カステラみたいにまるく(日記)

 いい夜だった。
 真夏の真昼の真正面からじりじりと人間を溶かし尽くすような、湿気と熱気はようやっと鳴りを潜めて、ほんのわずかな友人たちとほんの少し、今日までの暮らし、今日の成果を労った。本当は呑んだくれて三次会まで雪崩れ込んだり、空が白むのを眺めつつファストフード店の窓辺で始発を待ったり、したいものだけれど。そうもいかないのは時世もあれば身体疲労もある。
 だからほんの少しの時間を一緒に食事して別れただけなのだけれど、帰りの坂道で見上げたら月のまるいこと、まるいこと。子どもの頃に絵本で見た、フライパンいっぱいの大きなカステラみたいでかわいかった、かわいいだなんて、お月さまを相手に大それた話だ。
 ああ、いい夜だ。
 実際には欠けていることも儘ならないこともたくさんあるのだけれど、なんとなくいい夜だった気がしている。友人は私と考え方がちがうことを面白さとして語らえたり、本人の自覚以上に心根の深いのであったり、私なんぞに話を聞いてほしがってくれるのであったり、ああ、こんなに私と友人たちとは別の人間なんだなあと思ってしみじみ、面白がれるのがいい。
 私からは満月に見えても彼女からは今夜、三日月かもしれない。私と友人とは立っている地点がいっそ惑星ごと違うけれど、たぶんそれがよかった。誰が見ても本当に同じ月なら、最初から私もあなたも他人を必要としなかったでしょうから。

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