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フューチャーリテラシー :「可能性の未来」を読み解くために

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本マガジンでは、2022/12/12に出版した、『フューチャーリテラシー Futures Literacy :過去から未来へ,「可能性の未来」を読み解くために』についての情報を掲…
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書籍『フューチャーリテラシー 』関連情報リスト

Futures Literacy :過去から未来へ,「可能性の未来」を読み解くために 本マガジンは、2022年12月12日に出版を契機にリスタートいたしました。 書籍『フューチャーリテラシー Futures Literacy 過去から未来へ,「可能性の未来」を読み解くために』に関連する情報を掲載していきます。 【記事】1)『フューチャーリテラシー』出版記念トークイベント開催(12/20) 【読書のポイント】1月)宇宙・生命・脳の進化に見る、ネットワーク連鎖の入れ子構造

分子生成の連鎖が、循環する地球システムをつくった

 水のないドライな地球に降り注いだ大量のウェットな隕石がきっかけとなり、化学反応の連鎖がはじまる。分子生成の連鎖はやがて、循環するダイナミックな地球システムをつくってゆく。 ●ドライな岩石惑星「地球」と月の誕生 :45億5000万年前 大気も水ない鉄とケイ酸塩を主成分とするドライな岩石惑星「地球」が誕生、その直後の微惑星との衝突により月が生成される。鉄などが重力で沈み込み表面を固い地核で覆われるが、重力的に安定した均衡状態となり磁場は発生ていない。 ●ドライな地球にウェッ

国家の形成に向けた、専門分業と集落間の生存競争

 ヒトはコミュニケーションによりつながり、分業して助け合い仕事を効率化するコミュニティ=分業ネットワークの形成を生存戦略とする。仕事が複雑化するにつれて分業が進み、コミュニケーションの技術と文化を編みだし、周囲の統合と専門分業のリズムを刻みながら巨大化してゆく。 ●家族社会の形成 :440万年前~ 無毛の顔と白目により表情をゆたかにして感情と情愛を交換するコミュニケーションにより、育児と採集を分業して助け合う家族を形成する。 ●草原への進出と集団防衛 :370万年前~ や

1万年前になぜ農耕民が誕生したのか

 小規模な狩猟採集民が農耕生活に移行し、人口を巨大化していったのは、気候変動などにより定住生活に誘われ、そこから抜け出せなくなった定住化と農耕の罠にはまったためだった。 ●気候変動と農耕コミュニティの形成 【豊かな狩猟採集民】 1万5000年前までのヒトは、0~20人程度の小集団で獲物を追って移動する狩猟採集により生活していた。最終氷期の1万4000年前頃、気候が湿潤になるにつれて、森がそばにあり海・河川・湖が近く天然の動植物が豊富な地域に定住し、周囲の獲物と植物を採集す

オンラインRPGという自由物語世界(1997年)

●とある冒険者の日々 冒険者を夢見るエルフの少女がいた、名をClariceという。厳つい甲冑に身を固めた戦士たちが、鍛錬のために危険な地下のカタコンベに潜り戦っている中を、場違いな緑の布服と弓という軽装で死人(シビト)たちを狩っていた。なぜ重装をしないのかと問われると、汗臭くて重い甲冑が嫌いなのだという。  いつものように狩りをしていると、呪文とともに突然ゲートが開き中から存在するはずのない上位死霊魔法使いリッチーが現れた。プレイヤー狩りをする盗賊たちの仕業だ。逃げ惑う戦士

知的生産のための道具:ヒトとコンピュータの共生

 ディスプレイとキーボードをつないで「コンピュータと対話する」ことが笑われる時代に「ヒトとコンピュータの共生」の実現に向けたチャレンジはじまる。 ヒトとコンピュータの共生[1] ソ連のスプートニック号打ち上げ成功(1957年)を契機に、1958年NASA(アメリカ航空宇宙局)とARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が設立され、アメリカの科学技術を大きく加速する。ARPAには、リックライダー(1962年)、エンゲルバート(1962年)、アランケイ(1966年)らが集結し、タイ

知的生産のための道具への道:記憶の拡張装置Memex(メメックス)

 1945年終戦の年、ENIAC完成の前年、計算に電子コンピュータを使うことすら確信のないとき、コンピュータを「思考のための道具」に導く衝撃的な論文が発表される。 ●われわれが思考するごとく(As We May Think)[1] 研究開発局の局長として、6千人以上のアメリカ人科学者の管理にあたっていたヴァネヴァー・ブッシュ(Vannevar Bush)は、大戦という局面において重点化すべき課題を的確に見極め、それを革新する技術・技術者を見いだす。一方で、重要な成果が大量の

