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#2 ”理想の夫婦”とわたしの名前

みなさんそれぞれにとって「自分達らしい夫婦のカタチ」ってどのような状態でしょうか。そもそも自分達らしい夫婦のあり方とは何かを考えたことがある方はどのぐらいいるでしょうか。

私が夫と2人での新しい生活を始めたのは、社会人3年目の25歳の春。高校の同級生である彼と、9年程のお付き合いを経て入籍し、結婚7年目を迎えました。

長い時間を共にする中でも大きな衝突もなく順風満帆な夫婦生活を送ることができていることに、私は恵まれているなと思い続けてきました。
そして、何より学生時代からのパートナーとそのまま結婚してその後も仲が良いということで「理想の夫婦」だと友人や同僚から言ってもらえることも多く、何一つ不満のない夫婦生活を送らせてもらっています。

「恵まれている」「不満がない」・・・それは事実なのですが、、、30代になり、キャリアも積みさまざまな思考に触れることが増える中で、「この日々が果たして本当に自分が心から望んでいる夫婦の形なのか」と心の中でのもやもやが増えていきました。

断っておくと、今の生活や関係に不満があるわけではありません。ここだけは強く主張しておきます。

理想の夫婦とビジネスネームの違和感

私の夫婦生活におけるもやもやがどんなところにあるのか、自分を見つめ直し考えていた時に、自分が世の中(私の周りだけかもしれません)の「理想の夫婦像」に縛られすぎていたことに気がつきました。

例えば、「ビジネスネーム」についてです。

最近は結婚をしてもビジネスネームは旧姓のままという方も多いかと思いますが、私の場合は、入籍してすぐにビジネスネームも夫の姓に変更しました。
夫や家族に相談すると「変更することが普通」だとアドバイスをもらい、職場でも女性社員は結婚したら名字を変えてお客様にご報告することが多かった時代でした。

もちろん、変えない選択をする女性もいますが、「旧姓のまま仕事をするってことは、家庭を大切にしてないのでは」「旦那さんがかわいそう」、そのような評価をする人もいると聞き、心無い言葉を苦しく思うこともありました。

こういった背景から、私は迷うこともなくビジネスネームを夫の姓に変更することを決意しました。

当時の私は、世の中から理想の夫婦、いい妻だと思われたい、そのように社会に溶け込みなんとなく道を外さない人生を歩んでいることに満足していたように思います。

名字の変更後、最初は想定通り「結婚おめでとう〜!」と声をかけていただき、幸せな毎日だったのですが、1週間ほどで違和感をおぼえるように。なんだか急に”別人”として仕事をしている感覚になりました。

「西岡さん」と名前を呼ばれても振り向けない。あれだけ堂々と自己紹介ができていたのに急にしどろもどろになる・・・なんだか私らしくない。

「私だからできる仕事がしたい」「私が関わった軌跡を残したい」、ずっと仕事において大事にしてきたこと。順調にキャリアを積み、成果も出し、いつの間にか業界では名前をよく知られるようになっていた私。

名字を変えたことで、今まで築いてきたキャリアが突然途絶えたような絶望感と、ゆかりがない名前を呼ばれることで、私個人としての承認欲求がなんだか満たされていないような感じがしました。

自分の名前と私らしさ

理想の夫婦だと思われたい、夫からも変えて欲しいと言われている、大多数と同じ意思決定をしビジネスネームを変えた。ただそれだけの出来事。

こんなちっぽけなことで悩んでいるのはおかしい、周りと同じことをしただけだから何もおかしくないと無理に心を沈めようとしました。でも考えれば考えるほど、もっと複雑な思いに。

最終的には、私はビジネスネームだけでなく、「そもそも夫婦別姓を望んでいたのだ」という本当の自分の声に気がつきました。
でも、そのことは夫にも相談ができず心の奥底にそっとしまい込んで、実はつい最近に至るまでひとりでずっと後悔し悩んでいました。

長らく夫に打ち明けられずにいた私ですが、インタビュー取材やイベント登壇で私の今までのキャリアや人生観について語らせてもらう機会が増え、偽りの言葉を語りたくないという思いが募り、夫に自分の気持ちを伝えてみることにしました。

