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『旧市町村日誌』20 道東から道北、そして道央へ 文・写真 仁科勝介(かつお)

9/2(土)曇り

 帯広から音別、釧路、阿寒と進んで、最後は弟子屈へ。スムーズに移動したくても、帯広から音別までは約80キロ、音別から釧路までは約40キロ。釧路から阿寒湖までは約80キロ。どうやっても時間がかかる。

 

弟子屈の旅人宿昭栄さんに3年ぶりに泊まった。宿主のさだひろさんは3週間ほど前、お子さんが生まれた。ご自宅で抱っこさせてもらう。目を閉じながら動く新しい命。高尚な感想なんて持てない。ああ、新しい命がある。そのことばかり……。

 

9/3(日)晴れ

 弟子屈から旧東藻琴村へ向かう途中の景色が素晴らしかった。摩周湖は凪いでいて、湖面に空の青と雲と山が鏡のように映り込んでいる。峠を越えると硫黄山が煙を吐いていた。麓まで進むと硫黄の匂いがしたけれど、そこにも暮らしがあった。

 

東藻琴の乳酪館。レジのお母さんがとても親切で、ほかのお客さんが扉を出入りするときにも、挨拶の声が澄んでいた。お土産とソフトクリームを買ったあと、お母さんとお話をしたけれど、退館して市街地を歩いていたときに、「合併のことを聞いていなかった!」と、もう一度乳酪館に戻った。お母さんは東藻琴の出身だと仰っていたからだ。旧東藻琴村は旧女満別町と合併し、現在は大空町である。

 「大空町になったことは、新しいはじまりでした。東藻琴への愛着もありますが、時間がもっと経てば、また変わっていくのかもしれないですね」

 

9/4(月)晴れのち曇り

 プロ野球の試合はほぼ週6続く。どれだけ疲れていても、そこで結果を出そうとプレーする。阪神が優勝マジックを少しずつ減らしている姿を見ると、自分もがんばらなきゃだめだ、と気合いが湧き上がってくる。

 湧別、遠軽を中心に旧市町村を巡った。前回の旅では今よりもかなりショートバージョンで巡っていたのだなと、気づかされる。まちの解像度が前回よりも上がっていくことはうれしい。でも、ひとつ言わせてほしい。ひとつひとつのまちが、遠い!

 

9/5(火)雨のち晴れ

 雨のピークが過ぎるのを待って出発する。北見から留辺蘂までは楽だったが、その先の長さといったら。士別市の旧朝日町まで約140キロあって、大雪山の東側の峠越え、石北峠も標高1000メートルを越えた。朝は重ね着をしても肌寒いほどだったが、峠を越えて晴れ間が広がると、急に暑さが増した。

 羊の丘公園で、草刈りをしていたおじさんと会話した。服が汗でぐっしょり濡れている姿が眩しい。岡大の農学部出身だと知って、会話が弾んだ。おじさんは大学を卒業してすぐ、憧れていた北海道にやって来て、今に至ると。すでに定年を迎えられた。

 

「今のうちにいろいろ経験しなさい。人生は敗者復活戦だよ」

 
言葉に嫌味はなく、清々しかった。

 

9/6(水)曇りと晴れと雨

 名寄から枝幸を経由して、猿払へ。5年ぶりのエサヌカ線、晴れ間が一瞬でも顔を覗かせてくれて、しみじみ。

 猿払村の新家拓朗さんに初めてお会いする。村を案内していただき、ホタテとジンギスカンをご馳走になった。ホタテは今朝水揚げされたばかり。とにかくもう、人生でこれ以上食べることがないぐらい、たくさん食べた。丸かじり、刺身醤油、バター焼き、ぜんぶ美味しすぎる。この美味しさ、自分よ、忘れるな……。

 宿泊は猿払村の宿が満室だったので稚内へ。雨上がり、宗谷丘陵に満天の星空が広がった。走りながら、星が伴走する。原付を停めてヘッドライトを消すと、地上すべてが暗闇に変わり、星空に吸い込まれそうになった。

 

9/7(木)晴れ

 昼まで稚内で過ごす。ノシャップ岬と、稚内出身の方が教えてくれたラーメン屋「青い鳥」へ。満席で待ったあとに食べた塩ラーメン、美味しかった。

 それから5時間ほどかけて、沼田町まで移動。バイクの移動時間は散歩に似ているかもしれない。散歩より疲れはするけれど、体をリラックスさせていると、何かがふと思い浮かぶ。

 久しぶりに湯船に浸かった。温泉は最高だ。

 

9/8(金)おおむね晴れ

 快晴のオロロンラインは心地良いに決まっている。日本海沿いの国道から深いブルーが顔を覗かせていると、北海道の自然に触れられている気がする。

 夜、初めてエスコンフィールドに行った。日ハムと西武のゲーム。先発投手は上沢投手と平良投手。日ハムは中盤の先制点のチャンスを活かせなかったが、西武はじわりじわりと得点を重ねていった。6―0で西武の完勝。日ハムファンの方たちは揃って悔しそうだ。

 それにしても、エスコンフィールドの美しさたるや。「メジャーのような球場」の喩えを何度も聞いてきた。そして、ぼくも同じ感想を持ったのだった。アメリカに行ったこともないくせに。球場って、こんなに感動するのだなあ。いつか日本シリーズで球場を揺らしてほしい。




仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。


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