桜のしべが見つめている-06(小説)

「だいたい、ぼくみたいなモノに姿かたちや言葉を必要だと思うのは、きみたちの都合だよ」
 ソレは急に声のトーンを落とした。囁くようにも、諭すようにも聞こえる。
「見えなくても、聞こえなくてもコチラには支障ないのだからね。後ろ暗いところがあれば妖怪に、縋りたければ神に、なんの警戒心もなければちょっと変わった風貌の同胞に見えるのはきみたちの性質ってやつじゃない?」
 無数のまぶたをすうっと伏せて言う、ソレの表情が急に、なにか見たことにあるものに思える。ユウコは両手をぎゅうと握ったり、開いたりした。けれど、似ているなんて感覚自体も『きみの都合』だと言われたらそのとおりで、じいと黙っておくことにする。

(続く)

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