FRBの量的緩和 ついにジャンク債まで購入に踏み出す 5月12日よりまずはETF購入開始

米国の FRB は経済対策として、各種施策を矢継ぎ早に発表しました。市場はこうした FRB の市場防衛プログラムを好感して安定してきています。株式やクレジット市場の動向は、コロナウイルスの感染者や死亡者数を追うのでなく、中央銀行や政府の経済対策プログラムを見て判断するようにしましょう。FRB が 3 月 23 日に発表した経済対策の資産購入プログラムで株式市場、クレジット市場は底打ちました。またその日が丁度テクニカル分析で見てもちょうどいいタイミングで発表されたことは確信的とさえ思えてしまいます。5月12日からFRBは発表されていたSMCCFでETFの購入を開始します。

FRB はクレジット市場防衛のためにこれまでにない速さと対策を打ってきた
 FRB はクレジット市場防衛のためにこれまでにない速さと対策を矢継ぎ早に発表しています。
 3 月 3 日には、短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を 0.5%下げて、1.0~1.25%としました。
 3 月 15日には再度フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、1.00~1.25%から 0~0.25%に 1%引き下げました。3 月 15 日には、米国債などを買い入れて資金を大量供給する量的緩和政策も復活させました。数カ月で米国債を少なくとも5000 億ドル買い入れ、住宅ローン担保証券(MBS)も同じく 2000 億ドル購入する量的金融緩和策やドル需要を賄うための通貨スワップの拡充も発表しました。
 3 月 17 日には、プライマリー・ディーラー・クレジット・ファシリティー(PDCF)を再開し、短期金融市場の流動性を確保すべくプライマリー・ディーラーとのレポ取引における担保の拡充を発表しました。
 3 月 18 日には、MMF 購入プログラムを発表し、20 日には地方債 MMF 購入プログラムを発表しました。23 日には、TALF を再開し ABS の購入プログラム、コマーシャル・ペーパー(CP)購入プログラム、社債購入プログラムの導入を発表しました。
 4 月 9日には、社債購入プログラムの対象拡充を発表し、投資適格の社債のみならず、格下げされた非投資適格社債であるジャンク・ボンドやレバレッジド・ローンの購入を発表しました。
 5月11日に、5月12日よりSMCCFでETFの購入を開始すると発表しました。

主な、資産購入プログラムをまとめてみました。
FRB プレスリリース (新経済対策:各種金融資産購入プログラムの発表)
3 月 23 日
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20200323b.htm
新発クレジット・ファシリティー PMCCF
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/pmccf.htm
タームシート(2020 年 4 月 9 日)
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/files/monetary20200409a5.pdf
流通クレジット・ファシリティー SMCCF
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/smccf.htm
タームシート(2020 年 4 月 9 日)
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/files/monetary20200409a2.pdf
主な内容
3 月 23 日に発表されていましたが、4 月 9 日になって購入対象の拡充を発表しました。
米財務省は特別目的会社(SPV)を通じて、流通クレジット・ファシリティーとともに 750 億ドルのエクイティー出資を行う。(新発ファシリティーPMCCF:500 億ドル、流通ファシリティーSMCCF:250 億ドル)。レバレッジ効果で合計総額 7500 億ドルの投資枠設定。投資対象は、以下の要件を満たす社債及びローン(融資)
社債購入適格要件は以下の通り:
1. 米国で事業を営み、従業員の過半数が米国である企業が発行する社債
2. 2020 年 3 月 22 日時点で、BBB-/Baa3 以上の格付けを有する社債
たとえ、格下げされたとしても BB-/Ba3 であること(いかなるケースでも FRB がレビューを行う)

3. 預託金融機関でないこと
4. CARES 法でサポートされていないこと
5. CARES 法の 4019 項と利益相反がないこと
1 社あたりの最大枠は、ファシリティー総額の 1.5%。
1 社の 2019 年 3 月 22 日~2020 年 3 月 22 日間の発行総額の 10%を上限とする。ETF は 20%以上購入しない。購入につき 1%の手数料を徴収。購入期限は、2020 年 9 月 30 日まで。
FRBは5月11日、5月12日よりSMCCFによるETF買い入れ開始を発表しました。この先社債の購入も始めるようです。
https://www.newyorkfed.org/newsevents/news/markets/2020/20200511


アセット・バック証券ローン・ファシリティー TALF
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/talf.htm
2020 年 3 月 23 日 TALF プログラム(Term Asset Backed Loan Facility)を再開。
タームシート
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/files/monetary20200409a1.pdf
特別目的会社(SPV)を通じて、100 億ドルのエクイティー出資、総額 1000 億ドル。自動車ローン、学生ローン、クレジット・カード・ローン、中小企業局保証のローン、レバレッジド・ローン、商業不動産ローンなどの証券化金融商品が購入対象。CMBS は 2020 年 3 月 22 日以前に発行された AAA 格のもの。新発の CLO も対象。
マネー・マーケット・ミューチュアル・ファンド(MMF)流動ファシリティー MMLF
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/mmlf.htm
タームシート
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/files/monetary20200323b4.pdf
主なポイント
米国で事業を営む預託金融機関及び預託金融機関の持ち株会社、外国銀行の米国子会社。12 か月を超えないもの。
米国公社債、ABSCP、CP、最高格付けの譲渡性預金、短期地方債(変動金利デマンド・ノート含む)などをが担保条件。
コマーシャル・ペーパー(CP)ファンディング・ファシリティー:CPFF
Commercial Paper Funding Facility
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/cpff.htm
タームシート
https://www.newyorkfed.org/markets/commercial-paper-funding-facility/commercial-paper-fundingfacility-terms-and-conditions
購入対象:
米ドル建てコマーシャル・ペーパー(CP)
A1/P1/F1 格の ABCP、企業、格下げされた場合でも A2/P2/F2 格以上。
1 社あたり 2019 年 3 月 16 日~2020 年 3 月 16 日の間でで最大発行額が購入の上限。購入期限は、2021 年 3 月 17 日。

