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『旧市町村日誌』21 最後の北海道 文・写真 仁科勝介(かつお)

9/9(土)曇り

 作業が溜まっていて休養日に。朝からコメダ珈琲に向かう。それでも、意識がぼーっとしてしまった。今まで、コメダならすごく集中できていたんだけどな。思っていた以上に、疲労が蓄積している。早めに切り上げて、スーパー銭湯に入湯。休むときに休まないと、トータルでの効率が悪くなってしまう。惰性や甘えではなく、前向きな気持ちのベクトルで、客観的に心身を見つめよう。

 

9/10(日)晴れ

 札幌市の旅。11時過ぎ、右折待ちの信号でカブのエンジンがストップ。急いで左へ退避。広い場所で走りがけを試すと、エンジンが一度はかかってもすぐに止まる。これはまずい……。近くのバイク屋さんで症状を聞いて、別のバイク屋さんに繋いでもらって事なきを得た。直してもらったのは基本的な部品。

 

夕方、こうちゃんと華さんと5年ぶりに再開した。前回の旅のときに五島列島でお会いして、在住の札幌でもお世話になったのだった。二人とも変わらず元気で、「かつお! お前は敬語が多い。堅苦しい!」と、今回もたじたじになった。

 

でも、5年経って、自分も少しだけ、見える景色が変わったような気がする。何もわからないままにお世話になっていた前回とは少し違う。こうちゃんにも「あのときは何も知らない大学生だと思ったよ」と言われた。もちろん、今も知らないことだらけだ。そのことを心得た上で、前よりは心にゆとりを持って過ごせることが、うれしかった。美味しい北海道の幸をたくさんご馳走になりながら。

 

9/11(月)小雨と曇り

 15時にバイク屋「ロケットパンチ」さんでオイル交換。「タイヤも変えた方がいいべ」ぼくも同じ気持ちだ。北海道を一周して、だいぶ摩耗してしまっていた。札幌市でお願いできそうなお店を教えてくれて、向かってみる。すると、明日中には交換できそうな形でお願いできることになった。

いやあ、助かるなあ。札幌市で修理ができてほんとうによかった。

 

夜はZさん、Kさんと食事。お二人にはちょうど1年ほど前、札幌の仕事でとてもお世話になった。常連で賑わう老舗の居酒屋に連れ出してもらう。お二人とも東京と北海道を頻繁に往復していて、話を聞くだけでも新鮮だ。まだまだ自分の知らない世界が溢れていて、人を動かす熱と光に触れられたような気持ち。

 

9/12(火)土砂降りの雷雨

 地下鉄の入口を降りる直前、目の前が、どんなストロボよりも眩しく光ったかと思うと、「カリカリカリィ!」と、落雷の衝撃が地面をつたって、ジャンプしそうになった。

 

ガラケーのバッテリーを交換してもらい、近くのスタバにこもる。直ったばかりのガラケーに早速着信。バイク屋さんからタイヤ交換が終わったと。明日は定休日だけれど、スタッフがいるので取りに来てもらっていいとのことだった。とてもありがたい。

 

一気にスケジュールを組んでいく。すでに、週末の船は二輪車が満車だ。つまり、2日後の木曜日の船で北海道を出る方がいい。明日と明後日が残された時間。修理やメンテナンスがずれていたら、まだまだ予定は変わっただろう。どんな一日になっても正解だとは思うが、ベストな日程じゃないかな。十分なほどに。

 

9/13(水)晴れと曇り

 スーパーカブをお店に取りに行く。ピカピカのタイヤで帰ってきた。タイヤは綺麗なのに、あまりに車体がドロドロなので今すぐにでも拭きたいが、水道がない。布を水たまりで濡らして拭く。

 

札幌市の10区を訪れた。これで、残すまちの数が1740に。全市町村数は23区を合わせて1741だから、前回の旅のスタートラインにようやく並んだ。160日間、ここまで辿り着く唯一の方法は、ひとつひとつまちを巡ることしかない。一段飛ばしもできない階段を、のぼっていくのだ。ここまで528段。あと1740段。

 

阪神も、アレに向けてM1になったんだよね。ここに辿り着く方法も、一試合ずつ戦って、勝利を積み重ねていくしかない。岡田監督も常々そのようなコメントを残しているような気がする。一試合ごとに、誰かが打った、打たれた、守った、走った、プレーの数々がある。その一挙一動のために、選手は長い時間をかけて準備する。裏方のスタッフも球場のアルバイトも試合に合わせて出勤する。その濃密な誰かの時間の先にある勝利を積み重ねて迎える「アレ」なのだ。もう、ほんとうに、岡田監督から学ぶことはたくさんある。

 

エスコンフィールドでの試合は2-5で日ハムの勝利。連敗を6で止める。ヒーローインタビューで松本剛選手の「毎日悔しいですよ」の言葉から、プロを感じた。背負うものを背負って、たたかっている。松本選手が好きになった。

 

9/14(木)大雨

 札幌市街地を歩く。10時から大通公園のさっぽろオータムフェストがはじまった。実りの秋、北海道内の美味しい食べ物が大集合するのが、オータムフェスト。今年は完全版での開催だという。平日の荒天でも観光客が集まってきた。ラーメンとカレーをいただく。どのお店を選んでも当たりなんじゃないかと思わせる美味しさ、魔性の北海道。

 

札幌市は今、あちこちで再開発が進んでいる。「今は札幌のシンボルがなくなっていくとき」と地元の方は仰っていた。すすきのだって、工事ばかりなんだよなあ。

 

豪雨の中、ひたすらに苫小牧東港まで移動。無事に着いてよかった。カブも直り、タイヤも新しくなり、タイミングに助けられている。

 

もう、北海道をバイクで走ることは、人生で最後なんじゃないかな。これだけの長い旅をすることがこの先あるだろうか。そして、悔いなんてない。カブとまた北海道を走れたなんて、あまりに幸せなことだから。

 

阪神が優勝した。日本代表は別として、ひいきのチームが優勝するうれしさを初めて知る。船内で、テザリングもWi-Fiも遅く、優勝したのだとかろうじて速報で知った。そこから先の盛り上がりは、完全に電波が切れてしまってダメ。でも、優勝したんだとわかって寝れてよかった。18年ぶりの優勝かあ!! 最高だ!!

 

9/15(金)晴れ

 朝7時半には秋田に着いた。ここからもう一度、本州の旅の再開だ。もちろん場所にもよるけれど、今日は移動が短く感じられて助かった。長距離移動が多かった「北海道効果」である。

 

秋田の田園風景は黄金の絨毯がなびき、稲穂の香りがした。淡い青空と黄金のコントラストが、あたりまえの風景のように存在しているが、そうじゃない。農家の方々が丹精を込めて育て、無事に今日を迎えた上で、収穫前のわずかな時期にしか出会えない、日本の原風景だ。




仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。


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