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『もう一度旅に出る前に』35 Hurry but no rush 文・写真 仁科勝介(かつお)

着々か、だくだくかはわからないが、旅の準備は進んでいる。

先日、仰向けになり、口をおおきく開き、眉間にしわを寄せ、指で太ももをつねりながら、旅の護摩行を受けていた。その土地は寺院ではなく、歯科院と呼ばれていた。旅を始める前に、克服せねばならなかった。神経に突き刺さる猛烈な痛みの峠を越えて、勝った! と状況を理解したとき、明日にでも旅に出たいと思った。だが、最後の最後に先生は、別の虫歯がありますね、と悪魔の微笑みを見せた。来週の護摩行が悩みである。

旅の予行演習に近い機会もあった。予行演習というのは言い回しで、事情は込み込みだが、二週間ぐらい家を離れて、ひとりであちこちにいた。まだスーパーカブは修理中で乗っていないけれど、荷物をどうするのか、カメラをどうするのか、ちいさな試行錯誤を繰り返して、予想と違う結果も多く出た。ただ、ぼくは旅の初日に怪我をした人間なので、どんな準備をしたと申し上げても、最終的には説得力がない。それを認めた上で、できることを細々とやっている。

好きな言葉に、Hurry but no rushというものがある。この言葉を教えてくれた人のことがすごく好きだから、好きになった。英文法としては正しくないそうだ。それでも言葉の響きとリズムが良い。日本語に訳すなら、急げ、でも、急ぎすぎるな。ゆっくり急げ、と言えるだろう。焦ってはいけないが、やるべきことをやれるように。
銭湯に入っておちついて、ほどほどに、Hurry but no rush! である。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247

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