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新型コロナのデマ・ワースト20個の検証

[この記事が役立つ人]※記事の本文は無料で最後まで読めます
※2024年11月12日増補(第3版)
※2024年8月26日増補(第2版)

  • マスクとワクチンのデマに辟易している方

  • 「謎の大量死」や超過死亡の原因が気になる方

  • うつべきか、うたざるべきか悩んでいる方

  • 感染被害をなるべくなるべく抑えたい方

  • 危機意識ゼロでわからず屋の上司を説得したい方

  • 子どもの未来を守りたい方


ウイルスは目に見えない。だからWitness(目撃者)になるのは難しい。万有引力みたいなものだ。何かがあって、何かが起きているのはたしかだ。そこから、「体内で起きていること」に迫る科学の力はすごい。
この4年間、かつてないほど医学論文に目を通したが、中にはシャーロック・ホームズの推理を思わせるような面白みを感じるものもある。検索サイトのログ分析から、その国の政府が公表していない本当の死者数に迫る研究など、まさに「その手があったか」だし*1、スマートフォンにつながる体温計を利用し、家族の中で誰が真っ先に発熱したかを記録することで、家庭内感染のひろがり方を特定した研究も冴えている。70.4%が子どもから親への感染だった*2。

看過できないデマ

こうして一つ一つ紐解いていく努力が続けられている一方で、それらを無視し、自分の想像だけで偉そうに語る人たちが目立った4年間でもあった。
「空気感染する新型コロナにマスクは意味ない。ウイルスはマスクの目より小さいから、すり抜ける。そんなことも知らないのか」
とドヤ顔で言ってくる。「見てきたようなウソ」だ。ウイルスがマスクの目を通り抜ける瞬間を目撃したはずもない。ただ、マスクの目の大きさとウイルスの大きさを比較するだけで自信満々に「すり抜ける」と言う。ただの偏見である。「絶対に右だ」と思っても、実験してみたら左だったりするから、科学はひとつひとつ確認して前に進むのだ。

印象からの思い込みだけで自説を並びたてる人も多い。典型例が
「交通事故でも陽性ならコロナ死にして、恐怖を煽っている」
である。「もうワクチンで3,000人以上が亡くなっている。史上最悪の薬害だ」というのもそうだ。副反応疑い報告制度をまるで理解していない。人口動態統計の集計現場や、健康被害補償制度の審査現場を見てきたようなウソをつく。そのくせ、自然増なのに「謎の大量死」と煽るのだから、科学的な態度とは言えない。

ほとんどが荒唐無稽なので無視してもいいのだけれど、デマを放置しておくとボディブローのように社会にダメージがあり、犠牲者が増えるだけであることはHPVワクチン騒動で体験済だ。本稿では「オレンジジュースでも陽性にするPCR検査」から「ワクチンが超過死亡の原因だ」まで、この4年間に出会った看過できないデマを20個とりあげて、どこがどう荒唐無稽なのかをまとめることにする。

[本当にひどいデマ編]

デマ01:ウイルスは変異するたびに弱毒化するものだし、すでに新型コロナウイルスもただの風邪ウイルスだろ。インフルエンザより致死率が低くなった病気をいつまで怖がっているんだ?

いろんなデマがあるが、これが最低最悪のデマだ。まず事実として、2023年の死者数を出しておく
・インフルエンザの死者数:1,382人
・新型コロナの死者数:38,080人
2023年は感染対策をゆるめたこともあり、インフルエンザのクラスターも多発し、いつもの感染者数に戻っている。それでもこの差だ。致死率が低くても感染力が強ければ、結局、社会へのダメージは大きい。ダメージの程度は「感染力×致死率」のかけあわせである。インフルエンザの約27倍の死者が出る感染症を軽視していいはずがないだろう。
誰が言い出したのかわからないが、「変異のたびに弱毒化する」という法則が謎である。天然痘ウイルスと人類とのつきあいは1,700年、麻疹ウイルスとのつきあいは900年の長きにわたるが、いまだ弱毒化は観察されていない。いくらでも反証が出てくる。狂犬病ウイルスだっていい加減、弱毒化してもいいんじゃないか。つまり、変異のたびに弱毒するなんていう現象は観察されていない。
そして重要なことを見落としている。新型コロナウイルスは人獣共通感染症(Zoonosis)であり、動物の間で感染がひろがり、変異が続くことである。このパターンはヒトが制御できない。典型例がインフルエンザだ。
もともとインフルエンザは水鳥と共生するウイルスで、水鳥に不顕性感染をし、変異を続けている。たとえ次の「新型インフルエンザ」がヒトを即死させるほどの強毒性でも、水鳥などの本来の宿主には極めて低病原性(弱毒性)なので、共倒れはしない。一方的に人類が殴られて終わる。人獣共通感染症に、「ヒトに対して弱毒化する」という選択圧はない。
そもそも「弱毒化した」と言っていることも謎である。たしかにオミクロン変異体以降、急性期の重症肺炎患者は減ったが、いまでもワクチン未接種あるいは最初の2回接種で終わっている人は、重症肺炎を起こしている。弱毒化したのではなく、ワクチンが効いたと理解するのが正当だ。
また、ウイルス感染症の場合、急性期の症状が軽いことは、必ずしも弱毒であることを示さない。B型肝炎ウイルスやヒト免疫不全ウイルス(HIV)をみればわかる。脳を含む全身の臓器に持続感染することもある新型コロナウイルスが、「弱毒化した」というのは眉唾な話だ。単に急性期の免疫反応が弱くなっただけであるし、そのことが、健康被害が小さいことを示さない。HIVも感染当初の症状は軽いものである。

デマ02:死者が多いといっても、高齢者だけでしょ。現役世代が感染対策をする必要などない。むしろこの病気を流行させたほうが、高齢化問題が解決するから社会にはプラスだ。

たしかに、流行初期には高齢者の致死率の高さが目立った。しかしそのことが、現役世代への健康被害が軽微であることを保証するわけではない。新型コロナの感染者が多い英米からは、「長期的な病気で失業する人」が増えていることや、スポーツの試合中に心臓突然死する大学生やプロスポーツ選手、難聴でコンサート活動を諦めるプロの歌手のニュースが伝わってくる。生命を奪われるのは最大の痛恨事だが、日常生活を奪われるのはもっと辛いことである。父または母または子が寝たきりに近い生活になるだけでも、大打撃である。致死率だけに注目するのは大間違いだ。
また、これまでのところ、致死率が高くなるのは60歳以上である。日本の農林水産業の現場では、60歳以上も貴重な働き手だ。中小零細企業の経営者も多くがこの年代だろう。いや、大企業も、人手不足から定年を延長しているような状況である。60歳以上を「生産性のない人」と決めつけての暴論は、純粋に経済の面だけで評価しても、大間違いである。
なお、後述するが、「高齢者だけが死ぬ病気」というのも思い込みだ。アメリカの統計では、親(片親もしくは両親)をなくした「新型コロナ孤児」が30万人規模で出ている。

デマ03:国は新型コロナウイルス感染症を5類にしたし、「マスクは任意」と言ったので、従業員や顧客に感染対策をお願いする法的根拠がない。

「感染対策をしてはいけないのが5類だ」という理解をしているようで気持ちが悪い。もしもそうなら、HIVの感染防御をするのも違法ということになる。感染症法の分類を理解していないのだろう。
よくある誤解は、病原性で分類されているというもの。1類の病気は怖いが、5類の病気は怖くない、という思い込みで解説する医師までいる(驚愕)。そうじゃない。感染症法の分類は、「国が国民の権利を踏みにじってでも、感染防御に責任をもつべき感染症」のリストである。いまでも覚えているだろう。新型コロナウイルス感染症が「新型インフルエンザ等感染症で2類相当」に分類されていたときは、感染者は「療養期間」という名称で外出を禁じられていた。行動の自由を国が奪っていたのである。これは人権侵害だからこそ、法律をつくって例外規定を設けているということだ。
感染症法の分類は、「国が強権で個人の権利を蹂躙して行動制限を課し、消毒などの対策を命令できる病気のリスト」である(1類‐4類がそれに相当し、国ができることが明確化されている)。そしてこの場合、感染拡大は国の責任になるということでもある。
裏を返すと、1類‐4類にリストされている病気以外では、国は個人の権利を制限してはならないという話でもある。「国ができること」の規定は、「国家権力がしてはならないこと」の規定でもある。新型コロナも2類の時代は入国制限を実施していたが、5類になったいまは、新型コロナ感染を理由に入国を拒否したり、療養を命令したりすることはできない。
そして5類は、「感染防御をすべき病気だが、その責任は国ではなく国民にある病気」だ。「流行状況は教えるから、感染対策はあなたたちでやってくれ」というのが5類である。つまり、2類から5類への変更は、感染も感染被害も自己責任にされただけのことだ。検査から抗ウイルス薬やワクチンまで有料化されたのをみてもわかるだろう。
だから堂々と自衛すればいい。来場者にマスク着用を義務づけるのは、施設管理者/主催者の裁量の範囲内であり、土足禁止と変わらない。そもそもマスクの着用について国が言ったのは「任意」ではなく、「個人の判断」である。当然、判断が悪いと個人や施設管理者が責任を負わされることになる。
もっとわかりやすく書いておこう。マスク着用を義務にすれば防げたと推定できるクラスターのせいで死者や障碍者が出た場合、施設管理者/主催者が責任をとらされるのが5類という病気。国の責任になるのが1類‐4類の病気である。「5類になったから、対策できない」というのは、まったくの誤解だ。むしろ適切な対策をしなければ、訴えられるリスクを負うのが5類である。
なお、余談だが、新型コロナも5類なってから定点観測になり、流行状況がよくわからなくなっている。参考になるのが、公益財団法人日本学校保健会が公表している「感染症情報マップ」だ。自分の住んでいる地域の学校の感染状況(学級閉鎖の数等)が参考になる。
感染症情報マップ
https://www.gakkohoken.jp/system_information/jssh_absence_information_mapping

