破産と遺産分割【否認されないために】

破産をしようと思っているのだけれど、これまで援助してくれていた親が亡くなった。親の財産を相続することになったけれど、このまま破産してしまってよいのか。そういった疑問を持っている方、その疑問はとても大切です。実はたいへんな問題につながります。一つの行動で取返しがつかないことにもなってしまいかねません。破産管財人に否認権を行使されてしまえば、遺産をとられてしまいます。今ここで学んでいきましょう。

1 否認権行使とは


 破産管財人は、破産者が行った一定の破産法上問題のある法律行為を否認することができます。否認されると、その法律行為はなかったことになり、逸失した財産は、破産管財人が回収します。

2 否認権行使の対象


● 偏波弁済


 破産法上、破産債権者を平等に扱う必要があります。にもかかわらず、一部の債権者に対してのみ弁済をした場合にその弁済が否認の対象になります。

● 詐害行為


 破産債権者への配当に充てられるはずの財産について贈与してしまう等破産債権者に対して不利益を与える行為も否認の対象になります。
 今回の遺産分割については、この詐害行為に該当するかどうかが問題となります。

3 否認権行使の要件について


● 受益者の認識


 否認権行使の対象となる行為については、色々なパターンがあるのですが、例えば、受益者が、破産手続申立がされたことを知っていること等が要件になることがあります。
 これは、知らずに譲り受けたにもかかわらず否認されてしまうと、受益者にとって不測の事態となってかわいそうだから要件とされています。
 とはいえ、純粋な贈与のように、受益者にとって一方的な利益があるだけの場合、受益者の期待を保護する必要性は小さいと言えます。そのため、純粋な贈与のような詐害行為の場合には、受益者の認識は問わないこととなっています。

● 破産状態になってからの行為であること


 詐害行為を行ったのが、破産状態になってからの行為であることが要件になっています。
 破産状態というのは、正式な言葉ではなく、法的には、支払不能という言葉が使われますが、要は、もう完済できないことがはっきりとわかった状態ですね。返す財産もないし、給与で完済もできそうにもない、長期的に弁済を猶予してくれる貸付先が十分なお金を貸してくれる見込もない、そういった状態です。
 簡単にいうと借金を返すために借金をしなければいけない状態だと思ってもらえるといいと思います。
 こういった支払不能の状態になってしまうと、破産手続上色々と制限が出てきます。こういった状態になってしまえば、もうとにかく早く破産手続を申し立てるべきでしょう。
 そんな状態で残った財産を人に贈与してはいけませんよね。債権者への配当を減らして、不利益を与えることになってしまいます。
 一方で、そのような状態になる前であれば、あなたの財産をあなたがどのように処分しようとそれは、破産法が制限するいわれのないものです。原則的に、人は、自分のものを自分で自由に処分してよいのですから。
 つまり、支払不能になった後の行為でなければ、否認されないということです。

● 不利益処分


 そしてもちろん、破産債権者にとって不利益な処分でなければ否認されることはありません。
 贈与は、不利益な処分です。他にも、対価はもらったけれど、その対価が少なすぎるというのも不利益な処分です。更には、債権を持っているのだけれど、返済しなくてよいよと免除すること、これも不利益な処分に該当します。

● 一身専属的な行為でないこと


 一定の行為については、常に、本人に判断させるべきであるという考え方があります。破産手続の開始を申し立てていたとしても、それでも、本人に決めさせるべきであって、破産管財人に関与させるべきではない行為というものがあると考えられています。
 遺産分割は、この点の問題があります。

4 遺産分割は否認の対象なのか


 さて、では、遺産分割は否認の対象なのでしょうか。故人の遺産をどのように分けるかについて、それは相続人である破産者が決めることでしょうか。それとも、破産管財人が関与してもよい行為でしょうか。
 この点、遺産分割は、単に財産上の行為であるとして、否認の対象になると判断されています。そのため、破産債権者にとって不利になる遺産分割行為は、否認の対象となります。
 よくあるのは、破産者が相続するはずだった財産の全てを他の相続人が相続すると定める遺産分割をしてしまうことです。他にも、故人の預貯金を全て引き出してしまって、他の相続人に取得させるようなこともあります。いずれも否認権行使の対象となります。

5 否認されないために


 否認されないためにはどうしたらよかったのでしょうか。

● 相続放棄


 実は、同じ相続手続きであっても、相続放棄については、破産者に一身専属的な行為であるとされています。
※注意点
 相続放棄には、注意があります。
※1 相続を知ってから3か月以内に相続放棄しなければいけません。時間的制限があるため、ある程度急いでする必要があります。
※2 処分行為をしてしまうと相続放棄ができなくなります。処分行為とは、まるで相続人であるかのような行為だと思ってもらうといいと思います。よくある行為としては、遺産分割は、相続人でなければできない行為ですので、遺産分割をしてしまうともう相続放棄はできません。他にも故人の預貯金の解約や引出行為をしたり、引出行為に加担してしまうと、それもまた相続人でなければできない行為ですので、相続放棄ができなくなってしまいます。

● 破産手続申立を諦める


 そもそもの破産手続申立をしないという方法があります。破産できないというのは大きなデメリットですので、お勧めはできないです。けれど、既に処分行為に及んでしまって、相続放棄ができないという場合には、破産手続を申し立てるべきかどうか改めて考えてみるとよいと思います。
 遺産の金額が莫大な場合などはそもそも破産状態(支払不能)とは認められなくて、破産手続の申立てが却下されてしまいます。
 借金の方もそこそこ高額で、遺産も高額な場合などには、どちらがよいのか考えてみるとよいと思います。
※ 破産を諦める注意点
※1 破産の申立てができるのは、破産者(債務者)だけではありません。債権者の申立てをすることができます。申し立てられてしまえば、破産管財人がついて、遺産について遺産分割を求められたり、既にしてしまった遺産分割については、否認権を行使されてしまう可能性があります。

6 まとめ


 つまり、結論としては、破産をしようと思っていて、資産のある父母が亡くなった場合には、とにかく、処分行為をすることなく、3か月以内に相続放棄をすることです。

7 誰に依頼したらいいのか


 相続放棄は、司法書士又は弁護士が受任しています。ご自身でも可能な手続きです。ご自身でも可能ですが、専門家に依頼することをおススメします。特に問題の小さな相続放棄であれば、ご自身でするのでもよいと思いますが、上記のような多大な影響がある事案でかつ、処分行為や破産事件との関係にまで考えると専門家への依頼をした方がよいと思います。また、可能であれば、弁護士の方がおススメです。費用は、司法書士の方が安いということも、弁護士の方が高いということもありません。処分行為や破産手続などの知識でいえば、弁護士の方が豊富にあると思います。可能であれば、管財事件を一定数こなしている弁護士の方がおススメですが、それは調査不可能でしょう。弁護士も当たり外れがありますので、もしも、あなたが破産手続申立を依頼した弁護士が、父母が亡くなる前に、仮に亡くなったとしたら処分行為を行うなとアドバイスしてくれなかったとしたら別の弁護士に依頼しなおした方がよいかもしれません。

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