自らの資本を活かす 伝達力
自らの発案を他者と共有したい。他者からの素晴らしい気付きを、第三者と共有したい。研究の成果を他者に広める手法の最も重要な行為は伝達である。その手法は論文に限らず、学会での発表や、プライベートコミュニケーションに至るまで多岐にわたる。また、講演の壇上に立てば、目の前には自らを見つめる無数の眼光が、貴方から発せられる知的好奇心を喚起する声を待っている。
しかしながら、伝えたいと願ったとしても聴衆は受け入れたいと考えているわけではない。限られた興味の範囲にある学会の分野別のセッションであっても、その中の特定の講演に没頭したいと願ってはいるが、全ての講演に期待しているわけではないことは、経験にあるに違いない。一方で、興味を喚起され、思わぬ収穫とばかりに没頭し、質疑を始めていることもあるだろう。この興味を喚起する力こそ伝達力である。素晴らしいビジョンに到達したとしても、その素晴らしさを伝達できなければ、社会における共創状態は期待できない。
身に着けて頂きたい伝達力は貴方の思考を伝達する力である。貴方の思考によって、他者に「自らのビジョンを達成する為には、貴方無しでは有り得ない!」と、貴方との出会いに歓喜して頂くことが伝達力である。疑問を抱かせず、選択肢を与えず、聴き手の思考地図の上で、伝達内容がきりっと明確に浮かび上がることが必要である。聴き手の定義を明確にすることで、聴き手が活動する世界を地図化出来る。その地図の中で対話するイメージを獲得して、初めて伝達が可能となる。自らの世界観では無く、聴き手の世界における共通言語でなければ、自らの意思を伝達することは不可能である。聴き手の世界観を獲得することは、先の「聴き力」と「質問力」によって成し遂げることが出来る。伝達はその後の行為である。伝達力の獲得は、自らの価値観を共有して頂くことにも繋がり、自らの発想に対する指摘の獲得にも繋がっていく。