デマ04:子どもは風の子。感染を繰り返して強くなる。手洗いにマスクで病原体から遠ざけていたから、かえって感染症に弱くなるんだ。感染対策など無用である。

いったいいつから「子どもは感染するたびに強くなる」などというデマが常識のように語られるようになったのだろう。いろんなデマがあるが、子どもにとって有害である点では、これこそ最悪のデマである。子どもは感染しても強くなったりはしない。ワクチンが普及する1950年代まで、5人兄弟姉妹のうち、2人か3人は7歳を迎える前に感染症で死亡していた(だから七五三を祝ったのだ)。実態は「運も含めて強い子だけが生き残る」である。
気になるのは、反ワクチン運動の影響なのか、麻疹のワクチン接種率まで落ちていることだ。このままだと、1950年以前の世界に逆もどりしかねない。ノーワクチンで麻疹に感染する子どもが増えるのは危険である。麻疹は急性期も辛いが、感染することで免疫の記憶がリセットされてしまうことがわかっており、あらゆる感染症に弱くなる。感染症で命を落とした子どもの半数は、麻疹と麻疹の合併症によるものだと言われている。しかも、感染時にウイルスが脳に侵入していると、年数がたってからSSPE(亜急性硬化性全脳炎)を発症することがある。

20世紀に人類が手にした強力な武器が抗生物質とワクチンである。この二つが子どもの死亡率を押し下げ、平均寿命をのばしただけで、感染を繰り返して強くなったわけではない。手洗いやマスクで感染を防げるのだから、絶対に防いだほうが子どものためである。これは、大人になってからも、高齢者になってからも効いてくる。

デマ05:弱い個体が死ぬのは仕方がない。規則正しい生活とバランスのとれた食事で免疫力を鍛えていれば、こんなのはただの風邪で終わる。現に私は一度感染したが、インフルエンザよりも軽いくらいだった。

2022年から2023年5月までの間に感染した人の「軽かった」は信用してはいけないものの典型だ。軽く済む要素が揃っていたからである。第一に、ワクチン接種から日数があまりたっていない。そして第二に、この間は公共の場でマスクをするのが当然だった時代で、空間中に浮遊するIRPs(感染性呼吸器粒子)が極めて少なかった。全員が「ワクチンをうってマスクをする」ことができていたから、曝露するウイルス量も少なかったということである。
いまはまるで違う。最初の2回接種で終わっている人は、もう3年が経過しているからワクチンの効果は期待できない上に、「陽性? まあでも、たいしたことないなら、会社に出てこい」と言われていたり、「熱もたいしたことないし、旅行には行こう」と新幹線に乗っていたりする人が多く出ているので、曝露するウイルス量が激増している(Community Viral Loadが高い)。とくにブースターを接種していない人は、軽く終わらない可能性が高いと思ったほうがいい。現に、いまでも人工呼吸器管理になる人はいる。
そして何を勘違いしているのかよくわからないが、規則正しい生活とバランスのとれた食事で感染を防げたり、軽症で済ませたりできるなら、マジで医者はいらん。私は命題を理解していない思考のバグを疑っている。
「生活が乱れていると免疫が低下する」
というのは正しいが、だからといって
「生活を正せば免疫が強くなる」
というわけではない。裏は必ずしも真ならず、である。勝手な拡大解釈だ。それに、ムダに免疫が強くなると、自己免疫疾患になるリスクさえある。
また、「軽症で済んだ」という認識が間違っている。「急性期の免疫反応が軽かった」というだけであって、ウイルスの影響が軽いかどうかまではわからない。新型コロナウイルスは免疫反応を回避する能力に長けているから、感染したのに熱が出ないとか咽頭痛もないというほうが怖いのだ。高い確率で免疫がウイルスを叩けないでいるということだからである。この場合、ぬくぬくと体内で感染を続けるから、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞や糖尿病を発症したりなど、大きな健康被害が出ることになりやすい。

[PCR編]

デマ06:オレンジジュースでも陽性になるPCR検査で、ただの風邪をコロナ患者に仕立てている茶番

いまだにこれを信じている人がいることこそが茶番だ。こう主張する人が持ち出しているのが抗原検査キットである。PCR検査と抗原検査の区別もついていない。
抗原検査は抗原(ウイルスのタンパク質)を検出する仕組みである。化学的検出なので、強い酸性の液体でも線が出てしまう。対して、PCR検査はウイルスのRNAを増幅によって検出する装置であり、まるで違うものだ。

デマ07:PCR検査装置のマニュアルには多種多様なウイルスや菌を検出できるとある。つまりどんな病気でも新型コロナ陽性になってしまう

万能ドライバーセットというのがあるが、1本でどんなネジでも回せるというわけではなく、プラスやマイナスのアタッチメントをつけかえることでいろんなネジに対応する。
PCR検査装置も同じで、検出するターゲットとなるウイルスや菌のそれぞれに専用の試薬があり、それを使い分けることで、様々なウイルスや菌を検出できるというだけのこと。それは仕様表記の浅薄な誤解。新型コロナウイルス用の試薬(プライマー)を使ってPCRを回せば、「インフルエンザなのに新型コロナ陽性」なんていうことにはならない。増幅するのは新型コロナウイルスに特有の遺伝子配列である。

デマ08:全国一斉にPCR検査をすれば封じ込められたのに、PCR検査抑制派が邪魔をした。

これはかなり難しい話。理論的には1週間程度、毎日毎日連続して全国民がPCR検査をすれば一瞬は封じ込められた可能性はある。しかし、2020年はPCR検査のリソースが明らかに足りていなかった。到底、毎日、全国民を検査することができたはずもない。そして、検査陽性の国民をどこに隔離するか、隔離した人たちの損失の補償をどうするかという問題もある。
また、日本だけがこれを実行しても、厳密な鎖国を継続しないと状態を維持できない。かつ、新型コロナは人獣共通感染症で、ヒトから鹿やイヌやネコなどの動物に感染することもある*3。当然、動物からヒトに戻ってもくる。検査・隔離で封じ込めるなら、ヒトだけでなく日本列島に住む動物も一斉に検査する必要があるということだ。限られたPCR検査リソースを、限定的(主としてクラスター解析)に投入した当時の判断は正しかったと思う。
そもそも「検査をするな」と主張した人はいない。「PCR検査抑制派」という言い方も間違っているだろう。「限られた資源を有効に使おう」と主張をする人たちがいただけのことである。PCR検査そのものは有効だ。ただし、使い方次第である(逆にいまは、やらなさ過ぎる)。

デマ09:PCRは設定でいくらでも陽性者をつくれる

PCR検査(正確にはRT-qPCR装置)では増幅回数でウイルス量がわかるようになっている。20回の増幅でウイルス(の配列)を確認したらCt=20である。そして、40回まではトライすることになっている。ただこれだけの話なのに、「Ct=40も陽性にして、感染者を水増ししている」と騒ぐ人が出た。
陽性かどうかを判定するのは医師だ。PCR装置ではない。「体温を測りましょうね」というのと同じである。PCR検査の結果は診断の参考にしているだけ。なかでも、Ct=40のようなウイルス量が少ない場合は、医師が複数の所見や状況から総合的に判断する。たとえば、「最初に熱を出した夫を検査するとCt=20の明確な感染者だったが、その妻を検査したらCt=40だった。ちなみに仲のいい夫婦でどこにいくにも一緒」をどう判断するかである。普通は明日にも妻の潜伏期間が終わり、Ct=20になると推定するものだ。

デマ10:交通事故死もインチキPCRで陽性にし、新型コロナ死にして、死者数を水増しして恐怖を煽った

これもいまだに口にする人がいる根強いデマである。もとは厚生労働省が「陽性なら死因を問わず報告すること」と通達したことに発している。その意味が理解できないのだろう。この通達には二つの意味がある。第一は速報性だ。ざっくりとでもいいから、新興感染症のひろがりを把握することが大事だ。正確性は二の次でいい。
そして第二に、交通事故死でも報告してもらうことで、「社会への影響」を把握することができる。交通事故死者に陽性者が多いとか、溺死者に多いといったことがわかれば、「風邪のような症状があるときは運転するな」「泳ぐな」という注意喚起をすることができる。
そしてこれは、あくまで速報値である。現実の死亡統計(人口動態統計)は医師の死亡診断書を集計するので、交通事故死が新型コロナ死に組み入れられることはない。そもそも、年間3,000人を切っている交通事故死者を新型コロナ死にしてもたいした水増しにならないし、不自然に交通事故死が減るから誰もが気づくだろう。

ところでこのデマは、デマ06とセットになっている。すなわち、

  • オレンジジュースでも陽性になるインチキPCRを使い

  • ただの風邪なのに新型コロナ感染者という病気を捏造し

  • 交通事故死者などインチキ陽性にして死者を積み上げて恐怖を煽った茶番

というストーリー展開だ。
しかし、2022年以降、国が対策を緩め、感染拡大を許容するようになると、無視できない数の新型コロナ死者が出るようになった(人口動態統計によると、2023年は38,080人の死亡)。辻褄があわない。そこで出てきたのが、次のデマ11である。

