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身体のこと。 ~ 腰痛という現代病① 非特異的腰痛症を知る ~

世界人口の70〜85%は一生に一度は腰痛を経験するとされ、一般人口における腰痛の有病率は15〜30%、過去1ヶ月間における有病率は19〜43%と非常に高くなっています1)

我が国における平成29年国民生活基礎調査では腰痛の有訴者は男性で9.2%で1位、女性は11.5%で肩こりに次いで2位となっています2)

約3000人を対象とした一般住民における大規模調査(ROAD:2005〜)では腰痛の有病率は男性で25.2%、女性で30.5%となり女性が有意に多い結果となりました3)

この結果から国民1/4となる2800万人以上が腰痛に苦しんでいると推察され、腰痛は我が国の代表的運動器疾患といえます。

そこで今日は腰痛の原因や成り立ちについてお話していきたいと思います。

腰痛とは?

「腰痛は症候名であり単一の疾患名ではない」6)とあるように「腰痛症」という疾患はありません。

以下に腰痛のきたす疾患について挙げます。

・非特異的腰痛症(いわゆる腰痛症)
・腰椎椎間板ヘルニア
・腰部脊柱管狭窄症
・腰椎変性すべり症
・変形性脊椎症
・腰椎分離症
・腰椎分離すべり症
・脊椎腫瘍:悪性(原発性、転移性)、良性
・感染症:可能性脊椎炎、脊椎カリエス
・外傷:脊椎圧迫骨折、打撲、捻挫

これだけ多くの疾患がありますが、特異的腰痛(原因がはっきりしているもの、画像所見と原因が一致しているもの)は腰痛全体の10~15%程度しかありません。

ですので腰痛が原因で病院へいって画像所見(レントゲンやMRI)のみで「ヘルニア」や「狭窄症」と診断された場合には注意が必要です。

今日はこの中で腰痛の85%を占めるとされる「非特異性腰痛症」についてお話していきます。

非特異性腰痛症とは?

腰痛全体の85%は明らかな原因のない「非特異的腰痛症」とされ7)、非特異的腰痛症は筋活動そのものの変化や障害により発生する一次性のものと、身体や椎間板の疼痛に対する反応としての異常筋活動や局所の循環障害により発生する二次性のものがあるとされており「いわゆる腰痛症」とも呼ばれます8)

当時新聞で「腰痛の90%は原因不明」との見出しで大体的に報道されましたが、その根拠となっているのはThe accuracy of MRI in the detection of Lumbar Disc Containment9)に代表されるような、画像診断の根拠についての論文ですが、これは画像所見と症状は一致しないということを示しており、例え画像所見でヘルニアや狭窄がみられても、症状がない場合があるということでもあります。

朝日新聞朝刊 (2018年3月24日)より

しかしながら実際、医療現場では病院によっては実際に診断のつかない腰痛は6割程度であり、きちんとした問診、理学検査、画像検査によってある程度は診断可能となっています。

特にリハビリ場面においては非特異性腰痛症も、椎間板性や椎間関節性、筋筋膜性、仙腸関節性、末梢神経感作、心因性などは判別することが可能であり、原因においてもある程度は推察可能です。

そのため、原因を改善することによって症状を軽減、消失させる根本治療が可能となっています。

したがって腰痛を抱えて病院受診する場合は、脊椎の専門医がいる病院で、保存療法にも力を入れている病院の受診をおすすめします。

痛みの種類

腰痛における痛みは以下の4つの種類があります。

侵害受容性疼痛
局所炎症などによる侵害受容器刺激による痛みでこれは繰り返される局所負荷(メカニカルストレス)や外傷、打撲、筋・筋膜炎、変形性関節症が原因となります。

多くの腰痛はこの痛みが原因であり、姿勢や動作、日常生活活動場面、仕事の労作に問題があることが多いです。

神経障害性疼痛
末梢神経の直接的な圧迫、絞扼による痛みで、腰以外の臀部や下肢に痛みがでるのが特徴的です。

神経障害性疼痛はさらに中枢神経感作(脳の疼痛抑制系経路の障害)、末梢神経感作(末梢神経の滑走不全、炎症、緊張症状)圧迫性神経障害(ヘルニアや狭窄による直接的な神経の圧迫)に分けることができ、原因によって対処方法が異なります。圧迫性神経障害の場合は保存療法が効かないこともあり、3ヶ月以上症状の改善がみられない場合は手術も検討する必要があります。

心因性疼痛(非器質性疼痛)
身体組織の器質的変化がなく、社会・心理的要因による痛み、慢性腰痛(3ヶ月以上続く痛み)で特に関与が大きいとされます10)原因としては心的なストレス、精神的緊張、自律神経失調などがあり、生活習慣や食生活、仕事などに問題があることが多いです。

