保育園最後の日
４月某日
とてもいい天気。
近所のお気に入りパン屋さんの、コーンぎっしりすぎてコーン：パン＝１：１のマヨコーンパンを子と７：３で分けた。７が子。
大人はマルゲリータフォカッチャも。よもぎあんぱんは３人で分けた。
夫も私も在宅になってから朝がゆっくり過ごせるようになった。といっても、いつもより３０分ゆっくりなだけ。８時すぎにみんなで保育園に向かう。
時間に余裕があるので子に歩いて行ってほしかったのだが、３０歩くらいで「抱っこしたいよ」と言ってくる。でも保育園目前でお花を見つけて「降りたい」といい、「はなな、きれーねー！」と優しくつっつくいつものルーティン。
園につくと、すでに同じクラスの子４人ほどが遊んでいた。仲良しのSちゃんが駆け寄ってくる。子だけでなく、親にもニコニコして話しかけてくる活発な性格の子だ。逆にうちの子は恥ずかしがり屋なので、なぜかモジモジしながら親の陰に隠れる。
担任の先生に夫婦で在宅なことを伝え、早めに迎えにきますというと、ありがとうございます、と言われる。いえいえ、こっちこそ毎日ありがとうございます。
「〇〇ちゃん、お父さんお母さんお仕事がんばってねーってバイバイしよ！」と明るく先生がいう。子はまだモジモジしていた。
帰宅後は夫と並んで勤務。それぞれイヤホンをつけて無言。私はKAT-TUNのライブDVDのMC集を音声だけ聞きラジオがわりに。ライブで突然税金や人生観について話し出すKAT-TUN。３人のトーク何時間でも聴いてられそう。
お昼近くに食材買い出しがてら昼食に。テイクアウトのつもりがラーメン屋で台湾ラーメンを食べる。夫はつけ麺（大）。この人はラーメンとにんにくが大好きなのだが、お腹が弱いので絶対に後でお腹壊す。なのに（大）を頼んでしまう。実に人間らしい。
昼過ぎ、保育園からメールが来た。「在宅勤務の場合は登園自粛のお願い」。
ついに。まあそうだよな。
取り急ぎ上司にチャットで報告。上司はすでに先週頭から登園自粛になり家庭内が大変なことになっているらしい。無理ない範囲で勤務してと言われる。ありがたい。当の管理職はそうもいかないので大変そう。そして奥さんもエリートなのだ。
いつもより1時間半早い、16時半に迎えに行く。保育室から子の泣き声が聞こえる。
行ってみるとほっぺたに保冷剤を当てられて泣いていた。ついさっき転んで机に顔を打ち付けたらしい。担任の先生たちに何度も謝られる。でも転ぶのは日常茶飯事なので先生が謝ることは全然ないのにな。「さっきまでNちゃんこっち！Nちゃんぎゅー！って言って2人で可愛く遊んでたんですよ〜」と先生。Nちゃんは子のお気に入りのクールな子。
明日からしばらく休む旨を伝えると、ええ！とビックリされる。あれ？
ついさっき保育園から自粛のお願いが来たので、と重ねると、そうですか…ありがとうございますと言われる。
ありがとうございます、と言いたいのはこちらである。このギリギリまで、明るく、普段と変わらず接し、でも忙しい中できちんと対策をしてくれていて、本当に頭が下がる。園長先生も来て、また、ご協力ありがとうございます、と言われる。
保育室には5人の子どもたち。先生と話していたらゾロゾロと寄ってきた。
「〇〇ちゃんしばらくおやすみなんだって。寂しいな〜！最後にケガしちゃってごめんね。みんなでバイバーイタッチしよ〜」と先生が言う。
この保育園特有の挨拶なのか、バイバイの時にハイタッチする。子も、誰かと別れる時や帰る時、寝る時にバイバーイタッチーとやる。可愛らしい動作だ。
子らが順番に手を差し出しておもむろにハイタッチする。
泣き止んだ子も、バイバーイタッチーと言いながらみんなとタッチする。
小さなおててとおててがぴとっとする様子は、すごく尊かった。
私はなぜか、戦時中に疎開に行く人達にも、こんな瞬間があったのかな、と思っていた。
当時とは緊急性が全然比にならないだろう。でも、また健康に、何も変わらず、皆と一緒に過ごせる日常が来ることを祈るような気持ち。
そして、今までのそんな日常と今、お別れしているという実感。
子は最後にNちゃんとタッチする。大人のいつもと違う雰囲気に何かを感じているのか、やけに神妙な顔のふたり。保育園公認カップルの様子を、園長先生も先生たちも微笑ましく見守る。
大きな洗濯物の束を抱えて園を出ると、西日が眩しかった。
手を繋いで歩くけれど、やっぱり途中で抱っこしたいよ、と言う子。
夜にウェブミーティングが入ったので、夕飯をいそいで作る。
うどと豚こま肉のきんぴら炒め、サラダ、葉玉ねぎと豆苗と豆腐の味噌汁、納豆、ごはん。
ミーティングをしていると子が気になって寄ってきた。夫が構ってくれるけれどまあ集中してやるのは難しい。必要時以外はマイクもビデオも基本オフ。
明日から仕事になる気がしないね、と夫と話す。仕方ないけれど。
やけにテンションの高い子をさっさと風呂に入れて、絵本を読んで、みんなで早めに寝た。
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