フォーリン・エンジェルの急増
 投資適格級からジャンク級に格下げされた社債は「フォールン・エンジェル(堕天使)」とされます。2020 年に入ってジャンク級に格下げされた企業には、自動車メーカーのフォード、食品のクラフト・ハインツや石油生産のオキシデンタル・ペトロリアム、エアラインのデルタ航空、百貨店のメイシーズなどがありました。フォードの社債金利は格下げ魔の 3%台から 10%近くまで上昇していました。
 ただでさえ、2019 年には、投資適格ではないハイイールド債券の発行増やレバレッジド・ローンの発行急増でクレジット・バブルの懸念がささやかれていましたが、今回のコロナショックによる市場の崩壊によって、クレジット・バブルが崩壊しようとしていた。株価は史上最高値を更新していましたが、2 月 19 日以降、3 月 23 日の底までで、ダウは 37%下げ、S&P500 は 34%下げ、NASDAQ は 30%下げ、ラッセル 2000 は 41.5%下げていました。同期間で、米国ハイイールド債券の OAS スプレッドは 3.66%から 10.87%まで上昇していました(グラフ参照)。ICE BofA US High Yield Index Total Return Index では 21.5%下落していました(グラフ参照)。S&P /LSTA U.S. Leveraged Loan 100 Index は 22.5%下落していました。ローンをまとめた CLO の場合、10%程度はエクイティーで構成されているため、エクイティー・クラスから BB クラスまでは、ほぼ無価値(評価価額でゼロ)となっている状況でした。

画像1

画像2

出所:FRB St. LouisのデータからFuture_Researchが作成

※CLOについての解説やクレジット市場の見方についてはまたどこかで書く予定です。

FRB はクレジット市場と金融システム防衛のためにこれまでにない速さで対策を打ってきた
 株価が 3 月 23 日に下げ止まり、FRB が各種市場サポート・プログラムを開始したことから市場の崩壊はギリギリ免れたといっていいでしょう。リーマン・ショックの際の経験が生きていて、FRB は今できることすべてを一気呵成に打ち出してきたというのが今現在の姿です。これまで FRB が購入対象としてこなかった、投資適格格付け以下のジャンク・ボンドまで購入し始めたということは、さらに一歩踏み込んだと言えるでしょう。今後 CLO のエクイティー・クラスの投資家やジャンク・クラスのエネルギー会社の倒産などが懸念されますが、最悪期は脱したといってもいいと思います。
 株価や各種金融商品は市場で出回っている情報・状況を先回りして価格が形成されています。CLO などのストラクチャード金融商品の場合、その市場を形成しているプロの参加者しか内情が分かりません。クレジット市場の情報は非対称なのです。クレジット市場では、内情を知っている人が、先回りして売却したり、ヘッジをかけてもインサイダー取引とは一概に指摘できないのが実情です。株であれば罰せられるのですが、クレジット市場でこうしたインサイダー情報がらみの売買で罰則を受けたということは聞いたことがないです。
FRB の矢継ぎ早の対策によって、リーマン・ショックの時に起こった、クレジット商品の下落スパイラルが起こり、CDO が無価値となるよう様な事態は避けられたということです。今回 FRB は先回りして、これでもかという市場サポート・プログラムを発表してきました。今後、米国での感染者数の伸びが鈍化して、人々が職場に復帰するようになると株価やクレジット市場は本格的な回復基調に戻ると思われます。これだけの金融緩和と量的金融緩和の効果は絶大で、2020 年年末には、米国株価は史上最高値を再度試しているような状況になってもおかしくはありません。3 月以降 FRB のバランスシート残高は急激に増加しています。新規に発表された社債購入プログラムの PMCCF や SMCCF によって購入された社債の残高は FRB が直接購入するものではないので、これ以上に FRB は様々な金融商品の購入を行っています。
いつが金融商品の買い場かと尋ねられれば、今すぐにでも、できるだけ早いうちに買った方がいいと答えます。

リーマン・ショック時のクレジット商品下落スパイラル
 リーマン・ブラザーズが 2008 年 9 月 15 日に破綻、9 月末にかけて、クレジット・デリバティブの主要カウンター・パーティであった米大手保険会社がクレジット・デリバティブの損失補填のためと保険金支払いのために保有社債を大量売却、市場で社債の買い手がいなくなる、クレジット商品を基としたストラクチャード金融商品の買い手が消失、ストラクチャード商品の損失補填のために他の少しでも流動性のある金融資産を売却する金融機関が現れる、リーマン・ブラザーズに次ぐ証券会社破綻の懸念、世界中の金融機関のバランスシートが悪化。FRB が各種資産購入プログラムを遅れ遅れ出してきてもこの下落スパイラルを止めることはできず、半年先の 2009 年 3 月に、やっと株価やクレジット商品の下落スパイラルは終了し底打ちしました。

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