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錯誤相関と占い:人はなぜ無関係な事象を結びつけるのか【セイスケくんのエッセイ】


占いは、古くから多くの人々に愛されてきた。星座、タロット、手相、占星術といったさまざまな手法で、未来や運命を読み解く試みは、神秘的で興味深い。しかし、占いが「当たった」と感じる瞬間が訪れるとしても、それは本当に占いの力が働いたのか? それとも、もっと身近な脳のトリックなのか? ここで重要になるのが「錯誤相関(illusory correlation)」という心理現象である。

錯誤相関とは?

錯誤相関は、無関係な出来事や事象を脳が勝手に結びつけてしまう現象を指す。たとえば、「黒猫を見た日は悪いことが起きる」という迷信がその代表例。実際には黒猫と不幸な出来事の間に何の関連もないが、たまたま黒猫を見た日に嫌なことがあったとき、その印象が強く残り、「黒猫は不吉」と信じ込んでしまう。
人間の脳は効率的に情報を処理するため、パターンを見つけ出すことに長けている。この能力は進化の過程で生存に役立ったが、時には無関係なものまで関連付けてしまうことがある。これが錯誤相関。

錯誤相関、つまり「無関係な出来事の間に関連性を見出してしまう現象」は、私たちが日常でどれほど頻繁に陥るかを考えると、非常に興味深い。無意識のうちに、私たちは思考の近道を作ろうとして、データの一部を都合良く結びつける。この傾向は特に「少数派」に対する偏見の形成で顕著に現れる
たとえば、血液型性格診断というおなじみの文化現象がある。A型は几帳面、B型は自己中心的、O型はおおらか、AB型は二重人格――というようなステレオタイプがよく話題に上がるが、これ自体がまさに錯誤相関の典型だ。なぜなら、血液型と性格の科学的な関連は一切ないにもかかわらず、こうしたイメージが社会に深く根付いているからだ。
少数派が悪目立ちする理由も同じ構造だ。目立つ存在に対する私たちの認知は、悪事をさらに印象深くする。珍しいものは記憶に残りやすいという心理的な仕組みがあり、少数派の人が何か悪い行いをすると、そのインパクトが大きくなってしまう。多数派が同じことをしてもすぐに薄まるのに対し、少数派の行動は「少数派」ゆえに記憶に強く刻まれる。
これが、差別や偏見の温床となる。少数派は、少数派であること自体で目立ち、さらにネガティブな出来事に巻き込まれると、その影響が強調される。たとえ実際にその集団全体が悪いわけではなくても、私たちの脳は「たまたま」を「傾向」として捉えてしまう。この認知のトリックに気づかないままでいると、少数派に対する不公平なレッテル貼りが続いてしまう。
この現象は血液型に限らず、あらゆる社会的状況で見られる。民族や宗教、性別、性的指向、どのカテゴリーにおいても、少数派がしばしば不当な評価を受けるのは、こうした錯誤相関に基づくことが多い。だからこそ、錯誤相関に敏感になり、自分の認知が本当に事実に基づいているのかどうか、冷静に問い直すことが重要だ。気づかぬうちに、私たちは数多くの「たまたま」を無意識に誤解している可能性がある。

占いと錯誤相関

占いの世界では、この錯誤相関が典型的に見られる。たとえば、占い師が「今月、新しい出会いがある」と予言した場合、その月に新しい人と出会えば「占いが当たった!」と感じるかもしれない。しかし、新しい出会いは日常的な出来事であり、特別なことではない。それでも、占いの結果を意識することで、脳がその出来事を重要視し、「予言が的中した」と信じ込んでしまう。
占いでよく使われるのは、「運命の転換点」や「新しい挑戦」といった曖昧な表現だ。これらはほぼ誰にでも当てはまるため、具体的な出来事をこれらの予言に合わせてしまう。結果、錯誤相関が働き、占いの言葉が的中したように感じる。

錯誤相関のメカニズム

人間の脳は、危険を素早く察知して身を守るために、進化の過程でパターン認識能力を高めてきた。これは生存に役立つ反面、脳が無意識のうちに過剰な関連付けをしてしまう原因にもなる。また、認知バイアス、特に「確証バイアス」も大きな役割を果たす。確証バイアスとは、自分の信念や期待に合った情報ばかりを重視し、それに反する情報を無視する傾向のこと。
占いが当たったと感じる理由のひとつに、この確証バイアスがある。占いを信じている人は、予言が当たったときの瞬間を強く記憶し、当たらなかった場合は無意識に無視する。こうして、占いが正確だという信念が強化されていく。

バーナム効果と占い

占いが当たったと感じるもう一つの心理的な要素として、「バーナム効果」が挙げられる。バーナム効果とは、曖昧で誰にでも当てはまるような言葉や表現が、あたかも自分に特別に当てはまるように感じる現象だ。たとえば、「あなたは内向的な面もありつつ、外向的な面も持っています」といった一般的な性格の説明だ。誰にでも当てはまりそうな表現だが、それを聞いた本人は「これは私のことだ!」と感じる。
占い師はこのバーナム効果を巧みに利用する。多くの人に共感を呼び起こすような曖昧な表現を使うことで、個別に当てはまるかのような錯覚を作り出すのだ。

占いと心理的な支え

占いが錯誤相関やバーナム効果を活用しているとしても、全てが悪いわけではない。占いが心理的な支えになることも多い。人生に不安を抱えるとき、人は何かしらの道標や答えを求める傾向がある。占いはその役割を果たし、たとえ錯誤相関によるものであっても、心の安定を提供する。占いが当たっていようがいまいが、結果として安心感を得られるのであれば、それは十分に価値があると言える。

錯誤相関を知ることの意義

錯誤相関は占いに限らず、日常生活の中でしばしば見られる。ニュースで特定の事件が繰り返し報じられると、その事件が頻繁に起こっているかのように錯覚したり、特定の行動が何かを引き起こすと信じ込んだりすることも、錯誤相関が影響していることがある。
占いが楽しいのは、未知の未来に対する不安を一時的に解消してくれるからかもしれない。ただし、その結果を過度に信じ込むのではなく、錯誤相関やバーナム効果を理解することで、占いの真の意味や背後にあるメカニズムを冷静に見極めることが重要だ。現実的な行動を選択する力を持ちながら、占いを楽しむ。これが、占いとの健全な付き合い方だろう。

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