『もう一度旅に出る前に』14 自費出版の写真集 文・写真 仁科勝介(かつお)
先日の旅が終わって、写真の整理を始めた。自費出版の写真集を作るためだ。そうした経験は学生時代にもある。当時は「自分の範疇でできるものにしよう」と、一人で写真を選んで、配置して、ネットサービスに発注していた。少数で、在庫はほとんど持たなかった。作ることが何より大切だから、それもまったく悪くはない。
ただ、今回はいくつか違う。自費出版だとしても、写真集を一人でつくることをやめた。自分が撮った写真を、自分で判断することは難しいのだ。それをいつから感じるようになったのかな。客観的な眼を持つ第三者の方がいると、全然違うのだなあということは、仕事をしていても感じる。「ふるさとの手帖」の本も、素敵なデザイナーさんが入ってくださって、写真の配置をたくさん提案してくださったことで出来上がった。それで写真の印象、ましてやページ全体の印象が、まるで全然違うのだから、「編集ってすごい力だ」と唸ることしかできなかった。
だから、今回は編集の仕事に携わっている友人に、忙しいところ無理を言ってだけれど、手伝ってもらっている。この前数人で集まって、写真の仕分けなり、意見の交換なりをしていたら、とっても面白かった。「この写真とこの写真を並べたら、違う意味が生まれるよね」とか、発想が写真ファーストなのだ。いい作品をつくりたいという目標があって、そのためのプロセスを、真剣に手伝ってもらえることは、つくづくありがたく、幸せなことだ。
そして、本の印刷にあたっても、今回は印刷会社さんにずっと相談をさせてもらっている。見積もりから最後の製本まで、一連のお願いを自分でするのは初めてだ。分からないことも多くて、担当してくださっている方に、申し訳ないなあと思うことばかりだけれど、できるだけ知識を覚えて、考えて、相談して、いい作品に近づけたら嬉しいなと思う。自費出版だし、たくさんのお金を持っているわけでもないけれど、それでも一生懸命に作らせてもらって、手に取ってもらえたとき、心が温かくなるようなものが、出来上がるといいなあ。
写真集のプロジェクトはチャレンジだ。もしかすると、失敗してしまう可能性も大いにある。そもそも売上がないと、大赤字になる。次の旅に向けたお金がなくなってしまうかもしれない、という怖さもある。それでもやるのは、やってみないと、何も言葉に出来ないからだ。本をつくる、そして人に届けるということは、とても素晴らしいことだ。写真集は本よりも値段が高いし、大きいし、売れにくいものだから、難しいジャンルだけれど、それでも曲がりなりにも写真家と名乗っていて、自分にとっての表現の場が作品なのだとしたら、その場から逃げてはいけないと思うし、真剣に向き合うべきだし、失敗したら笑われたで構わないし、今ここにある時間を、捧げることにこそ大きな価値を感じている。もちろん、いい作品ができると信じているからこそ。
とは言っても、ただ「いい作品をつくりました」みたいな感じでふんぞり返るのは違うと思っていて、自分がいいと信じる作品であれば、一生懸命に右へ左へ、全力で届けられるように走り回りたい。そのために、日々東京を歩いて体力をつけたのだ。
仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247
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