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攻略、シリーズA:第3話、納得感の高いValuation

前回書いたことでもあるが、シリーズAになると様々な企業と比較をされるようになります。

「Valuationが高いなぁ、今回ラウンドは見送ろうか」
「この会社は割安に感じる。本格的に検討をしてみよう」といった具合です。
では、このValuationが高い・安いといった判断は、どういった観点から導かれるのか考えてみようと思います。
※注意:ここに記載するのはあくまで一つの考え方であり、絶対的なものではありません。

企業価値算定の有力な方法にDCF法があります。
DCF法は1960年代後半に生み出されたと言われており、今日においても企業価値算定のスタンダードな考え方です。
https://www.waseda.jp/fcom/soc/assets/uploads/2016/11/wcom446_437-466.pdf

DCF法の誕生から60年近くが経過後も、この考えがいまだにスタンダードであることを鑑みると、非常に完成度が高いアプローチなのだと思います。
そしてこのDCFの「考え方」がベンチャーファイナンスでも有効なのだと私は感じています。

なお、ここで念の為強調したいのが、
スタートアップにDCFでValuationを算出して欲しいとは「思わない」ということです。
結局のところ、他社との相対比較や、前回ラウンドの株価、リードインベスターの交渉力などを総合的に踏まえ、最終的にValuationが決まる方が多く、DCFで弾いた株価で決まった事例は聞いたことがありません。
それはスタートアップの事業計画の蓋然性が非常に低く、将来CFを合理的に算出することが不可能なであることも影響していると考えています。あくまで「考え方」の話をしています。

さて話を元に戻します。
DCFの考え方というのは、端的に言えば「将来キャッシュフローが企業価値の源泉ですよね」というもの。
会社がキャッシュを創造できているのかが重要である、ということになります。

例えば開発費用を資産計上して(BSに飛ばして)、人件費を軽くし、PL上黒字にしたところで、日々のCFがマイナスであれば、遅かれ早かれ現金が枯渇して黒字倒産ということになります。CFとPLのどちらに価値があるのかが良くわかります。

シリーズAの段階では、そもそもPL段階でも黒字になっていることは殆どありません。すると、どこを見るかといえば「限界利益」の厚さです。
というのは、PLが赤字であるということが前提になると「赤字が許容されて当然」と重いコスト構造に寛容になってしまい、いつまで経っても黒字化しないサービス設計になることが時折あるからです。
DCFの観点でいえば、PLが黒字にならない、CFもプラスにならない企業の価値はゼロ、ということを忘れてはいけません。

売上はまだこれからという段階もあります。その際はKPIに目を向けることになります。
有料化はこれからだが、無料ユーザーを大量に抱えている。
手数料はまだ取っていないが、GMVはこれくらいある、といったものです。

KPIは売上・利益を構成する一つの要素でしかなく、CFからだいぶ遠くなります。つまり企業価値はだいぶ小さく見積らなくてはいけなくなるわけです。
このように企業価値の本質は生み出されるCFであり、そのCFに近ければ近いほど企業価値は高くなりますし、逆は逆なのではないか、と考えている次第です。

そして資金調達においては、この「CFの状況」と「Valuation」がリンクしていることが非常に重要なのだと思います。
言い換えると、このリンクがズレた時に、VC視点では納得感が小さくなり、投資検討を終了させることが多くあります。
「プロダクトは1年前にローンチしてから機能改善を磨き込み、3ヶ月前からマネタイズを始めた段階です。MRRは◯◯◯万円、グローストリガーも特定でき、そのためにPre10億でシリーズAのラウンドを行いたいと思います」
「プロダクトはまだ開発中ですが、Pre10億でシリーズAのラウンドを行なっています!」
どっちが投資候補として魅力的=資金調達がしやすいかは明らかです。

わかりやすく極端な例にしましたが、
程度の違いはあれど、このズレが調達を困難にしていることは多く、逆にズレが少ない企業はスムーズな調達を実現できています。
スタートアップの立場からすれば「前回ラウンドのValuationがこうだったから・・・」と、なんとかして株価を上げたいバイアスがかかりますが
重要な点は先に記載した「CFの状況」と「Valuation」のリンクだと強く感じています。
VCからのフィードバックを踏まえて、必要に応じてValuationを切り下げる判断をすることも重要ですし、
逆にVCの食いつきが良すぎる際は、過度に割安になっている可能性もあり、複数のリード候補と交渉をすることで、Valuationを切り上げる判断もあろうことかと思います。

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