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『旧市町村日誌』 52 夕焼けがもたらすもの 文・写真 仁科勝介(かつお)

9月10日(火)

 

旅を続けています。

朝は徐々に涼しいと感じられる機会が増えて、特に日陰や標高の高い地域では、風を浴びることに喜びを感じます。一方で昼間は、まだまだ汗をかくし、入道雲もほとんど毎日見かけています。それでもトータルで見れば、やはり季節は少しずつ進んでいるでしょう。

 

旅のルートは、岐阜県から愛知県の奥三河、長野県の下伊那を巡ったのち、再び岐阜県へ戻り、ぐるっと岐阜県を反時計回りに一周することを目指し、北陸地方を少し意識しています。あまり先のことまでは考えられないけれど、理想を見つつ、現実を離れずに、コツコツと進むという意識は、これからもずっと変わりません。

 

さて、今日、思ったことがあります。

宿泊地の飛騨市古川町で、夕方にお惣菜屋さんまで行きました。チェックインした旅館のご主人が優しい方で、その惣菜屋さんを紹介してくださったのです。地元の方向けの懐かしいお店で、横付けされたタクシーも停まっていて、そのタクシーに乗ろうとしたおばあちゃんが、「はい、いらっしゃい! こちら、ご馳走が少々!」とぼくに向かってニヤッと笑いました。そのさりげなさと言葉遣いが粋だなあと思ったし、とっても美味しそうな惣菜をパックにたくさん詰めても360円だったので、その安さにも驚いたのですが、本題はそこではなく。

 

お惣菜屋さんからの帰り道に、夕焼けがほんとうに綺麗で、見惚れてしまいました。ちょうど一週間前に、多治見市で見た夕焼けもとても美しくて見惚れていたはずなのに、今日もまた、本気で夕焼けに見惚れたのでした。

 

一週間前も夕焼けを見て、「がんばろう」という気持ちが込み上がってきました。そして、今日の夕焼けを見ても、ぼくは夕焼けからほんとうにパワーをもらっているのだな、と本気で感じられて。町並みのシルエットと相性が良かったというのもあるけれど、やはり夕焼けの色と雲に、心を奪われる感覚で。

 

ヴィクトール・E・フランクルが強制収容所での体験をつづった、世界的ベストセラー『夜と霧』の一節に、囚人たちの夕焼けに関するエピソードがあります。強制収容所での過酷な労働と栄養失調により、囚人たちは生きるか死ぬかの状態にありながらも、美しい夕焼けが現れた日には、ただそれをじっと眺め、感動していたと。

 

まったく、比べることはできませんが、ほんの少しだけ、もしかすると、自分が夕焼けに感動したこの気持ちは、本に書かれていた気持ちと、似ているのかもしれない。そう思いました。『夜と霧』を初めて読んだときは、この「感動」の部分は、わかっていなかったように思います。でも、今は旅を続けていて、体の疲れもゼロではないので、夕焼けを眺めていると、力が体に染み入ってくるようで。

 

この気持ちは、旅が教えてくれたことです。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。


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