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『旧市町村日誌』24 長い旅の狭間  文・写真 仁科勝介(かつお)

9/30(土)晴れ

 広島の大崎上島で結婚式に参列する。島に移住した二人を、島の方々が祝福する温かな光景だった。懐かしい再会もあれば新しい出会いもあって、幸せをお裾分けしてもらう。旅の途中ではあるが、旅以外の時間にも、大切なことは含まれている。同じ人生なのだから。

 

10/1(日)曇りと晴れ

 島で一泊。早朝から漁師を撮影するための漁船に乗せてもらった。船から見える景色はとても新鮮だ。撮影に関して言えば、やっぱりこの状況で、冷静さを保ちながら、自分の見えている景色のみならず、目の前にある景色に反応するように受け取っていくことには、大変な集中力が必要だ。

 

10/2(月)晴れ

 西日本では当たり前のように晴れているが、東北の日本海側は雨なのだ。こちらでちょうど涼しい気温だったら、東北はかなり寒いということなのだ。目の前にあることが、世界の中心ではない。誰かにとっての今日は暮らしの数だけある。その数はいくら想像しても想像できないから、見えていないだけなのだ。カブを置いている山形のことを、思いつつ。

 

10/3(火)晴れ

 2日連続で歯医者へ。しかし、まだ虫歯が完治しなかったので、明日も行くことになった。今のうちに時間があってホントよかったよ。

 

映画「きっと、うまくいく」と「イニシェリン島の精霊」を観た。二作品とも、内容は全然違っていても最高だった。人間はどこまでも測れない不思議な生き物だ。

 

10/4(水)晴れ

 カフェを探す。倉敷の観光地とやや離れたカフェを訪れると、入った瞬間から祖母の家のような香りがして、やはり地元のおじいさん、おばあさんが集まって話に花を咲かせていた。観光客や若者のいないカフェ。悪くはないが、もう少しだけ自分にとっても居心地の良さを探してもいいかな。

 

図書館で3時間読書する。東京でも旅先でも、一気に3時間集中することは上手くいかない日があるのに、ここだとできてしまうわけだ。だって、中高時代にずっと籠っていた場所だからね。今では10歳年の離れた高校生たちが勉強している。真っすぐな眼差しが映し鏡。いつかのために畑を耕すこと、それが今。

 

10/5(木)晴れと曇り

 撮影で広島へ。まったく自分とは別分野の人たちの話をたくさん聞いた。自分が気にしていた考えの方向性が少し明るくなる。簡単な登山ではない。外から見えやすい、登る、登らないのあいだにある関門を、突破するのだ。

 

10/6(金)晴れ

 終日撮影。当日に撮影内容がボワんと箱から煙になって出てくる。広島で聞いた話を反芻して思ったこと。誰かのアクションを反面教師にすることは簡単でも、自分こそがいろんなバイアスを持っていて、そこに気づくことの方が、難しいということ。旅をしていたら気づけないことだったかもしれない。活かせるかどうかも、自分次第。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。



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