[ワクチン編]

デマ11:ワクチンをうつと免疫不全となり、謎の大量死が起きている。ワクチンこそ超過死亡の原因だ。

「ワクチンをうったあと友人が帯状疱疹になった」とか「がんになった」は、「福島で鼻血を出す子どもを見た」という「証言」によく似ている。どちらも事実、目の前で起きたことでしょう。しかし、それがワクチンや原発事故のせいであるかどうかは、それだけではわからない。だから研究をする。
話は難しくない。基本的には比較だ。未接種者で増えず、接種者で増えていることが明白だとか、あるいはワクチン接種前よりも接種後のほうが、発症率が明らかに高いのであれば、ワクチンのせいであることが疑われる。鼻血も同じである。他の都道府県の子どもと比べて、福島県の子たちの鼻血を出す率が異常に高いのであれば、原発事故と何らかの関係があることが疑われる。しかし、どちらも比較した結果、格別に増えていることは確認できない*6。
「ワクチンで免疫不全」も同じだ。これが事実であれば、ワクチンを接種しているが、未感染の人たちが免疫不全に悩んでいなければならない。未接種の人たちと比べて、日和見感染症にかかる率が高いという事実が観測されている必要がある。接種前の罹患率との比較でもいい。現状、ワクチン接種によって免疫不全が起きている事実はない。あなたの身近に「接種後、あらゆる感染症に次々と感染して困っている人」がいるだろうか。
そしてワクチンが超過死亡の原因であるとすれば、いろんな死因で接種者のほうが多いという事象が観察される必要がある。実際には逆だ。178か国の調査で、全死因死亡においてワクチン接種者のほうが少ない*5。これで超過死亡の原因がワクチンだというのは無理がありすぎる。
「新型コロナは茶番」というストーリーは、無視できない死者数が出るようになって破綻寸前だった。それをある意味、救ったのがワクチン接種の開始である。辻褄があわなくなっていたのに、「ワクチンのせい」にすることによって、茶番ストーリーが完結してしまったということだ。改めて整理する。

  • インチキPCRで新型コロナという病気を捏造し、

  • 交通事故死者も新型コロナ死ということにして恐怖を煽ったが、それは殺人ワクチンを接種させるためであり、

  • まんまと謎の大量死が起きている(だから絶対にワクチンをうつな)

という展開である。このデマは本当に許せない。その理由は、ワクチン接種を推奨した人たちに「大量死の責任をとれ」という素朴で短絡的で法治を無視して罵声を浴びせかける人たちを生み出しているからだ。

デマ12:ワクチン接種をはじめてから、感染者が増えている。ワクチンで免疫不全が起きている証拠であり、うてばうつほど感染しやすくなる。

感染者が増えたのはワクチンのせいではない。ワクチンの恩恵で致死率が落ちたので、鎖国をやめ、学校や会社を対面に戻し、行動制限をどんどんなくしたからである。そして2023年5月8日には、新型コロナウイルス感染症を5類に変更した。もうまったく行動制限はない。そして感染者は急増している。検査すれば陽性な人が、検査を拒否して、ノーマスクで出社しているのだから、ワクチンのせいで増えているのではなく、うつしあって増えているのだ。
これに対して、クリーブランド病院の研究論文*7を「うてばうつほど感染しやすくなる証拠」として意気揚々と出す医師がいるが、気にすることはない。その論文には、そのような結論は書かれていないからだ。
論文をみると、たしかに接種回数の多い人ほど、よく感染しているグラフが出ている。しかし、これは病院内の話である。接種回数が多い人たちは新型コロナ感染者の治療にあたるスタッフだ。建設会社を調査した結果をもって、「ヘルメットをよくかぶる人が現場でよく事故に遭っている。ヘルメットが事故を増やす」と騒ぐようなもの。事務職はヘルメットをかぶらないし、現場にも出ない。
まだ疑うなら、クリーブランド病院のウェブページを確認するといい。いまもワクチン接種を推奨している。この病院が「接種すればするほど感染しやすくなる」ことを研究で確認したのなら、接種を中止しているはずだ。

デマ13:しかし、事実、2010年頃に比べると、ワクチンの接種が始まってから死者数が急増しているではないか。これをどう説明するのだ。

ちょっとこのグラフを見てもらいたい。1990年の人口ピラミッドである。

1990年の人口ピラミッド(国立社会保障・人口問題研究所ホームページより)

60歳と40歳にマーキングしておいた。もうこれでわかるだろう。1990年の40歳は2020年に70歳である。急に死者数が増え始めるのは、この世代の人口が多いからであり、致し方のないことなのだ。「謎の大量死」と騒ぐ人がいるが、謎でもなんでもない。死者増は、人口が多い世代が高齢化したからである。
類似のデマに、「ワクチン接種率の高い秋田県の死亡率が高い」というのがある。数字をそのままみてはいけない。当たり前のことだが、75歳以上の高齢者が多い県とそうでない県では死亡率が違う。秋田県の死亡率が他の都道府県のそれと比べて高いか低いかは、死亡率の単純比較では決まらない。高齢者が多いと死亡率が高く出ることを補正したSMR(Standardized Mortality Ratio)を算出するなどして、精密な比較をする必要がある。

デマ14:ワクチン接種前の2020年は超過死亡どころか、過小死亡だった。接種を開始した2021年から超過死亡に転じている。どうみてもワクチンのせいだし、すでにワクチンは54万人以上もの大量死を招いていることになる。接種を推奨した医師たちは殺人犯か殺人教唆犯として裁かれるべきだ。

まず日本は法治国家だから、ワクチン接種を推奨した人が大量死を招いた刑法犯に該当するというなら、刑事告発をし、司法の手に判断を委ねるのが正当である。確たる証拠もなく、思い込みだけで殺人犯・殺人教唆犯だと断罪し、それを広言するのは私刑でしかない。厳に慎むべきだ。それを公に発言しても許されるのは、判決を述べるときの裁判官だけである。
さて本題である。2020年が過小死亡になったのは、人流の8割削減を目標にステイホームしたからだ。ヒト・ヒト感染する病気が激減した。そして、その後超過死亡に転じているのは、新型コロナ感染者が増えたからである。超過死亡は日本でワクチン接種が始まる2021年1月から出ており、「ワクチンのせい」というなら整合性がとれない。
その後、ワクチン接種とともに行動制限を緩め、感染者が増えるにつれて、超過死亡も増えている。感染者数グラフと超過死亡数グラフが完全同期しているから、感染者増が超過死亡の原因だと考えるのが最も自然だ。
原因も明白である。新型コロナウイルスは体内のさまざまな臓器に感染するし、ウイルスを構成するスパイクタンパク質(Sタンパク質)もヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)も有害だ。深刻なのは感染によって起きる脳・心臓・肺への影響で、新型コロナウイルス感染から1ヵ月以内では、肺塞栓:27倍、心筋梗塞:4倍、脳梗塞:5倍、脳出血:4倍ものリスク増となっている*9。つまり、急性期に死亡しなくても、その後に別の病気で死亡する可能性が高くなるということである。こちらは新型コロナ死とはならないから、この病気の影響範囲を正しく把握するために、超過死亡を計算して捕捉するわけだ。
これでもワクチンのせいだというなら、様々な死因において接種者が未接種者より多いという事実がなくてはならないが、現実には逆である。たとえば、2020年12月から2022年1月までの4570万人を対象にしたイングランドの研究で、動脈血栓イベント(主に心筋梗塞と虚血性脳卒中)、静脈血栓イベント(主に肺塞栓と下肢深部静脈血栓症)ともにワクチン接種後に減少していることが確認されている。これはブースター接種後26週までの血栓性および心血管合併症の発生率を、対応するワクチン接種前または接種なしの発生率と比較したものだ*10。
アジア(香港)の研究でも確認されている。1,175,277例を分析し、新型コロナウイルス感染後の30日以内の心血管事象と全死因死亡のリスクはワクチン未接種者が最も高く、かつ、ワクチン接種回数が多いほど低下している。その後も、未接種者は1年にわたって死亡リスクが高くなっている*11。
他の疾患においても、ワクチン接種者のほうが死亡率は低い。これで超過死亡の原因がワクチンだというのは無理がありすぎる。にもかかわらず、ワクチン接種を推奨した人に超過死亡の責任を負わせるのは不当であり、非科学の極みであり、名誉毀損である。
ちなみに、2024年8月7日発表の最新の研究では、2020年12月から2023年3月までの間に、EU圏内で「ワクチン接種によって救われた命の数」は160万人と試算されている*12。このうち60%はオミクロン期に救われた命である。ワクチン接種推奨者が結果として、多くの命を救っていることは明らかだ。

