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ヤンデレUIと俺様UI


家電との再会

自宅で使っていた炊飯器の調子が悪くなり、面倒がって半年以上修理に出さずに炊飯器なし生活を送っていました。修理に出して帰ってきたとき、あまりの便利さにびっくりしました。ボタンひとつで美味しいご飯が炊ける!令和に生活する人間とは思えない感性ですが……。それと同時に、炊飯器を始めとした家電のユーザーインターフェイスに改めて向かい合ってみて、これは非常に独特だなとも感じました。
洗濯機や電子レンジ、食器洗い機などもそうですが、白物家電や調理家電の操作体系は基本的に以下のようになっています。

  1. ボタンを押してメニュー(コース)を選択する

  2. スタートボタンを押して開始する

洗濯機で言えば、通常モードやおしゃれ着モード、あるいは駆動音を抑えた夜間モードなどいろいろなプリセットを選択し、洗濯を始めるという流れになっています。
この方法の非常に良いところは多くの人が簡単に使うことができることです。メニューを選んでスタートすれば、あとは機械が代わりに作業してくれる。とっても簡単で便利です。 白物家電はもともと洗濯板や炊飯釜、手作業での食器洗いなどを電化し、自動化するという大きなコンセプトのもとに発展してきました。もともと一日仕事であった家事の時間を短縮し、それによって生まれた時間で仕事をしたり、趣味を楽しむことができるという非常に有意義なものです。擬人化するなら、あなたの代わりに私がやっておくよ、という気が利くサポーターという感じでしょうか。

ヤンデレ化する家電のUI

ただ、家事の自動化とそれによる省力化は既にかなり高いレベルで行き届いており、家電メーカーの差別化ポイントはメニューの多彩化など、非常にニッチな機能に先鋭化し、ガラパゴス化していると考えることもできます。もちろん多彩なメニューが便利なのは否定しませんが、多ければそれでよいというシンプルな話ではないでしょう。 例えば、500通りの料理に対応しており、500のプリセットがある電子レンジを想像してみてください。500の料理の中から自分が作りたい料理を探すのは一苦労だと思います。しかし実際、家電量販店であたりを見渡すと、それに近いものもちらほら見つけることができてしまうかもしれません。

  • 多彩なメニューを格納しつつも、できるだけシンプルな外観を保ちたい

  • 老若男女、いろいろな属性、リテラシーを持ったユーザーが便利に使えるようにしたい

  • 例えばオーブンであれば、ユーザーが「どの温度で何分調理すれば、どうなるか」を知らなくても最適な結果が得られるようにしたい

  • などなど……

相反するさまざまな要求を満たすための家電のUIは、一昔前は電卓のようにたくさんのボタンが並んだものが主流でした。現在ではスマートフォンの各世代への浸透に伴って、スマホのような大きな液晶を備えて、深い階層を持ったUIも珍しくなくなったように思います。これにより、見た目上の複雑さはかなり解消されましたが、代わりに以下のように操作のステップ数が増えています。

  1. メニューカテゴリを選択する

  2. カテゴリ内の階層に移動し、メニュー(コース)を選択する

  3. 温度や時間などを設定する

  4. スタートボタンを押して開始する

大げさな例ですが、差別化競争の中でこれに似た状態になっている商品があるかもしれません。「電化して自動化する」という本来の価値が当たり前になり、それでもよりよいものを作ろうとし続けた結果、逆に操作が煩雑になってしまった。 キャラクターとして例えるならば、わがままなユーザーの要求に応えつづけ、尽くし続けた結果「ヤンデレ」化してしまったような状態です。あなたのしたいこと、私は何でも知っていますよ、さあどうぞ、ここには何でもあります……という感じでしょうか。ちょっとめんどくさいですね。

