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蕎麦屋で酒を飲む

南部美人をちびりとやりながらタラの芽の天ぷらを齧る。

酒が強いわけでもない自分が、不思議と日本酒だけは飲める。そう気づいたのは、ここ数年のことだ。

アルコールは友人と会ったときだけの楽しみで、晩酌はしない。最寄り駅での食事は牛丼屋が一度だけ。そんな自分が蕎麦屋の暖簾をくぐった。

心のどこかで孤独を感じていたのかもしれない。誰かと話したい夜だった。だが、日本酒とせいろが替わりに飲み込まれていった。

山本周五郎、池波正太郎。彼らの作品には、蕎麦と酒がよく登場する。そこに現れるのは、どこか寂しさを抱えた江戸の男たち。おれもそんな感傷的な気分に憧れていただけなのか。

駅からアパートへの帰路。侘しい帰り道は、だが幸福な独り言に満ちていた。春だ。

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