「ワクチンが超過死亡の原因」という言説を見るたびに、そもそも「超過死亡」が何を示す数字なのか、すなわち、なにがどう超過していることを示す数字なのかを理解しているのかという疑問をもってしまう。
超過死亡(Excess deathあるいはExcess mortality)という概念はもともとWHOが提唱したもので、インフルエンザの本当の影響範囲を推測するものだった。インフルエンザが流行していないと仮定した場合の死者数を見積り、それと実死者数との差分をとって、「把握できていない本当の死者数」を算出したのである。それがプラスなら超過死亡、マイナスなら過小死亡ということだ。
これを新型コロナウイルス感染症にも応用し、感染状況からの推定死亡数と実死者数の差分をとって算出している。グラフをみると、感染者数と超過死亡数が見事に相関しているから、間違いなくこの数字は、「把握しきれていない新型コロナ死者数と関連死者数」である。それでも「ワクチンのせい」と主張したいなら、「ワクチン接種による超過死亡数」を計算すべきだろう。ワクチンがなかったと仮定した場合の推定死亡数と実死者数の差分をとればいい。
わかりやすいのが2022年12月と1月の中国の死者数だ。ゼロコロナ政策をやめ、オミクロン変異体の感染がひろがった中国では、2か月間で187万人の死者が出た(*1の研究である)。人口換算で日本の16万人規模だ。そして、mRNA新型コロナワクチンはうっていないから、これを「ワクチンをうっていなかった場合の日本の推定死亡数」と考えることができる。すなわち、2022年12月‐1月の「mRNA新型コロナワクチンによる超過死亡数」は、約14万人の過小死亡となる。

デマ15:高齢者しか死なない病気なのに、子どもや現役世代にワクチンをうつ必要などないだろう。副反応による健康被害があるだけ損だ。

この4年間で、新型コロナウイルスがヒトに与える被害がかなりわかってきた。当初は重症肺炎を起こす呼吸器系感染症で、主として高齢者が犠牲になる病気だと思われていたが、新型コロナウイルスは脳や心臓など全身に感染する病気であり、持続感染することもある。これは、症状が長く続く人が感染者の20%前後もいたからである。持続性コロナ後遺症(Long COVID)だ。
ひどい場合は、味覚・嗅覚・聴覚に障害が出たり、短期記憶を失ったり(いずれも中枢神経系のダメージ)、倦怠感がひどく起き上がれなくなったりもする。感染者の多い英米からは、2020年以来、Long COVIDのために働けなくなった失業者が増え、人手不足に陥っているという統計が出ている。
国内でも、新宿の有名カレー店がLong COVIDのために廃業したことが報道されている。味覚・嗅覚が戻らなかったための、無念の判断だった。現役世代の死亡リスクが低いからといって、現役世代には無害というわけではない。
風邪なら通常は、急性期の後はケロッと治るものである。新型コロナはそうはいかない。果たして、感染者の体内では、何が起きているのか。新型コロナ感染者のその後を、PET(ポジトロン放出型断層撮影)を使って27‐910日にわたって詳細に調査した研究(n=24)では*13、感染前の対照群と比較して

  • 持続的なT細胞の活性化(体内で免疫反応が続いている)

  • Long COVID症状の有無を問わず、脳幹、脊髄、骨髄、リンパ組織、心臓、肺、腸など多くの組織で炎症

  • Long COVID患者では脊髄と腸壁に炎症が持続

という変化が確認されている。そして、感染後158‐676日目にLong COVID患者の直腸またはS状結腸の生検をしたところ、5人中4人の複数の生検でウイルスのSタンパク質をコードする一本鎖RNAを検出。3人の生検ではウイルスの二本鎖RNAが検出された。つまり、急性期が終わったあとも、体内では生産性の高いウイルス感染が継続している人がいるということだ。
腸はどんどん新陳代謝して組織が入れ代わる臓器なので、いつまでもウイルスの痕跡が検出されるということは、次々と感染を繰り返しているということになる。これによって体内で起きることを一言で説明すると「老化」だ*14。老化によって起きるダメージと同等の損傷が、ウイルス感染、およびウイルスのSタンパク質、Nタンパク質などの抗原、あるいはウイルスのカケラによって、体内の随所で引き起こされるということである。
問題はその「程度」である。感染が軽く終わった場合で10年分の老化、ひどくやられた場合(体内で大量の増殖を許した場合)は30年分の老化が起きると考えていいだろう。70歳が感染し被害が大きかった場合は、100歳の身体になるから致死率が高い。20歳は50歳の身体になるだけだから致死率は低いが、脳梗塞や心筋梗塞など中高年からみられる病気になってしまう。小学生でも脳卒中、高校生が試合中に突然死など、子どもへの影響も大きい。
アメリカの保険会社のデータでは、現役世代(18‐64歳)の死亡率が40%も高くなっている*15。保険金支払で実情がわかっているし、保険の設計のために(アクチュアリが)情報を収集しているから、信頼できる情報である。すなわち、若い世代が急性期に死亡することはまずないが、そのあとの経過がよろしくない。それが新型コロナウイルス感染症だ。高齢者でなくても、ワクチンはうったほうがよい。

デマ16:そもそもマスクしてもワクチンをうっても感染するんだから、どちらもまるで意味がない。

「感染するかしないか」だけで判断するのも、一種の01(ゼロイチ)論だろう。これに「死亡するかしないか」だけで判断する01論が組み合わさって、信じがたいほど幼稚な意見がまかり通っている。「感染してしまうからマスクもワクチンも意味がなく、致死率が低いから高齢者以外は感染を怖がる必要はない」という0101論だ。
感染しても、入院するほど重くなる人もいれば、軽く済む人もいる。Long COVIDに悩み続ける人もいれば、そうでない人もいる*16。感染するかしないか、死ぬかどうかではなく、「感染したとしても軽く済ませる」ことが重要なのだ。たとえ3回感染しても、約60%のほうに入れば被害は小さい。
そしてマスクとワクチンは、「感染しても軽く済む」ためのただ二つの武器である。マスクで吸入するウイルス量を減らし、ワクチンでウイルスを早期に撃退することができれば、症状は軽く済むし、Long COVIDにもならずに済む可能性が高くなる
ヒトの免疫は二段構えになっている。自然免疫が対応しきれないと、強力な適応免疫(獲得免疫)が起動してウイルスをやっつけにかかるのだが、問題は起動に日数がかかることだ。その間に、ウイルスが大量増殖してしまう。ひとつの細胞の中でウイルスは1,000倍に増える。それが1,000個の別細胞に入ってさらにそれぞれで1,000倍に増えるとすると、1,000×1,000=100万個だ。そのままやりたい放題させると、その翌日には10億個になる計算になる。
つまり、適応免疫がウイルスを叩くのが遅くなればなるほど、ウイルスが幾何級数的に増殖してしまう。そしてこれは、大量のSタンパク質やNタンパク質を身体の中に抱え込んでしまうことを意味する。1日でも1時間でも早く適応免疫でウイルスを撃退できるかどうかが運命の分かれ目だ。それが軽症と重症、後遺症の有無を分ける。
ワクチンによる予行演習とブースター接種による抗体の補充が重要なのは、適応免疫の起動と撃退処理が早くなるからである。その上で、マスクをし、感染細胞数を減らしておくことが大事だ。

デマ17:既に一度感染しているし、免疫ができているから、もう心配ない。マスクもワクチンも不要だよ。

「ワクチンをうっても感染する」といいながら、「感染したからもう平気」というのは矛盾そのもの。感染で免疫をつけても、次の変異体はすり抜けてくるし、感染から日数が経過すると、徐々に身についた感染予防能力も失われる(感染を防ぐ中和抗体が日数とともに減っていく)。
その上、じつはかなり厄介な話がある。カナダからの報告で、感染を繰り返すたびにLong COVID率が高くなることが示されているように、新型コロナウイルス感染症は、二度目三度目と感染を繰り返すほうが、ダメージが大きくなる病気だ。新型コロナウイルス感染症は、罹るたびに弱くなる。「感染するたびに強くなる」という要素は微塵もない。
なかでも、感染によって体内にできる抗N抗体が問題である。実験で抗N抗体がサイトカイン産生過剰を引き起こすことが確認されているからだ*17。これは重要なので、詳しく説明する。
体内でNタンパク質が産生されると(新型コロナウイルスが増殖すると)、それに対抗するために免疫は抗N抗体を動員するのだが、その結果、抗体依存性免疫暴走(ADE of cytokine production)が起きやすくなってしまうという話である。抗N抗体は重症化因子なのだ。
そして事実、それが起きているとしか思えない症例が世界で相次いでいる。どの国でも、複数回感染者の入院が目立つ。感染するたびに強くなるのであれば、感染を繰り返すたびに入院する人は減っていくはずだが、現実に起きているのはその正反対の事象だ。抗N抗体が抗体依存性免疫暴走を引き起こした結果である可能性が高い。
この機序が深刻なのは、どんなに健康な人でも、感染すると重症化因子を抱えこんでしまい、若くても重症化したり、死亡したりする可能性が高くなるということである。本人の自覚がいくら「健康」であっても、体内の抗N抗体は容赦してくれない。そして、免疫の暴走(サイトカインストーム)は若い人の命も奪う。事実、100年前のスペイン風邪で最も多くの死者が出たのは、30歳前後の若い人たちだった。これもその30年前に流行したロシア風邪をひいて、抗体をもった人たちが、スペイン風邪で抗体依存性免疫暴走をおこしたことが理由だと言われている*18。
抗N抗体による抗体依存性免疫暴走を防ぐには、体内で産生されるNタンパク質を増やさないことである。大量のウイルスの侵入と大量の複製を許してしまうと、大量の抗N抗体が産生され、サイトカインストームが起きやすくなる。すなわち、罹患経験のある人は、ウイルスへの大量曝露を防ぐこと、そして迅速に適応免疫がウイルスを叩けるようにしておくことだ。マスクとワクチンの追加接種は、抗体依存性免疫暴走を防ぐために重要なのである。
この機序がもつ意味は極めて大きい。「新型コロナは高齢者だけが死ぬ病気」とよく言われるが、なぜ高齢者の致死率が高いのかを考えてみたことがあるだろうか。体力がないとか、基礎疾患をもっていることが多いといった理由がすぐに思いつくが、ひょっとすると、既存のコロナウイルスへの感染回数(風邪をひいた回数)が多いために、抗体依存性免疫暴走を起こしやすくなっているのかもしれない。そして、この仮説が正しいとすると、感染を繰り返していくと、スペイン風邪同様、若い世代も致死率があがりはじめる可能性があるということだ。重症化因子である抗N抗体を抱えてしまうからである。

