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『もう一度旅に出る前に』26 自分の時間軸 文・写真 仁科勝介(かつお)

11月に展示があって、そのあと一週間弱、広島に行って、写真を見てもらったり、写真集をコツコツ売るなどした。そして、12月に入ったわけだが、お風呂でぼーっとしていたとき、「まだ1ヶ月しか(写真集の活動をはじめて)経っていないのか」と逆にビックリした。体感としては、3ヶ月ぐらい経った感じだ。

そういえば、しばらく前に時間の自由研究をしたことがある。秒針の動きは不変だが、体が感じる時間は変化するという話であった。楽しい時間は過ぎるのが早い。と同時に、子どもの頃の夏休みのように、新しいことを次々に体験しているときの時間は、あっという間でありつつ、実は長い。だから、まだ1ヶ月しか経っていないという感覚は、東京に来て初めてのことだったし、ようやく自分で好きなことをできている気がして、嬉しかった。

あと、写真集の発送をしていると、あらためて一冊一冊を送るという作業が、自分で今まで見えていなかったなあと気づかされる。Amazonでぽちっと押せば、翌日に買ったものは届く。大きなシステムが導入されて、自動化されていることはわかる。ただ、直接家に届ける作業は、人の手による。手紙を届けるのも郵便局の人だ。そのことを、集配所でバーコードをぴっと認識させて、住所と名前がびびーっと印刷されるときに、感じた。パソコン上で住所はわかるけれど、集配所で印刷された地名を見ると、届けることへの実感が湧くのだ。その上で、「わあ、どうしてこのまちに住んでいらっしゃる方が、ぼくのことを知ってくださっているのだろう」と、ものすごく不思議に感じられる。北海道から沖縄まで、一応どの住所を見ても、おおよそその場所のイメージが浮かぶ(住所を調べることはしない)。その度に、ものすごく嬉しくなるし、そのまちに行きたくなる。何より写真集『どこで暮らしても』は、東京でも東京以外でも、まさに全国のどこで暮らしていてもいいんだ、という気持ちでつくっているから、より嬉しくなるのだ。そう思いつつ、集配所でぼくがやる作業は、一冊なら早いが、40冊とかになればまあまあ時間がかかので、受付の方に申し訳ない気持ちだったけれど、「最後まで付き合うから安心して!」と受付のおばちゃんは言ってくれて、ぼくはおばちゃんにLOVEを感じたのであった。発送作業もいい経験だ。

そして、いまあらためて「つくることは楽しい」と思う。自分がやりたいことをやって、まとめる。見てもらう。それは、夏休みの自由研究と何も変わらないじゃないか。そこに、ちょっとだけ分野や立場が加わり、周りからの見え方が変わるだけで、やっていることは自由研究だ。だから、そう思えてくると、吹っ切れた。楽しい。それは、自分のことだけではなくて、ほかの方々との出会いも影響している。文学フリマでも、こんなにたくさん創作をしている方がいらっしゃるのかと思ったし、広島蔦屋書店さんでリトルプレス博があったときも、同じだった。そういう場所で出会う方々を見ていると、細かなことを考える前に、つくろう! という原点回帰を教えてくれるのだ。デトックスされた気持ちだ。

あとは、少し先のことを考えている。もちろん、一日一日をこなすことに変わりはないけれど、仮に3月末に、次の旅を始めるとしたら、あと残りの日数は120日なのだ。もう、そういうタイミングになっている。もっと昔に想像していた残り120日とは、まるで違う日々だけれど、大丈夫。体と心は、大丈夫だと言っている。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247

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