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怪談13 囲炉裏

その日は、知人に誘われて、あるアート系のイベントに参加していました。

ほんの少し山を登ったところ。いわゆる自然派嗜好の人たちの集まりで、大きな会場で火を焚き、最後にとある民族の儀式を模して、神に祈りを捧げるというものでした。

イベントと言っても、その地域の人や身内の人の手伝いも多く、やることもなかった私は、ただプラプラと参加者との会話を楽しみました。

そして、そろそろ陽が傾きだすかなという頃になって、祈りが始まったのです。

大人たちが集まって神妙な顔で神様に語りかけるのを見ていたのですが、なんとなく、そこに神様は来ないだろうなという印象でした。

特別何がいけないということでもなく、イベントの主人も雰囲気の良い方で。ただ、混ざって同じ空気を出す気にはなれず、少し冷えるからと理由をつけて、中庭の端にある庵に入り、静かに過ごすことにしました。

腰をかがめて中に入ると、真ん中に囲炉裏があって、その横にちょこんと小さな女の子が座っています。

小学生になるか、ならないかぐらいの年齢でしょうか。囲炉裏には小さな火が配られていたのですが、その女の子は、自分のネックレスのようなものを火の上で揺らしていました。

何をしているの?と尋ねると「火とおしゃべりをしているんだよ」と教えてくれました。

そのまま、ぽつりぽつりと会話を交わし、パチパチと炭の爆ぜる音を二人で聴いている時間はとても静かで。なんとなく、その一瞬のためにここに来たと思ってもいいなと感じたものです。

しばらくすると、私を探しに知人も庵にやってきました。そして、祭りが終わったから片付けをするという彼女について行くことにしました。

片付けの途中、お母さんに抱っこされた女の子とすれ違ったのですが「ばいばい」と言うと、バイバーイと笑ってくれました。

その時、一緒に机を運んでいた知人は『あの庵の中、ちょっと不思議な感じがしたね』と話していました。

そうだねーと返事をしながら、もし私が神様でも、大人が神妙な顔をして集まっている場所より、囲炉裏の中で可愛い女の子と話をするほうがいいもんね…と胸の中で考えたのでした。

見えるわけではないけれど、何となくあの温かい時間の中に、遊びに来ていたのでは無いかと思います。

神様にもいろんなものがいる。あそこの囲炉裏の中にいたのはきっと、純粋な子供との静かな時間が好きな火の神様だったのではないかな…というお話でした。







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