エジソンの光がコンピュータとヒトの未来を灯す

 計算機の演算速度と精度の加速に連動して社会構造や道具の複雑度が加速し、相互作用の螺旋にのって近代社会が急激に変化する。 ●真空管が電子機械の扉をあける エジソンの電球実験(1883年)から生まれたフレミングの二極真空管(1904年)、次いで電子スイッチや増幅器(アンプ)のもととなるフォレストの三極真空管(1906年)が電子機械の扉をあけた。  ・ホレリスのパンチカード式集計装置(1890年)をIBMが受け継ぎ(1911年創業)データ処理入力の標準方式として広め、  ・ベ

【閑話】「メディアとヒトの誕生」つらつらと考える

 複雑系な話しをそのまま記述できて、そのまま理解してもらえればいいのだが、なかなかそうもいかない。n次元空間を2次元に投影する「ゲルニカ」さながらの日々。過去から現在に向けて直線で書いていると、方向性を見失うので、軸になる空間に碁の石を置くように書き進めている。  で、調査もしないで放置していた「コンピュータの誕生からアランケイ」あたりを書いてみようと思い立ち、となるとメディア論あたりも整理しなきゃいけなくて、だとすると「活版印刷」と「西洋思想」あたりか、いやいや「言葉」っ

正確な計算を行う機械:苦悩の歯車コンピュータ

 ヒトの営みが複雑化するに伴い、高速に、正しく演算することの需要 -- 数学・物理学・天文学などの科学演算、収穫を予測し、正しい航路を導き、商業を営む必要 --が、計算装置を生み出した。 歯車で稼働する苦難のオートマタ  農業によって巨大化した王国を統治する必要が、初期の計算装置を創らせる。納税を計算し、それを予測するための河川の測量、天体観測、また巨大建造物を建築するために小石や算木を並べ、計算結果を数表として使い、さらに算盤「アバカス(ソロバン)」が使われる。以降、長き

活版印刷と近代的思考法の確立

 言葉は発せられてしまえば後になにも残らず、書きとめることができなければ、その内容について研究することはできない、活版印刷の発明が「印刷書籍」をつくり近代的な思考法を確立してゆく。 活版印刷の発明と論理的な思考法 1445年、イギリスでの活版印刷の発明が、「書く言葉」の影響を爆走させる。「印刷された言葉」は「手書きされた言葉」より読みやすく、一つの「印刷書籍」が多くの読者に読まれるようになる。16世紀イギリス人男性の25%程度だった識字率が、18世紀に60%、そして19世紀

「書く言葉」で得たこと、失ったこと

 ヒトは「書く言葉」を発明したことにより、要素に分解して再構築する論理的な思考法=科学的な思考法を手に入れた。 ●「声の言葉」の語り手と聞き手の思考  「声の言葉」を操る語り手は、過去の常套句や慣用句、ことわざ、語りを用いるためにあらゆる知識を記憶する。さらに聴衆を惹きつけるアーティストとしての感性をもって、劇的な手法(抑揚・身振り・表情・言い回し)を効果的なタイミングで使い分ける技能を訓練し語りかける。  「声の言葉」の聞き手は、周囲の環境、聴衆の雰囲気、劇的な音響や視

「声の言葉」と「書く言葉」、哲学と数学の誕生

 「書く言葉」と「書」の登場は、劇の手法で言葉をあやつる「声の言葉」の記憶・思考法に大きな影響を与え論理的な思考法を徐々に生み出していくが、過渡期のそれは特殊な専門家があやつる異質なものでしかなかった。 ●声の言葉と劇的表現 「文字」が発明された後も「書記」たちは統治のための「言葉」を綴り、エリートに属さない民衆とそれに語りかけるものたちは、「声の言葉」を使っていた。「声の言葉」は、聴衆を対象とし、周囲の環境に影響を受け、発するとすぐに消えてしまい、保存することができない。

「文字」が古代社会の構造をつくった

 「文字」は、統治者が再分配する作物を管理するための記号として創られ、やがて「声の言葉」をアウトソースする「道具」となり、ヒトとヒトの距離と時間を越えてつなぎ伝達する「広域情報ネットワーク・プラットフォーム」に転じてゆく。 ●広域情報ネットワーク・プラットフォーム「文字」が生み出したもの 古代エジプトにおいて「文字」は王国運営の「道具」であると同時に、その上で様々なアプリケーションを動作させる広域情報ネットワーク・プラットフォームとして機能する[1]。 【新たな職業】