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すてきな女むてきな女⑨

ハセショに向かう途中、あまりの暑さに島本センターを通り抜ける事にする。
古い平屋の建物で、床は茶色いタイル張りで明るめの蛍光灯が灯っているが、お店の中はどこも少し暗め。お花屋さん、鍼灸院、お惣菜屋さん、個人経営の薬局、スナック、喫茶店、卓球場、謎のフリースペース、なぜかコストコの小売店のようなもの、と多種多様なお店が軒を連ねている。
センターと言う名称とは裏腹に昭和の匂いと路地裏感が漂っている。
そこに新らしく可愛いコッペパン屋さんが出来ていて、ネンさんにコッペパンを買って行こうと言う事になった。
私が知っているネンさんの好きな食べ物はバナナ。しかしバナナを挟んだコッペパンは置いていなかった。
「私、自分が買うんやったらあんバターやねんけどな。」
「私もダントツあんバター。」
私もなっちゃんもあんバターはマストやろと言う事で、あんバターコッペパンをなっちゃんが買ってくれた。

ハセショに着くと、ネンさんは接客中だった。ネンさんの姿を横目でチラチラ見ながら、私達はそっと奥の本棚の方へ行く。

接客中のお客さんが帰り、コッペパンを差し入れる。
「あそこのコッペパンやんね?近すぎるお店には行かへんから、まだ食べた事ないねん。」
良かった。
ハセショの冷房はエアコンの調子が悪いのか、設定温度がちょっと高めなのか、店内は少しムシッとしていた。
私はあんバターのバターがドロドロになってしまわないかと心配だった。

ハセショの奥にある絵本コーナーには少しスペースがあり、椅子が2脚置かれている。2つとも木の椅子だけど、1つは子供用の小さな小さな椅子。
絵本スペースの向かい側は1人編集者の本が置かれている。
私たちはそこで話をすることが多い。

私はネンさんに色々書き始めた事、書き始めてからアドレナリンが放出されているのかゆっくり休まらないと話した。
「休まらへんのは、パソコンで言ったら全部閉じてるつもりやのに、タスクが1つだけずっと終了してない感じなんやろうね。」(ちょっと違う言葉だったかもしれない。)
その表現に、ネンさん天才!と思った。

書きたいと思ったものは、降りて来た時に書かなければ言葉が頭の中から消え去ってしまう。書けずに旬を過ぎてしまったものが、下書きの中にはいくつも残っている。

熱しやすく冷めやすい私の性格を知っているネンさんは穏やかにこう言った。
「次に来た時には、『もう書いてないねん。今はパンケーキにはまってるねん。』とか言ってそうやね。」
「うん。新作のパンケーキ持って来たから食べてって言ってるかも。」

私は何かにはまっても直ぐに飽きて、次の新たなものに手を出してしまう。楽器もピアノ、アコーディオン、テルミン、サックスと色々手を出して、どれも中途半端だ。

坊ちゃん文学賞に応募するまでは、この熱意が冷めないことを祈る。


今回はなっちゃんとハセショに取り置きをお願いしていた本がある。
『軽いノリノリのイルカ』
又吉と満島ひかるの共著。満島ひかるが作った回文に又吉が短い物語をつけたもの。

そして今回購入した本達。

上段:私が購入した本 
中央:一度読んでみたかった原田マハさん(なっちゃんにお勧めを聞いて購入)ピカソも好き
右:大好きな『こころ』のプレミアムカバーが出ていた
下段:なっちゃんが購入した本
中央:私はまだ読んでいないけど『六の宮の姫君』を読んでみて欲しくて進めた芥川龍之介の短編集
右:私が読み終えてなっちゃんにプレゼントした佐野洋子さんのエッセイ

ハセショでのネンさんの会話と本の購入を終え、ファミレスへと移動。暑さと小腹が空いたのでスイーツとドリンクバーを注文する。

まずは、ノリノリのイルカをパラパラとめくり回文作成に挑む。iPhoneのメモを開き、回文を考える。お互いしばし無言。

・桃が好き。君の幹、キスが桃。
(モモガスキキミノミキキスガモモ)
・我が背、春から刈るは瀬川。
(ワガセハルカラカルハセガワ)

満島ひかるのような、綺麗で不思議な回文はできなかった。

そしていよいよ今日のメイン、坊ちゃん文学賞の話。
応募要項は
・4,000字以内
・印象的な結末
        以上

漠然とし過ぎていて何を題材に書けばいいのか、私にはイメージすら浮かばなかった。
その事を伝えると、なっちゃんは
「私思ったのは、むくみちゃんがおばあちゃんになって、大久野島のことを書いたらどうかなって。大久野島のこと、私は知らなくて、むくみちゃんのnoteを読んでそんな事があったんやって思ってん。大久野島の事もっと知りたいなって。」

私がおばあちゃんになって、大久野島のことを書く。考えてもいなかった。
「必要な資料とか本とかあったら用意するし。」
なっちゃんは、そう言ってくれた。

何の実績も才能もない私に、本物の元編集者がアドバイスをくれるということ自体、とんでも無く奇跡的な事なのに、サポートまでしてくれると言うなっちゃん。
ここは私も腹を据えて真剣に取り組まなければならない。

2人でiPhone片手に大久野島の資料探しを開始した。
「私この本買うね。読んだらむくみちゃんに送るから。」
なっちゃんは仕事が早い。

夜になり、そのファミレスで私たちは夕食も摂った。
パスタランチからの7時間半は瞬く間に過ぎてしまった。

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