デマ18:「子どもは感染しても無症状か軽症で済む」とウイルス学者も言っている。すでにmRNA新型コロナワクチンは過去最悪の薬害が出ているそうじゃないか。そんなものを「子どもにもうて」だなんて、狂気の沙汰。真摯にワクチンの危険性を警告してくれている医師のほうがよほど信用できる。

「薬害」という表現は妥当ではないだろう。もともとワクチンは深刻な病気の病原体の情報を体内に何らかの形でいれて、免疫に事前学習させるものだ。この段階で健康被害が出ることもある。これを副反応と言っている。そして、「過去最悪の副反応」というのは、正しくない。なぜなら、比べている対象が乳幼児期に接種するワクチンだからである。
新型コロナウイルスに襲われた私たちは、否応なしにほぼ全国民に接種をした。アル中もいれば、心筋梗塞や帯状疱疹などの発症寸前の人もいる。副反応疑い報告の数が多いのは、全年齢層に一斉に接種したからである。たとえば麻疹や日本脳炎のワクチンも、乳幼児ではなく、全年齢層にうてば、結果は似たようなものになることが予想される。事実、子どもへのmRNA新型コロナワクチンの接種実績をみると、子ども向けは接種量を減らしていることもあり、副反応被害もほぼない*19。

そして、「子どもは感染しても無症状か軽症で済む」というのは事実ではない。Long COVIDになる率も大人と同様に高い上、インフルエンザより脳症は多く、深刻だ。2020年1月‐2022年11月までの調査で、小児の新型コロナ関連脳症は103名出ており、以下の数字である*20。

  • 14名(13.6%)は急性劇症脳浮腫や出血性ショック脳症症候群等重度の急性脳症

  • 45名(43.7%)は完全回復したが、17名(16.5%)は重度の神経学的後遺症

  • 11名(10.7%)は死亡

  • 103名のうち95名(92.2%)はワクチン未接種

なにより、子どもは自然免疫(innate immunity)で病気に対抗するのだが、新型コロナウイルスによってダメージを受けることがわかっており*21、新型コロナに感染したあと、ほかの感染症に弱くなる。「感染すれば強くなる」というのは本当に唾棄すべきデマだ。子どもは新型コロナに感染すればするほど、弱くなると考えなくてはならない。
それが如実にわかるのが、このグラフである。東京都の咽頭結膜熱の患者数である。この大半が子どもたちだ。こんなことを繰り返していて、子どもの身体が平気なはずもないだろう。断言しておく。「子どもがかかったほうがいい感染症はひとつもない」

東京都の咽頭結膜熱の患者数グラフ。2023年から突出している

ウイルス感染症は、体内での増殖をどれだけ抑えられるかで予後が決まる。予行演習し、少しでも早く免疫に対応させることで、ウイルスの大増殖を抑えるのがワクチンの役割であり、研究報告をみるかぎり、よく効いている。ひとつの問題は、日数の経過とともに効果がうすれることだ。半年~1年ごとにブースター接種で免疫の武器(抗体)を補充することで、より早期撃退できる確率が高くなる。これは、上で説明した抗体依存性免疫暴走を防ぐ意味でも重要だ。
なおワクチンについては、こちらの記事(無償公開)で詳しく説明しているので、参考にしていただきたい。現状、子どももマスクとワクチンでウイルスに対抗させるべきだ。ノーガードでウイルスのいいようにさせると、将来、麻疹におけるSSPE(亜急性硬化性全脳炎)のような深刻な合併症をひきおこすリスクもある。
「研究結果に基づく新型コロナワクチンのFAQ」
https://furuse-yukihiro.info/2024/01/faq_vaccination/

[マスク編]

デマ19:マスクをしていても感染した。まるで意味はないではないか。だいたいウイルスはマスクの目より小さいんだから、素通りするだけだ。空気感染する新型コロナウイルスにマスクは意味ない。

「マスクをしていたのに感染した」という人は、食事や喫煙や親しい友人とのおしゃべりのときにマスクを外していたことをすっかり忘れているようだ。防護服で身をかためた医療従事者でさえ、感染してしまうことがあるのが新型コロナウイルス感染症である。いろんな感染ルートがあるから、「マスクをしていたのに感染した」ことを信用できない。マスクを外した場面での感染の可能性があるからである。
そしてこのことが、マスクの研究を濁している。最近見た研究も、ランダムに「公共の空間でマスクをする人」を設定し、しばらくしたあと、対照群との感染率の比較をしていた。公共空間でいくらマスクをしても、その周囲がノーマスクなら効果はあまり出ないし、対照群と宴会をしていたらなんの意味もない。
さて、ウイルスのほうがマスクの目より小さいことは事実だ。しかし、「ウイルスがマスクの目をすり抜ける場面」を目撃した人がいるはずもない。ただ、「マスクの目の大きさが5μm、ウイルスが0.1μm」という大きさ比較だけでモノを言っている。思考が単純すぎて二の句がつげない。
誰かがつくった大きさ比較の絵をよく見せられるが、描かれているのが1個のウイルスだから、もうそれだけで現実離れをしている。たった1個のウイルスが浮遊していることなど、まずない。下手すると数千万個のウイルスが相手だし、浮遊しているなら22.4L中に6020垓個(=60200000京個=602000000000兆個)もある気体分子にもみくちゃにされている。すなわち、
「ウイルスはマスクの目よりも小さいから素通りする」
が通用するのは、以下の条件に合致する場合のみである(ウイルス粒子にどうやって運動エネルギーを与えるか問題は無視する)。

  • 真空(酸素などの他の分子やホコリがない)状態で

  • せいぜい数個のウイルス粒子しかなく

  • マスクが1枚(一重)

現実には、当然、真空ではなく、ウイルスは他の気体分子やホコリと押し合いへしあいしており、かつ、マスクは最低でも3枚重ねで、目が揃っていない。わざわざ不織布マスクを使うのは目に規則性がないからだ。それを3‐5枚重ねにするのがマスクである。すり抜けられるわけがない。
それにしても、小麦粉をふるいにかけたり、鉢底に石をしきつめたりした経験はないのだろうか。粒子の大きさと目の大きさを比較して、後者が大きければスルスルと通り抜けるなんていう単純な話ではない。
また、マスクの防御能力は100%ではないので、時間の経過とともに閾値を越えてしまうことがある。IRPs(感染性呼吸器粒子)が多数浮遊している場所に長時間いると、やはり感染はする。満員電車よりも新幹線のほうが感染リスクは高い。理由は、長時間乗り合わせるからである。

デマ20:マスクは二酸化炭素ばかり吸うことになって健康被害がある上、病原菌を集めるし、それをふりまくので迷惑でしかない。

マスクで健康被害が出るというなら、ずっとマスクをして仕事をするのが当然の食品工場や半導体工場の従業員が健康被害に苦しんでいるはずだ。「マスク病」が職業病として報告されたことなど皆無である(むしろ「風邪をひかなくなった」という逆の報告のほうが多い)。
病原菌を集めるのは本当だが、それを「ふりまく」というのは言いがかりだ。マスクには静電気力も働き、微細な病原体をがっちりと捕捉するからである。もしも、ふりまくのが本当なら、食品工場でマスクをすることは食品衛生上、逆効果だということになる。いまごろ食中毒の多発で従業員がマスクをする工場はつぶれているだろう。
いい加減、思い込みだけで主張するのは遠慮してもらいたい。「二酸化炭素ばかり吸う」のかどうかは、マスクをした状態でパルスオキシメーターに変化が出るかどうかをみればいい。血中酸素飽和度の数字はマスクをしたくらいでは変わらない。マスクの目をウイルスが素通りするかどうかだって、科学者は実験で確認している。こんな装置を使い、集めた呼気のウイルス量をmultiplex real-time RT-PCR assay–TaqPath COVID-19 Combo Kitで測定した研究がある*22。被験者は感染者で、マスクの正しいつけ方を指導されることもなく、自然体で呼気を出している。

https://www.sciencealert.com/study-confirms-one-type-of-covid-mask-is-significantly-better-than-others