ユーザーに尽くさせる俺様UI

ユーザーにどこまでも尽くすような白物家電のUIがある一方で、ユーザーがかなりの練習を積み、道具に習熟しないと扱えないようなプロダクトも存在します。ある意味、ユーザーが道具に尽くしている状態ですね。オタク的テンプレートで言うところの「俺様キャラ」のようなイメージです。
例えばDJ機器やサンプラーのような音響機材は、白物家電のデザイナーが見たら泡を吹いてしまうような見た目をしています。たくさんのノブやスライダー、ボタンがずらりと並び、一見してもどこから手をつけてよいのかわからない。比較するのがおかしいのですが、家電の世界でよく語られるユーザー中心設計のデザインとはかけ離れたUIがそこにはあります。
パソコンのキーボードとマウス(あるいはトラックパッド)、車のハンドル、アクセル、ブレーキや各種のレバー、ボタンなども同様で、いきなりその前に座ってすぐ使えるようなものではありません。個人的な恨みですが、僕はあまりに勘が悪いせいで教習所の教官に何度も怒鳴られ、車の運転が嫌いになってしまいました。(その後、ペーパードライバー講習の教官によってそのトラウマは薄れたのですが、それは別の話)
道具を使えるようになるまでに嫌な思いをしなければならないなんて、考えてみればひどい話です。(俺様キャラだって、実際にそんな人間がいたら嫌なやつが多いですよね)それなのに長年使われ続けているのは、やはり大きな価値があるからでしょう。
楽器やパソコン、車など、ユーザーが尽くす側になるUIを持つプロダクトには、ある種の共通点があります。それは非常に高い自由度があることです。

  • ギターを弾けるようになれば、いろいろなジャンルの音楽を演奏できるようになる

  • パソコンの操作に習熟すれば、インターネットを使って様々な情報を引き出せる

  • 車の免許を取れば、好きな時間にどこへでもドライブできるようになる

道具の習熟に時間をかけた代わりに、ユーザーの生活にはより高い自由度が付与されます。それだけではなく、例えば「車に乗って目的地に行くことより、車の運転そのものが好き」という人もいます。
ここで僕が言いたいのは、「家電のヤンデレUIは簡単だが魅力がなく、車の俺様UIは複雑だが魅力的である」ということではありません。ヤンデレUIは面倒なタスクからの解放という大きな価値を与えた代わりに、それが先鋭化した結果、逆に操作が煩雑になってしまった。俺様UIは高い自由度を付与する代わりに、ユーザーフレンドリーとは言えないまま進化してきました。「ヤンデレ」にも「俺様」にもファンがいるように、それぞれ切っても切れない良い点と悪い点があります。
ここでしてみたいのは、これらの属性を入れ替えたらどうなるか?という考えの実験です。

UIのキャラクターをリミックスする


たいへんラフな絵で恐縮ですが、要するにこういうことです。
左のイラストは、「水圧や回転数、水温や稼働時間をすべてマニュアルでコントロールできる洗濯機」、右のイラストは「行きたいところのボタンを押すだけで、そこに連れて行ってくれる自動運転車」のUIを示しています。これは……どうなんでしょうね。 それぞれキャッチコピーをつけるなら、「フルコントロール。洗濯の本質的な喜びをあなたに」であったり、「必要なのは2つだけ。シートベルトを締めることと、ボタンを押すこと」のような感じでしょうか。
それぞれに本末転倒な感じがするのは、「洗濯をフルコントロールしたいなら、手で洗えばよい」「プリセット以外の目的地に行きたいときはどうすればいいのか」のようなツッコミが容易にできるからだと思います。ただ、ここで描かれているへんてこなUIは、「洗濯機のことを考えて作った洗濯機」「車のことを考えて作った車」とは少し違うものになっていると思います。(自動運転車のUIとしてはベタなものかもしれません。難しいですね)
このテキストでは、家電のUIに抱いた印象をきっかけに「ヤンデレ」「俺様」というキャラクターのテンプレートを用い、それをクロスオーバーさせてみましたが、オタクの妄想力すごいので世の中にはもっとたくさんのキャラクターのテンプレートがあります。それらをプロダクトのUIに例えてみて、キャラ萌えしつつユーザーとプロダクトとの接点を考えてみても面白いかもしれません。(ただし、倫理的な観点は忘れずに)

おわりに

おさるが煽ってくる

例に挙げたような「オタク的キャラクターのテンプレートを参照したプロダクトのイラスト」をFireflyに生成してもらおうとしたのですが、おそらく「ヤンデレ」という単語がガイドラインに引っかかったらしく、うまくいきませんでした。こんなしょうもないことを考えるなということなのか、AIの想像可能な領域の外側にいるということなのか……

おまけ

このテキストをChatGPTに読ませた結果。めちゃくちゃ的確に要約してくれてるが、なんか忖度してる気がする。微妙に上から目線なのも気になるし
……と思って追加の質問をしてみたら、チャッピーことChatGPTさんの本音が聞けてよかったです。その通りでワロタ


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