第二十二回 岩波茂雄『読書子に寄す――岩波文庫発刊に際して――』
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こんにちは。
今回の読書会はいつもと毛色の違う展開となりました。
ちょっと実践的、というかシャバくさい(?)内容です。
岩波茂雄は理想的なプレゼンテーター?
今回のテキストは「事業立ち上げの宣言」です。
私ら岩波文庫はこういう方向でやっていきますよ〜というもの。
そしてこの宣言、プレゼンテーションとしても優れているな〜と思います。
構成として
(1)ターゲットを明確化
(2)理想の状況をまず提示し、(ヴィジョン)
(3)イケてない現状を認識してもらう(スタート地点)
(4)理想とのそのギャップは「なぜあるのか」?(課題発見)
(5)解決策を明示
(6)提案
以下、解説していきます。
★ターゲット
「読書子」(本好き)に向けた宣言です
★ヴィジョン
岩波の掲げる理想は
「誰でも真理や芸術に触れられる社会」
です。
★スタート地点
しかし、現状、真理や芸術にはカネがかかる
★課題
それは出版社が「全集を買え」と読者に押し付けるから
★解決策
安価で持ち運べる、文庫を立ち上げます!
★提案
岩波文庫を買って、応援してください!
構成がキチンとなされているのはもちろん、
ターゲットが明確なこと、
やること・やらないことを誠実に明示しているのは、
おそるべきセンスではないでしょうか。
ターゲットに関して、
「万人に真理と芸術を」と理念を掲げつつ、
対象者は「読書好き」に絞っています。
これは単に「お客」としての宣伝文句ではなく、
よい社会をつくるための「パートナー」
さらにいえば「同志」への呼びかけです。
そう、主役は「岩波文庫を買う読書好き」たちなのです。
岩波茂雄本人はリーダーとして事業のリスクを負う、
いわばサポーター的役回り。
この感覚も現代のマーケティングや組織論との類似が見られます。
また、「やること・やらないこと」に関しては、
「内容の良い本を誰でも手に取れるように、安価に手軽に」
とする一方で
「デザインにはカネかけないよ」と割り切っています。
これも誠実で説得力ある姿勢です。
宣言としての普遍性
この「宣言」が出されたのは昭和7年(1932年)、
いまでも岩波文庫の巻末にはこの文章が使われています。
岩波茂雄本人亡き後も受け継がれるスピリット。
90年近く、岩波文庫はこの姿勢を貫いてきた、
と考えると、大変力強いメッセージです。
皮肉な現状
しかし、個人的な観察によると、
岩波文庫は未だに「ガチ勢の、ガチ勢によるガチ勢のための」
文庫ではないか、と考えます。
電車などで岩波文庫を読んでいるひとを見ると、
「おっ、このひと、ガチなひとだな」と思ってしまう。
読書離れが叫ばれる現代においては、その「ガチ」さ、
はより際立ってしまっているように見受けられます。
そういう意味では、かつての岩波の理想からは、
遠ざかってしまっているのかな、と...。
個人的には岩波文庫には大変お世話になっています。
そのストイックで本質的な選書のチョイスには信頼をおいていますし、
人の本棚に岩波文庫を発見するとつ、
思わず「親友!」と呼ばわりたくなってしまうほどに。
わたし自身、はじめて読んだときも(『君たちはどう生きるか』)、
ちょっと大人になった気分がしたものです。笑
少し背伸びした気分になれること請け合いです。
以上です。
最近、ラジオを聞くようになりました。
次回はジョージ・オーウェルの『詩とマイクロホン』で、
https://www.aozora.gr.jp/cards/002035/files/59408_67530.html
ラジオというメディアの可能性を探れればと思います。
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