見出し画像

幸せポイント 〜道の真ん中に千円札

今日は朝から中学生の娘は学校に行きたくなさそうな雰囲気で起きてきた。 
学校でクラスメイトから無視されたり、バカにされたりで少し体調を崩している。
病院からもらった薬を飲んでいても、日によって気分の浮き沈みが激しい。
今日は落ち込みモード。
食事も喉を通らず、スープを渋々飲み始めた。
夫が一言。
「今日は疲れたから、仕事は午前中お休みにして午後から行くね」
娘はスプーンをテーブルの上に置き、自分の部屋に戻った。

娘は出かける時間になっても、部屋から出てこない。
心配になって部屋に入ると、娘はベッドの上で泣いている。
「どうしてお父さんは、疲れたからって自由に休めるのに、私には学校に行けって、うるさいの?」
「無理しなくていいよ。体調悪かったら今日は休む?」
私は震える娘の肩に毛布を掛けた。
娘は立ち上がり、水筒をカバンに入れながら泣き叫ぶ。
「学校行かなかったら、またバカにされる」
娘は床に座り込んで俯いた。涙が床にポタポタ落ちた。

「本当は学校行きたいけど、また悪口言われるのが怖い。でも行かなきゃ」
娘は次第にパニックになって、泣きながら行く行かないを繰り返した。

私は娘にハチミツ入りの温かいミルクを飲ませて落ち着かせ、やっと学校を休むことに決まった。

この問題について学校の先生には相談したものの、変化がみられない。先生が見ていない場所での嫌がらせは解決に時間がかかるのだろうか?

私はクタクタになりながら、リビングに戻った。
リビングには夫が呑気にスマホに夢中。
「今日も休みか。可哀想に」
スマホから目を離さず、指が忙しく動いている。
「あんたのせいじゃ!!」
大声で怒鳴ってやりたかったけど、後が面倒くさいので、黙って家を出た。

私は用もないのに近所の24時間営業のスーパーに直行。
牛乳と娘と自分への慰めスイーツを買う。

帰りの足取りは重い。
最近、自分も色々問題が山積みで涙を流すことも、しばしば。
なのに、学校で上手くいかない娘と、家族のことに無関心な夫の問題。

「自暴自棄」そんな言葉が今の私には一番似合うんだろうな。そう考えながら見慣れた道をトボトボと歩いていた。

すると道路の真ん中に四つに畳まれた千円札を発見。 
私は辺りを見回した。誰もいない。
「あ〜これは神様からのプレゼントなのかも!」
少し感動しながら、その千円札を拾った。

でもすぐに、我に返る。
これは、すぐに警察に届けないと。
千円札をバッグに入れてしまうと盗んだように思われる気がして、私は千円札を手でつまむように持ちながら、「これはドッキリか?」とキョロキョロ周りを見ながら家路に着いた。

私は牛乳とスイーツを冷蔵庫に入れ、自転車で10分の所にある交番に向かった。
交番に着くとパトロールから帰ってきたばかりの三十代くらいのお巡りさんが近づいてきた。
私は千円札を渡して、状況を話した。
「3ヶ月が過ぎてたら、自分の物だと主張しますか?それとも、いい人として、このままお帰りになりますか?」
優しい口調のお巡りさんに、私は思わず
「いい人として」
と言ってしまった。
考える前に口が先に出てしまった。
「分かりました」
お巡りさんは千円札を受け取り、私に軽く一礼をしてから交番に入って行った。

「まあ、これで幸せポイントが増えたから、きっといいことあるよ」
そう思いながら自転車を漕いだ。
新緑に囲まれた道、心地よい風、なんとなく爽やかな気分になった。

信号待ちをしている間、ふと思った。
「あ〜、1000円あったらケンタッキーのランチ2人分買えたなぁ。娘と2人で食べれたのに」
少し落ち込みながら自転車を漕いだ。

家に着くと私は娘に千円札事件の話をした。
ベッドの上で顔が涙でグシャグシャになった娘が少し笑いながら言った。
「私なら、お財布に入れちゃうけどなぁ」
「それ、泥棒じゃん」
「あっ、そうか!」
娘は起き上がり、袖で涙を拭ってからペットボトルのスポーツドリンクをゴクゴクと飲み干した。
「幸せポイントだよ。いいことあるね」
娘の言葉に救われた気がした。

その後、私と娘は30分程くだらない話で盛り上がった。
娘に笑顔が戻った。
幸せポイントの効果なのだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?