内臓性疼痛、血管性疼痛
腹腔および腹腔内臓器の病変が原因で腰痛を呈するものであり、重篤な疾患であることが示唆されます。
そのため適切な病院で詳細な検査が必要となります。
これに関しては保存療法の対象とはなりません。主な原因疾患としては腎臓・尿路結石、解離性腹部大動脈瘤、悪性腫瘍などがあります。

図 主な腰痛の原因

これらの痛みは混在している場合も多く、腰痛への対応を難しくしており、85%が原因不明といわれる所以でもあります。

腰痛治療というのは画一的な方法はなく、これらの原因について丁寧に所見を重ねて推察していくことが必要になります。

TVでやっているような腰痛体操や脳の認知療法など、それだけやっていれば良いというものはなく、腰痛のほんの一部の疼痛にしか効果がないということをご理解いただければと思います。

腰痛は個人的な因子が複雑に絡み合って、非常にバリエーションがありますので、その人その人にあったオーダーメイドの治療が必要になります。
まずは、そうした能力を持つ医師や理学療法士、その他セラピストを探すことが大切です。

腰痛のリスクファクター

最後は腰痛のリスクファクターについてお話します。

身体特性としては前屈の硬さ、腰痛の既往歴があるが腰痛のリスク因子として上がっています。

また、心理社会的要因としては離婚や死別、低学歴、家での介護などがリスクが高くなるようです。

生活習慣では喫煙(ヘビースモーカー)や不規則な食事、睡眠不足などが腰痛のリスクとして関連していました11)(表1)

仕事関連では、中腰、前かがみの姿勢(1日4時間以上)、力仕事(20kg以上の重量物運搬や介護)、立ち仕事が2倍以上、腰痛の発生のリスクが高くなっています(表2)

この結果ではデスクワークは腰痛の発生にあまり関連がないようですが、私の経験上、デスクワークとくにPC作業時間が長い人は腰痛、肩こりの発生が多い傾向にあり、長時間の同一姿勢の保持は骨盤帯周囲のマルアライメント(不良肢位)を招きやすいように思います。

また、仕事における動作では腰の捻る動作や物を運ぶ動作がリスクが高く、仕事環境では狭く窮屈な場所での作業がもっともリスクが高いとされています。(表3)

以上は日本での結果になりますが、世界的にみても20kg以上の重量物の運搬やストレスなどの心理・社会的要因が腰痛発生のリスク因子としてあがっています。

実際にはこれらの要因も単独で存在するというよりは複数が組み合わさって存在しており、さらにこれらの要因に個人的な身体特性や動作特性が組み合わさって腰痛が発生します。

身体要因に特化して危険因子を検討する前向き研究が少ないため、腰痛発生の危険因子となりうる身体的特徴についてはこれといったものはありませんが、運動療法は腰痛予防、再発予防に関して質の高いエビデンスを示してる(レベルA)ことから足部の機能や体幹や骨盤帯・股関節周囲機能も重要であると考えます。

まとめ

腰痛の8割以上を占める非特異性腰痛症について、その定義や疼痛の種類、原因、危険因子についてまとめました。

腰痛の原因は個人因子(身体特性、職業、心理社会的因子)が占める割合が非常に高く、バリエーションが無限にあるため、対応には丁寧な問診と理学検査が必要です。

次回は現代の生活が私たちの身体にもたらす影響とそれにより引き起こされる腰痛についてまとめたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

References
1)Andersson GB:Epidemiological features of chronic low-back pain. Lancet.
354(9178):581-5.1999
2)厚生労働省:平成22年国民生活基礎調査 自覚症状の概況2010
3)吉村典子 他:腰痛の疫学-大規模疫学調査ROADから- 日整会誌84:437-439 2010
4)Matsudaira K, Palmer KT, Reading I, et al: Prevalence and correlates of regional
pain and associated disability in Japanese workers. Occup Environ Med 68:
191-196, 2011
5)帖佐 悦男 他:職業性腰痛の疫学 日本腰痛会誌,7(1):100-104 2001
6)白土 修:非特異的腰痛の病態と治療 理学療法Vol.28 No11 P1325-1332 2011
7)Roger Chou, MD; Diagnosis and Treatment of Low Back Pain: A Joint Clinical
Practice Guideline from the American College of Physicians and the American Pain
Society Ann Intern Med. 147(7):478-491 2007
8)伊藤 俊一:非特異的腰痛に対する理学療法 理学療法Vol.28 No11 P1333-1338 2011
9)Bradley K Weiner:The accuracy of MRI in the detection of Lumbar Disc Containment
9)紺野 愼一:非特異的腰痛 その概念と診断手順、留意点 脊椎脊髄29(1)P16-20 2016
10)Waddell G:Low Back Pain Evidence Review London: Royal College of General
Practitioners 1999
11)松平 浩:仕事に支障をきたす非特異的腰痛の危険因子の検討 日職災医誌57 P5-10 2009
12)町田 秀人:勤労者腰痛の実態−職場における心理・社会的要因の関与-第2報P23-

#健康  #運動器疾患 #腰痛 #非特異的腰痛症 


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