結果は明白。マスクをすると呼気のウイルス量が大幅に減少した。最も成績がよかったのはN95マスクで、98%カット。続いて成績がよかったのは、なんと布マスクで、87%カットである。不織布マスクは74%カットだった。つまり、その場の全員がマスクをして、空間中に浮遊するIRPs(感染性呼吸器粒子)を抑えるという目的からすれば、アベノマスクのような布マスクでも十分だったということである。
この実験は有無をも言わさぬ実証である。マスクは効果がある。ただし、布マスクは「吸いこむウイルス量を減らす」という使い方だと限界がある。攻撃と守備の両方のバランスがとれているのが不織布マスク、その両方でいい成績を出すのがN95マスクのようなレスピレータ(日本ではマスクのJIS規格で規定されている)だ。
もはやユニバーサルマスクは崩れてしまい、電車や飛行機には「新型コロナ陽性だったけれど、せっかく予約したし、症状も軽いから、旅行には行こう」という判断をした人たちが乗っている。あるいは、「5日間の療養期間があけたから、もう平気」とばかりに、ノーマスクで会社に出る人もいる。いまの変異体は感染5日目6日目あたりも、大量のウイルスを吐出しているが、本人は「治った」と思い込んでノーマスクで出社するから、クラスター待ったなしだ。自衛するにはレスピレータがいる。
マスクは微細なウイルスを逃がさない。これは実験で確認されているから、間違いのない科学的事実である。その捕集機構は拡散、さえぎり、慣性衝突、重力沈降、静電気力の5種だ。さらに詳しくは、こちらの記事にまとめてある。
「科学的事実に基づくマスクのFAQ」
https://furuse-yukihiro.info/2023/11/faq_mask_wearing/

新型コロナウイルスは「わかっていないことだらけ」だ

冒頭で医学論文の中には、シャーロック・ホームズの推理を思わせるような面白みを感じるものもあると書いた。当たり前のことだが、生きている人を解剖することはできないし、体内で起きていることを可視化するのも難しい。様々な手がかりから推理し、実験で確認して機序をつきとめ、また臨床で確認することを繰り返す。
いまの状況で「こんなのただの風邪」と言い切れること自体、ちょっと信じられない。新型コロナウイルスが身体に与える影響については、まだ全体の一部が判明しているだけである。「風邪」というなら、上気道炎でかつ、すっきりと治らないといけない。脳にも持続感染したり、感染者の20‐40%がLong COVIDとなったりしている時点で、どうみても風邪ではないし、現時点ではまだ5年生存率も10年生存率もわかってはいない。
様々な研究が、新型コロナウイルスは「軽症だと人に安心させて、やりたい放題やる」ウイルスであることを示している。まだ安心できる状況ではないし、欧米もマスクをとる人が増えただけで、何も終わってはいない。少なくとも、現時点ではワクチンを更新し、公共空間のマスクでウイルス曝露量を減らすことを愚直に続けたほうがいい。とくに罹患経験のある人は、この二つで重症化を防げるかどうかが決まるといっていいほどである。

[2024/08/26増補]

このところSNSで目立つのは、ウイルス人工説とレプリコンワクチン危険説のようだ。この二つについて追記しておく。

ウイルス人工説はほぼ無意味で危険

新型コロナウイルス人工説(意図的につくった/機能獲得研究中につくられたものが漏洩したなどの説)は2020年当初からあり、そうじゃないかと疑えることは事実である。ただ、私は興味がない。自然界には無数のパンデミック候補ウイルスが存在するからだ。
IPBES(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services. イプベス)の報告書によれば、エボラ出血熱/ジカ熱/ニパ脳炎などの新興感染症の大部分(70%)とインフルエンザ/HIV(エイズ)/新型コロナなど既知のパンデミックのすべてが「人獣共通感染症」(Zoonosis)である。そして、現在発見されていないウイルスの数は170万種と推定でき、このうちヒトに感染する可能性があるのは63万1000種‐82万7000種であるという*23。
最大82万7000種ものパンデミック候補ウイルスが動物と共生しており、いつヒトに感染をしはじめるか不明なわけで、チマチマと人工ウイルスにこだわるのもバカバカしい。よほどこちらのウイルスのほうが脅威だ。地球温暖化など気候変動のせいで、こうしたウイルスがヒトに感染しやすくなっているという研究もある*24。すなわち、たとえ人工説が正しく、新型コロナウイルスをつくりだした人間を見つけ出して罰したり、それにつながった研究を中止させたりしたとしても、パンデミックリスクを小さくすることさえできない。
また、人工ならゲノムの残りの部分は他の野生株と一致せず、初期株と密接に一致することが予想されるが、そうはなっていない*25。2017年から2022年の間に、1,200匹以上のコウモリからサンプルを収集し、どのウイルスが近縁かを分析した研究によれば、新型コロナウイルスは雲南南部とその周辺地域で発生した可能性が高いという*26。どうしても近縁種が見つからないなら、人工説にも分があると思うが、そうではない。
ゲノム解析で不自然さを指摘する人もいるが、生物界で不自然なほどの変異が起きるのは珍しい話でもない。遺伝子組み換えとしか思えない規模の変異を起こした事例はいくらでもある。
なにより人工説は陰謀論と相性がよすぎるのが問題だ。事実、「ワクチンをつくる会社がウイルスをつくった」とか、「生物兵器として開発された」などと言い出している。前者が真ならもっと絶大に効くが効果の持続しないワクチンを作れるだろうし、後者が真なら開発国と目される国が大きな感染被害を出していることの説明がつかない。それに、わざわざ莫大な開発費をかけなくても、自然界に候補は82万7000種ある。
生物兵器だとすると、大きな謎がある。ウイルスの病原性はターゲットに感染させてみるまでわからない。本来の宿主にはほぼ無害で、別の種には高病原性なウイルスなどいくらでもある(インフルエンザウイルスも新型コロナウイルスもそうだ)。すなわち、「兵器」を狙ってつくれるようなものではない。人工の生物兵器だというなら、ヒトに高病原性のウイルスが開発されるまでの間に、多数の「ヒトに感染させての試験」がされているはずで、それを隠し通すのも難しいはずだ。

レプリコンワクチンはゲームチェンジャーになる可能性

レプリコンワクチンについては、激しい反対意見ばかり目につくけれども、正直、「次のいいネタを見つけたんだな」という感想だ。2021年からの界隈の主張を追ってみるといい。
「mRNAワクチンで遺伝子が書き換わる。危険だ。接種すると2年で死ぬ」
と騒ぎ、
「子どもや妊婦に接種するなんてとんでもない。そもそも子どもは重症化しないから不要。そもそもまだ治験中のワクチンだ」
と騒ぎ、
「うてば免疫不全となって、かえって新型コロナにかかりやすくなるし、ターボがんになる」
と騒ぎ、
「超過死亡の原因はワクチンだ。日本で謎の大量死が起きている」
と騒ぎ、そしていまは
「レプリコンワクチン接種で、体内で永遠にスパイクタンパク質がつくられるようになって健康被害が増え、毒性をもつタンパク質の遺伝子がシェディングで社会にばらまかれ、日本人は海外から入国禁止にされる」
と騒いでいる。
仮説をたてるのは自由だ。しかし、検証し、仮説が間違っていればすみやかに棄却して訂正するのが科学者・医学者としてのあるべき態度である。接種未感染の人が2年でバタバタと亡くなっている事実も、遺伝子が書き換わった事実も、免疫不全となっている事実も、接種未感染の人にがんが急増している事実も観察はされていない。超過死亡がワクチンのせいなら、全国ほぼ同じように超過死亡が出るはずだが、都道府県別にみると新型コロナ感染者の多い地域のみに超過死亡が出ている。2023年以降は過小死亡の地域も多い。
子どもも重症化したり、死亡したり、Long COVIDに悩んだりすることや、それをワクチンが(かなりの程度)防ぐことや、ワクチンを妊婦に接種したほうが新生児も守られることも報告されている*27。こうした検証というべき結果が発表された時点で発言を訂正するべきだが、界隈がそのような誠実な対応をしているのを見たことがない。これまでの騒ぎはまるでなかったことにして、次のネタをしゃべりだす。ちょうどそれがレプリコンワクチンというわけだ。信頼度ゼロである。

レプリコンワクチンがどの程度のものになるのかは、まだわからない。まずは実績のあるファイザーやモデルナのワクチンでブーストしておいて、レプリコンワクチンの接種結果をみるのも手だろう。それは個人の選択である。
このワクチンが「額面通りのものなら」という前提で、注目すべき点を指摘しておく。それはなんといっても、抗体が長続きするということだ。これまでのmRNA新型コロナワクチンの大きな問題は、抗体が3か月程度で減衰してしまうことだった(これは自然感染で得た抗体でも同じである)。だからできれば半年に1回の接種が望ましい。1年に1回では厳しいというのが、従来型ワクチンの実際であった。ウイルスをやっつける弾薬が、日数とともに減ってしまうのだ。
無論、ワクチン接種によって免疫は抗原をいち早く発見し、すぐに抗体(弾薬)をつくる能力を獲得している。かつ、3回の接種でSomatic hypermutationと呼ばれる現象が起き、免疫は変異体にも対応することができるようになるから、過去に3回以上ワクチンを接種しているなら、効果がゼロということはない*28。それでも、弾薬切れだと補充に時間がかかる。その間、ウイルスの増殖を許してしまう。弾薬の在庫を欠かさないようにしたほうがいいのだ。
といって、3か月ごとにワクチン接種はほぼ無理だ。半年ごとでも厳しい。レプリコンワクチンで「年に1度の接種で在庫は自動補充」となれば、ゲームチェンジャーになるだろう。これまでのインフルエンザワクチンと同様に、毎年の更新で済む。うてる人がぐっと増えるから、社会全体として新型コロナウイルスに強くなる(抗体が減った状態の人が減り、重症化しづらくなる)。

新型コロナウイルスに騙されるな!

