欲求が満たされた顧客は、顧客それぞれの多様な嗜好で商品を選択する

□動的に変化する環境:
・顧客要望: 少量多品種な要望
・多目的化: 顧客要望の多様化に伴う企業内部での多目的化
・激しい製品交替: 激しい競争、新製品や新技術導入のテンポが速く、ライフサイクルが短い
 - 巨大な経済リスク: ブラックマンデー、バブル崩壊のような急激な経済環境の変化

□ミクロなコミュニケーション:
 ネットワーク(電話網、メール、TV会議、蓄積型の情報サービス)を利用して多地点・異時間・多人数で行われる、分業のための情報の交換

企業内のマクロな構造: 動的組織、散逸的組織構造
 ・散層的組織構造: 部課など縦割りでない権利を分散化した平坦な組織構造 
  - 必要に応じてバーチャル・チームを柔軟に編成
  - 1人の社員が複数のバーチャル・チームに多重所属
 ・時空間分散組織:
  - 国内はもちろん、24時間の時差を活用して世界中分散・分業する組織編成
 ・企業内企業、企業内ベンチャー

□メタ・ネットワーク組織: 
 社会環境変化や、顧客要望の変化に呼応して、組織横断的に動的構築されるバーチャル組織・チームなどのメタ組織
 ・ネットワーク分業: それぞれが自律性をたもちながらも密接な相互作用にある分業
 ・伸縮的分業: 問題状況に応じてしくみを替える分業

□フィードバック・ループ:
 環境から社員へ、トップから社員へ、社員からトップへと循環する情報ループと、それをもとに動的・自律的に適応行動する社員
 ・社外環境、顧客の動的情報を社員に提供
 ・トップからの緩いビジョン提示、各社員が現状認識可能な情報の提供
 ・散層的組織やバーチャル・チームの運営情報を集約してトップで収集
 ・散逸的組織やバーチャル・チームの作業情報を編成・チーム内で循環
 ・(電子、リアルな)ティールームによるフリーな情報交換
  

■ネットワークの特性:
□社員・情報の多次元性・多重所属:

 組織編成/解体を積極的に実行、個人が複数のチームや組織に仮想的に所属・参加、それにともなう各種情報のハイパーリンクによる多次元性と多重所属

□動的に適応する企業:
・個々の社員が各種情報を取り入れて自律的・動的に行動
・企業をとりまく社会環境の変化に社内グループが動的に柔軟に変化するバーチャル組織、バーチャル・チームを編成して対応

□動的に適応する企業における学習:
 環境変化に動的に適応する組織には、各社員が参照できる記憶能力が必要となる
 ・トップのビジョン
 ・社会環境、企業環境の状況を共有
 ・バーチャル・チームのリアルタイムな運営情報、作業情報

□企業の恒常性・保守性:
 企業として存続するラインを維持しつつ、恒常性・保守性をくずす方向へ誘導

企業変革のための変異要素:
 動的適応のための特異人材のプール、即応体制


●サービス・イメージリスト

 導き出したサービス・コンセプト例を列挙する。

バーチャル・オフィス1

       バーチャル・オフィスのイメージ

1)物理的な制約(空間、時間)をとりはらう
 時空間を意識せずにアクセスできる通信手段を提供する。

 1-1)空間接続
  メインオフィス、サテライトオフィス、ホームオフィス、移動オフィスの空間的制約をとりのぞく。
 ・高臨場感接続: 大画面スクリーンでサテライト・オフィスをメイン・オフィスに接続、小スクリーンでホームオフィスや移動オフィスを常時接続、瞬間接続可能で「声掛け」することもできる。
 ・多地点ビデオ会議、テンポラリTV会議

 1-2)時差接続
  世界各地での時差を積極的に活用し、24時間のシフト分業を可能とする。
 ・蓄積型コミュニケーション: チャット対話の併用、早送り巻き戻し可能なビデオ会議・通話
 ・エージェント・代理コミュニケーション: 会議代行出席、代理発表、不在時スケジュール調整/業務指示、ノウハウ提供