ただ、7年も前の決断のことを今更夫に直球でぶつける勇気はなく、私がとった手段は自分のことを語る登壇の練習につきあってもらうこと。私が大事にしていること、今までの原動力やチャレンジ・・・そしてその中でビジネスネームを変更した時の苦悩にも触れました。

登壇当日のように一方的に話し終わった後、「改めて尊敬し直したよ。もう自分達の周りにいる同世代とは全く異なる挑戦をしているのだから、世間体なんて気にせず突き進むのが、お前らしいよ。」と一言だけ感想を残して、ふたりの日常の会話に戻っていきました。

「登壇の練習に付き合ってもらう」という間接的な対話のきっかけを経て、一番身近である夫に認めてもらい、背中を押してもらう安心感を改めて感じることができました。

そして夫婦というカタチに縛られるのではなく、ひとりの人間としてお互いに向き合っていこうと私の中での夫婦のあり方が大きく変化したのでした。

誰かにとっては、すごく些細でどうでもいいことかもしれない。でも私にとっては、周りなど気にせず、一歩踏みとどまって考えるべき非常に大きな意思決定のタイミングだった。

心のざわつきを辿っていった結果、私にとって「名字が変わること」は自分自身のアイデンティティがなくなってしまったと感じるぐらい大きな出来事であったことに気がつき、私は「自分が何者なのか」を本当に大切にして生きているのだと実感することができました。

世の中の理想の夫婦像や一般的な夫婦像と比較をして、なんとなく良さそうな意思決定をするのではなく、私が、そしてお互いが、大切な価値観や小さな違和感をどんな些細なことでも赤裸々に共有をし、ふたりで夫婦の道を決めていく。

周りに何を言われようが、ふたりが自分達の意思決定を肯定できればそれでいい。

私の今までの夫婦生活の絵は、きっと有名画家が描いたものをそっくりそのまま描いていたようなすばらしく綺麗なものなのだろう。
ただそこには、私たちにしか出せないふたりの交わった色も泥臭い人間味のある色ものっていない、ただただ綺麗な景色。

このビジネスネームの件を皮切りに、どんな小さなこと、どんなに当たり前と言われるようなことでも、社会に惑わされず、理想に振り回されず、ふたりで対話をして意思決定をするようになりました。

そして何か違和感があったらすぐ共有して軌道修正していく・・・それができるようになってから、ただ単に仲が良く心地の良い関係だけでなく人生を共にするパートナーとして私自身が正しく前を向ける、そのような居場所になりました。

自分たちらしい夫婦のカタチ

同じ夫婦のカタチなんてものはない。結婚して何かを諦めなくてはいけない、何かを我慢しなくてはいけない、何かずっと違和感がある・・・せっかくふたりで生きる選択をしたのであれば、後悔する前にまずは自分に正直になり、パートナーと包み隠さず対話をしてみて欲しいと思います。

不満はないけどなんだかもやもやしている、そんな人は、小さなことでも環境が変わったことで起きた心の変化を思い出してみてください。私にとってのビジネスネームがそうであったように、何か心の声に気がつくヒントがあるかもしれません。

また、カップルカウンセリングのような利害関係のない第三者を頼り、ふたりの新しい未来へのきっかけをつくることも知っておいてもらいたい選択肢です。

不満がない生活ができている、社会の一般的な流れに沿っているから大丈夫、そう思っていても、もしかしたらもっと自分らしく、自分達夫婦らしく、ふたりでの新しいステージを歩める方法があるかもしれません。せっかく出会った大切な人と今日は是非ゆっくり話してみませんか?

(私も今週末は旦那と”子供”についてじっくり話し合ってみよう。)



株式会社cotree代表取締役  西岡恵子さん

1990年生まれ。静岡県浜松市出身。同志社大学法学部卒業後、森永製菓株式会社、株式会社サイバーエージェントを経て、コネヒト株式会社に参画。事業開発・マーケティングを強みとし、ママ向けアプリのママリの事業責任者としてビジネスグロースからサービス戦略設計に従事。大企業からベンチャーまでの経験を軸に、フリーランスとして複数社の事業戦略・マーケティング支援を行いながら、2021年cotreeに参画。2022年1月に代表取締役に就任。

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