ここのところ、新型コロナウイルスがヒトの免疫に対して、どのような機序で影響を与えているかについての研究発表が続いている。どれをみても、ウイルスの巧妙さにムカつく(驚く)ばかりだ。以前、海外のSNSで「Ninja virusだ」と書いている人がいたが、この表現はしっくりくる。免疫の応答をいろんな手段でとめてしまい、忍者のように体内にしのびこんで、ぬくぬくと感染を続けるウイルスである*29。
この機会に、「急性期の症状はウイルスの被害ではない」ということを理解してもらいたい。熱が出たり、咽頭痛を起こしたり、身体中がなんか痛くなったりするのは、感染細胞を舞台に免疫がウイルスを撃退し、追い出そうと闘っているからである。免疫が細胞ごとウイルスをやっつけたりしているから、当然、炎症を起こすし、痛みも出る。
こうした免疫の反応をとめられてしまうと、ほとんど症状は出ない。それを「軽症で済んだ」と理解してしまうから、「もうただの風邪だ」という誤解を招いてしまうのだ。軽症だとしても多くの場合、新型コロナウイルスは着々と感染を続け、ヒトの身体にダメージを与える。
かなり似ているのがHIVで、デマ01の説明で書いたように、感染してすぐは軽症なのに体内にひそみ続け、5年後‐10年後くらいにエイズを発症する。肝炎ウイルスも同様だ。感染したところで、どうってことはない。だが、20年以内に20%の人が、30年以内に30%の人が肝硬変などで死亡する。新型コロナウイルスについては、感染後10年・20年と経過したころに、果たしてどのような結果をもたらしているかについては、現時点で誰も確認できていない。
新型コロナウイルスが最も厄介な点は、感染力の強さでも肺炎の起こしやすさでもなく、「軽症」のフリをしてヒトを油断させるところだ。騙されてはいけない。急性期の軽症は、被害が小さいことを保証しない。それが新型コロナウイルスである。発熱しない変異体が出てきた時点で、心底ぞっとした。発熱反応まで抑制されてしまうと、感染を自覚することが難しく、ウイルスにいいようにやられてしまう。

1次被害と2次・3次被害

つまり、ウイルス感染には1次被害と2次・3次被害があり、それを分けて考えなくてはならないということだ。1次被害は急性期の被害であり、ウイルスに対する免疫反応だ。この段階でウイルスをすっきり撃退できるなら、2次被害・3次被害を気にすることはない。そしてこう表現すると、風邪もすっきり定義できる。「上気道炎」でかつ、1次被害で終わり、2次被害も3次被害もないものを「風邪」と言っている。風邪をおこすウイルスは200種類くらいある。
さて、2次被害は、ウイルスによるダメージのことである。Long COVIDが典型例だが、急性期が終わったあとに受ける被害だ。体内の様々な臓器にウイルスが感染を続けた場合、そこで炎症も起こし、そして免疫は反応ができない。あるいは、ウイルスのSタンパク質やNタンパク質が2次被害を起こすこともある。たとえば、新型コロナウイルスのSタンパク質が心臓にダメージを与え、心不全など心疾患を起こす原因になること、そして新型コロナワクチンによって産生されるSタンパク質にはその恐れがないことが明らかになっている*30。
そして3次被害は、こうしたダメージの結果、別の病気に見舞われる被害だ。新型コロナウイルスで自然免疫が損傷していれば、様々な感染症に罹りやすくなる。すなわち、新型コロナウイルス感染症が軽症だったとしても、回復後、すぐに劇症型溶連菌感染症にかかって命を落とすかもしれないということだ。免疫がダメージを受けるということは、免疫が抑え込んでいるがん細胞の増殖も許してしまう。

「もうただの風邪」というなら、1次被害だけで終わる病気でなくてはならない。たとえ急性期が軽症でも、2次被害も3次被害もあるからこそ、感染はなるべく避けよう、二度も三度も感染することは絶対に避けよう、と書き続けているのだ。
このウイルスは本当に厄介である。といって、2020年の生活に戻せ、などというつもりは毛頭ない。ADE of cytokine productionとLong COVIDを防げばそれでいいのだ。すなわち、適切にワクチンで免疫をアップデートした上で、ウイルス濃度の高そうな場面ではマスクをする生活をすればいいだけである。これで2次被害も3次被害も最小限で済む。
そしてこれは、危険な変異体がパンデミックを起こしそうなH5N1対策にも、Mpox対策にもなる。すでに流行しているマイコプラズマ肺炎も百日咳も溶連菌感染も防ぐ。
「換気/空気清浄機/マスク/頻繁な手指衛生/ワクチン」
があなたとあなたの家族と友人たち、同僚たちを守るのだ。 

基本中の基本を覚えておこう

「ワクチンのせいで○○」が本当かどうかは、接種前に比べて接種後に○○が増えているか、あるいは接種した集団と未接種の集団で相違があるかをみる。これが基本中の基本だ。「接種後に友人が帯状疱疹になった」としても、帯状疱疹が接種集団に特別に多いとか、2020年以前に比べて社会全体で増えているといった事象が観察されていなければ、ワクチンのせいではないかと疑うのも難しい。
副反応疑い報告制度で一か所に接種後の有害事象を集めるのも、「ワクチン接種によって、それが増えているかどうか」をみるためである。n=1で因果関係を特定することはできない。「接種したことで発症した」と「たまたま発症寸前に接種した」を区別するのは、統計的事実である。
「ワクチンで免疫不全」も同じだ。それが本当なら、接種未感染の人も多数が病院送りになっていないとおかしい。あらゆる感染症に弱くなるのが免疫不全という状態だからである。実際には、新型コロナウイルスが免疫にダメージを与えるので、「感染した人」が感染症に弱くなっている。そしてその程度は、接種者か未接種者で違うということだ。ダメージの程度が違うからである。
そもそも、ワクチンは本番感染の予行演習であるから、「ワクチンのせいでこうなる」と危険性をアピールするなら、「感染するともっとひどくこうなるから、注意しろ」というのが論理的帰結のはずだ。そして事実、mRNA新型コロナワクチンの副反応として「軽い心筋炎」が報告されているが、新型コロナウイルスに感染すると「致命的な心筋炎」を起こす可能性が高いことが判明している(心不全発症リスクや死亡リスクが従来の心筋炎と比べても高い*31)。未接種での感染での危険性を言わず、ワクチン接種による危険性ばかり言うのは根本的におかしいということである(ワクチンの成分によるアナフィラキシーショックを除く)。

パリオリンピックでも大谷翔平選手が史上最短で40‐40を達成したアメリカ大リーグでも、マスクをしている人がいないことから、「海外はとっくに正常化した」という人が多いが、その理解は誤りだ。「もう何度も感染しているから、いまさらマスクはしなくてもいい」というだけのことだし、どの国も感染がおさまっているわけではない。それどころか、入院者が増えている上、死者も減りきらない。これはおそらく、感染で抗N抗体をもった人が、ノーマスクで大量のウイルスに曝露して感染しているからだ。
この厄介なウイルスに対抗するには、体内で好き放題ウイルスが増殖するのをとめるしかない。そのために使える手段は、初期感染細胞数を減らすマスクと、ワクチンブースター接種による抗体の補充の二つだけである。
ともかく、人が多く換気の悪い場所はウイルス濃度が高くなりがちだ。これまでに判明している科学的事実をつなぎあわせると、ワクチンを更新し、ウイルス濃度の高い場面でマスクをし、曝露するウイルス量を減らせるかどうかが、今後の20年・30年の健康を決める。認知症のなりやすさも決める。現段階では、数字をもって示せるほどのエビデンスはないが、明確に実証されてから慌ててマスクをしても遅いのだ。

[2024年11月12日増補]

その後、レプリコンワクチンをめぐっては、製造元のMeiji Seikaファルマ株式会社が「根拠なきデマには法的措置をとる」と表明したこともあり(2024年10月8日)、少し空気が変化した。抗体が長く持続するという研究報告が出たこともあり、接種を希望する人も増えた。

2024年秋冬は5種類のワクチンを選べる

それでも、デマの悪影響は明白にある。福岡資麿厚生労働相は11月12日の閣議後記者会見で、「11月8日時点での医療機関へのワクチン納入量が、今シーズンの供給見通しの3224万回分に対し、計約457万回分にとどまっている」と明らかにしている。憂慮すべき事態だ。
最も気になるのが、2024年秋冬に接種するワクチンがすべてレプリコンワクチンだと思いこんで、「今度のワクチンは危険だからうつな」と実家に連絡をする人が出ていることだ。そんなことはない。この秋冬は以下の5種類のワクチンが用意されており、選択ができる。

https://x.com/black_kghp/status/1848350240543543773

レプリコンワクチンについては様子見をしたいし、mRNAワクチンの副反応にイヤな思い出しかない人なら、武田のヌバキソビッドを勧める。このワクチンだけが組み換えタンパクワクチンで、副反応が軽く、効果もかなりいい(ただし、過去のmRNAワクチンの副反応がたいしたことなかった人には、やはりmRNAタイプを勧める。具体的には医師と相談を)。

失敗したワクチンコミュニケーション

いまなお、「ワクチンは危険だ」という主張がSNSに多く、ワクチンをめぐってのコミュニケーションが大失敗していることを実感する。ここまで読み進めてきた方は、副反応疑い報告制度を誤解して、あるいは意図的に悪用して危険性を訴えているケースが多いことを承知だと思う。一方で、ワクチンを推奨する側が、「安全だ」と言いはったのも大きな問題だ。