※現代:インターネットによる接続、社内チャット、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)

 1-3)空間・時差接続共通
 ・社員状態表示: 在籍、打ち合わせ中、ビジー、接客中など
 ・フレックスタイム・シフトタイム管理

※現代:グループウェア・サービスなど

2)グループを組み替え支援
 個人/グループの自律性を保ちながら、組織編成やバーチャル・チームを自由に組み替えできる。
 ・動的組織・グループ編成支援: 電話帳、権限管理、一時参加、グループ編成・個人テンプレート
 ・デスク・フリー: 個人机の廃止、共用端末を個人IDカードでマイ・デスクトップで立ち上げ
 ・協調型共有ファイル: 世界をまたがる時空間ロケーション・バーチャル・チームの多重所属、権限管理

※現代:グループウェア・サービス、無線LAN接続など

3)情報のフィード・バックループ
 社内情報のフィードバック・ループを形成して外部環境変化への動的適応能力と社員の自律的行動を促進
 ミクロ・マクロ情報共有:
  ・ビジョン共有: トップや組織のビジョンを随時確認
  ・社員用戦略情報共有: 企業や組織・チームのリアルタイムな運営情報を社員が確認
  ・作業状況共有: 個人・チームのリアルタイムな作業状況を経営トップ・管理者・社員で共有
  ・ノウハウ共有: 組織横断的なノウハウの共有ボード

※現代:グループウェア・サービス、ナリッジ・ベース、掲示板、社内Wikiなど

4)動的適応性の強化
  個人/グループの自律性を保ちながら、動的でかつ柔軟性のある組織を構成する。

 ・動的情報システム: 外部環境や組織の状況変化に合わせて、臨機応変に情報構成を変更できる情報システム
 ・多次元情報エディティング&ファイリング: データ/処理/リンクを単位とした分散情報のリンク関係を編集して、自由に情報を組み替えるリンクベースのデータ管理

- フレキシブル情報ビュー: 所属や目的、権限に応じてデータ・アクセス・ビューを自由に切り替えてデータ参照
- 仮想コネクションメール: データを手元においたままリンク情報だけを送受信
 関連情報協調: スケジュール、勤務票、コミュニケーション状態、出張、会議室管理などを連携

※現代:社内用Wikiなど

5)創発性の強化
 ・人材プール: 特殊な才能のある人材がをピックアップした仮想チームを編成、必要に応じてテンポラリに実チームにアサイン、または支援
 ・企業内企業、社内ベンチャー: バーチャル・チーム管理にて実現


●現代

 バブル崩壊以降デフレ経済が続き、ワークライフバランスなど、個人生活を大切し、健康に生きることが活力のあるオフィスとして見直されている。会社単位の異業種連携共同体も一部で実施され、ノマドワーカなど企業に所属しない選択も増えてきつつあり、社長や上司がマイクロマネジメントしない自律分散型組織が注目されている[5]。
 コロナ禍の時代、ホームオフィスやコワーキングスペースの設置など想定していたコンセプトは個別に具体化され導入されてきているが、組織を超える情報を積極的に連携するフィードバックループ、例えば「工場の現場の場面情報が重役会の場面と結び付き、マーケティングの場面情報が研究開発の場面と連結される」など、有機的連携組織の意義を理解し具体化するにも時間がかかっている。

参考情報:
[1] 移動体通信(携帯電話・PHS)の年度別人口普及率と契約数の推移
https://www.soumu.go.jp/soutsu/tokai/tool/tokeisiryo/idoutai_nenbetu.html

参考書籍:
[2] 今井賢一, 金子郁容(1988), "ネットワーク組織論", 岩波書店
[3] 北矢行男(1985), "ホロニック・カンパニー", TBSブリタニカ
[4] 今井賢一, 金子郁容(1986), "ネットワーキングへの招待", 中央新書
[5] フレデリック・ラルー(2018), "ティール組織 :マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現", 鈴木立哉訳, 嘉村賢州解説




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