そもそも病原体の抗原を免疫に提示して、事前準備させるのがワクチンである。概念としては「軽く感染させるもの」だ。その仕組みからいって、「絶対安全」なはずはない。だから接種券に「健康被害はまれではあるもののなくせない」と明記されており、予防接種法では健康被害の補償が規定されているのである。
ワクチンの必要性を主張したい、わかってもらいたいという気持ちの強い専門家は、「危険ダー!」という声をかき消したい一心で、つい「安全だ」と言ってしまいがちだ。この瞬間に、議論が迷走する。健康被害を受けた気の毒な方々が出ていることは事実だからである。
ワクチンに対する評価は「リスクが少ないのはどちらか」でしかない。接種した場合の健康被害のリスクと、未接種で感染した場合のリスクを比較し、より危険なのはどちらか、ということだ。そして、世界中で報告されている接種実績をみる限り、未接種あるいは最後の接種から日数がたっての罹患は、明らかに被害が大きくなっている。

人の命がかかっているので軽率な物言いは避けるべきだが、ワクチンはプールでの水泳練習にたとえられる。大変不幸なことだし、絶対に起きてはならないことだが、それでも溺れてしまう例もある。だからといってプール授業をやめると、水難事故の犠牲者が増えてしまうこともまた事実だ*32。

「プール授業は危ないからもうやめろ。みんなぶっつけ本番で海に飛び込むんだ」

という主張が、ナンセンスなものであることに疑問の余地はないだろう。助かる命はどちらのほうが多いのか、ということである。ワクチンは有害だと反対運動をする人たちは、感染しての被害についてはけっして言及しない。

子どもたちの被害が深刻化する恐れ

デマ18で説明したように、ウイルス感染症は、体内でどれほどウイルスが増殖したかで、被害の程度が決まる。そして、二度目の感染で大量増殖を許してしまうと、抗体依存性免疫暴走(サイトカインストーム)が起きる可能性が高い。こうなると健康被害の程度が大きくなるのは、年齢を問わない。若くても重症化するし、死亡の危険も高まる。
そして、免疫暴走を防ぐことができるのは、ワクチンを更新して抗S抗体を高く保つことと、マスクや換気でウイルス曝露量を下げることの二つだけである(服用のタイミングがよければ、抗ウイルス薬も多少は寄与すると思われるが)。いま、日本を見渡すと、この二つが最も実行できていないのが、子どもたちと20代‐40代だ。

子どもたちはそもそものワクチン接種率が低い。その上に、かなり密な環境で一日をクラスメイトと過ごすのに、最近はマスクをとれ、という圧力が強くなっている。2023年3月に文科省が発出した「2023年4月からは、マスクの着用を求めないことを基本とする」という方針が、「マスクを強制するな」ではなく、「マスクをさせるな」と理解されているケースも多いようだ。
そして、マスクをとらせた弊害は明白だ。学級閉鎖が急増したし、2024年11月8日に厚生労働省が発表した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について」によれば、2024年1月から10月までの期間に集計された15歳未満の感染被害は

  • 入院児童は5,935人

  • ICU利用者は129人

  • 人工呼吸器の利用者は74人

となっている。人工呼吸器を利用するということは、気管に挿管して呼吸を無理やり補助しないと死ぬ状態になっているということである。当然、生還したとしても肺の能力はかなり失われている。スポーツ選手になるのが夢なら、その夢をつぶしてしまうだろう。そして深刻なのは、どうみても、今後ますます、この数が増えることしか想像できない、ということである。

海外の事例も紹介しておこう。カイザー・パーマネンテ・ノーザン・カリフォルニア(KPNC)の会員である0‐18歳未満でワクチン未接種の子どもを、2020年3月1日から2022年12月31日まで追った研究がある。結果は、

  • 1,107,799人の子どものうち、423人が調査中に新型コロナで入院

  • 入院率は変異体が出るたびに増加

  • 6か月未満児の10万人月当たりの入院率は、プレデルタ期7、デルタ期13.3、オミクロン期22.4

  • 入院した小児の20.3%が集中治療室(ICU)に入院

  • 12‐18歳のICU入院は36.1%

  • ICU入院者の91.8%は合併症を有していなかった(基礎疾患がなかった)

である*33。

一方、子どもの新型コロナワクチン接種の効果は続々と、様々な研究で確認されている。一例を挙げると、新型コロナ感染で増加するMIS-C(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children. 小児多系統炎症性症候群)の予防効果だ。
2021年1月2日から2022年6月23日までにカリフォルニア州で報告されたすべてのMIS-C症例を対象にした調査では、明らかにワクチンを接種した子のMIS-C発症率が低い。5‐11歳の年齢群ではMIS-C患者の85%が未接種、12‐17歳ではMIS-C患者の90%が未接種である*34。MIS-Cは川崎病に似た怖い病気だ。すべての子どもが入院し、その半数がICUでの治療を必要とし、1‐2%が死亡する。その発症を防げるだけでも、ワクチンは子どもたちの強い味方である。

もしも「もう感染したから、ワクチンを接種する意味もない」と思っているなら、それは間違っているとはっきり明言しておく。感染して抗N抗体を得たからこそ、ワクチンで抗S抗体を身につけておくべきなのだ。子どもも新型コロナ感染で重症化したり、死亡したり、MIS-Cや糖尿病を発症したりすることはもう間違いのない事実である。感染経験者にこそ、うつことを勧める。
やはり国・自治体は、高齢者に対するのと同じように、子どもの新型コロナワクチン接種について、自己負担額を減らすようにするべきだ(たとえば水戸市は接種当日に1歳から高校3年生年齢相当までの住民に補助を出している)。国の未来をつくるのは、子どもと若者の健康である。

20代‐40代も注意が必要

20代‐40代もリスクが高い世代である。理由は、2021年の2回接種で終わっている人が、約40%もいるからだ。もう3年が経過しているので、ワクチンの効果にはあまり期待できない状態となっている。
それでも、感染対策を継続しており、ウイルス曝露量を減らしているなら、まだマシだ。現実はWパンチで、ワクチン効果がなくなっている上に、ノーマスクで大量のウイルスに曝露している。
その結果として、最も恐れなくてはならないのが、重いLong COVIDを発症して仕事に支障をきたすことであり、脳卒中や心筋梗塞などに見舞われることである。つい最近では、46歳のイギリスのスーパーモデル、ジョージナ・クーパーさんが突然、亡くなっている*35。
「弱い個体が死んでいるだけ」
と平然と口にする人がけっこう多いが、まったくの誤りだ。新型コロナウイルスは健康体にも感染をひろげ、そしてその感染によって、健康体だった人が脆弱な身体となってしまう。リッチで身体が資本で、食べるものにも専属の栄養士をつけて管理しているようなプロスポーツ選手ですら、Long COVIDには勝てない*36。

感染症のイヤなところは、突然、健康な人を不健康にしてしまうことだ。そして新型コロナウイルスのイヤなところは、脳にもダメージを与え、認知機能に障害が出ることである。このことは多数の研究で確認されているが、決定的なのが、この研究である。
Changes in memory and cognition during the SARS-CoV-2 human challenge study
https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2024.102842

34名の健康で新型コロナ感染歴のないボランティアに新型コロナウイルスの起源株を投与して、意図的に感染させた上で、感染直後、30、90、180、270、360日後に認知機能テストをし、スコアの低下を示した。記憶力と実行力に最も大きな低下が見られている。

勉学に励む大学生にとっても、バリバリと仕事をする社会人にとっても、認知機能の低下は大きな問題である。短期記憶が失われると、レシピをみながら料理をすることさえ困難になる(どこまでやったか忘れる)、ドラマや映画も楽しめない(登場人物が何者なのか途中でわからなくなる)。当然、勉学にも仕事にも大きい影響が出る。ポカミスで済めばいいが、大きな事故を起こしてしまう可能性も高い。
感染は仕方がないことだとしても、脳は守って欲しい。脳を守るには、鼻腔にウイルスを感染させないこと(鼻は脳に近いから、脳にウイルスが入り込むリスクが高くなる)、そして大量のウイルスに曝露するのを避けることだ。つまり、ウイルス量が多いと目される空間では、マスクをすることを勧める。
もちろん、ワクチンを更新するのも大事なことである。体内でのウイルスの増殖を早く食い止めることができるからだ。「あんな副反応はもうイヤだ」というのであれば、武田のヌバキソビッドを勧めておく。

英米からは、Long COVIDのために離職せざるを得ず、そのまま失業する人が増加していることが報告されている。その大半は、新型コロナに感染するまでは健康だった人たちだ。若くて健康に自信のある人にとっても、これはけっして他人事ではない。それが感染症の怖さである。

Long COVIDについて、東京都が「新型コロナ後遺症ポータル」をつくり、情報発信がされている。保護者と教育感染者はもちろん、全員に目を通していただきたい。とくに「東京iCDC専門家による解説動画」は必見だ。いま知っておくべき重要な情報が詰まっている。

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 この先は注記で、論拠とした医学論文をリストしています。「反マスク記事・反ワクチンのセンセーショナルな記事でないと売れない」という出版社の定説を覆したい。このnoteの売上が説得材料となります。ぜひご支援をお願いします。

反ワクチン本ばかりが目立つ書店の棚に、並べたいのです。280ページ相当の書籍を書き上げてあります。目次は以下の通り。この記事の販売本数が、本書籍を刊行するための説得材料となります。
[目次]
1章 ウイルスと病気を理解する
2章 想定外の事実と新型コロナの病原性
3章 感染蔓延社会の到来とその処方箋
4章 ワクチン接種と科学的思考
5章 コミュニティのワンヘルス
6章 ワクチンの正確な知識と情報判断力
7章 感染蔓延社会と新自由主義の超克

注記

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