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選挙ハガキが届いて考えたこと

先日、今般の参院選の候補者から選挙ハガキが届いた。推薦人は地元選出の県議会議員となっているが、この県議会議員についてはそもそも面識もなく、昨年の市長選(落選)、県議補選のいずれにおいても支持したことがないし、今後も支持する可能性が全くないのにもかかわらず当方の住所にハガキが届いた。

「どこかから名簿が漏れている可能性があるかもしれない」と思って、ハガキに記載されていた選挙事務所の電話番号の方に問い合わせてみようと思った。とはいえ、せっかくの機会なので関連法規について簡単に調べて、選挙事務所の方に質問する内容を整理してみた。

そもそも選挙ハガキの法的根拠は公職選挙法第142条に規定されており、参議院選の場合は15万枚を発送することができる。今回の場合は兵庫県内の党組織が党内で県議会議員や市町議会議員(兵庫県には実は村が存在しない)で割り当てを決めて発送したのだろう。ちなみに選挙ハガキの様式などの細かい規定は「公職選挙郵便規則」というものに定められている。

選挙ハガキというものが存在して、立候補者がそれを規定枚数発送できることは知っていたので、ハガキを送付すること自体は特に問題はない。今回の私の最大の疑問は、「なぜ件の県議会議員は私の住所を知っているのだろうか?」ということで、「これは個人情報保護法の観点から問題ではないのだろうか?」ということだった。そこで、選挙事務所に対して、以上の2点を質問することにした。ただ、この2点を質問するにしても、調べられることはもう少し深堀をしておこうと思い、個人情報保護法を紐解いてみた。個人情報保護法第18条では次の通り定められている。

「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない」

そもそも、私はこの党に対して自らの個人情報を提供したことはないし、もしも第三者からの名簿提供などがなされていたらこれは違法行為にはなるのではないかと考えたのだが、個人情報保護法の運用においては、選挙のために名簿が政党や政治団体に提供されること自体は「目的外使用」には当たらないということのようである。つまり、個人情報保護法を盾にして追及しても「違法」ということにはならないようだ。

以上の個人情報保護法の観点とは別に、選挙管理委員会に選挙人(有権者)名簿というものがあり、これを閲覧することができるということを思い出した。これは法的には公職選挙法第28条の2「選挙人名簿抄本の閲覧」で定められている。ただ、コピーや写真撮影はできず、手書きでの書き写しのみが認められているというのが現実であったはずで、この政党がそこまでの労力をかけたのだろうかという疑問が残った。

私が疑問に思い、確認しようと思った点は以下の通りだ。

 ①これまでこの政党に対して住所、氏名などの個人情報を提供したことがないのにもかかわらず、今回選挙ハガキが届いたのはなぜか?

②第三者から名簿が提供されているとすれば、それは個人情報保護法に違反するのではないか?

③選挙管理委員会の選挙人名簿の閲覧を行い、手書きで当方の住所と氏名を控えたということか?

④当方の個人情報取得のプロセスが適法であるとしても、この政党を支持することは今後も絶対にないので、当方の情報の一切を削除いただきたい。

 ②と③については、自分なりに調べた結果結論は出ているのだけれども、党の側でおかしなことを言う可能性もあるのであえて知らないふりをして聞いてみることにした。

 選挙事務所の方に電話し、「先日届いた選挙ハガキについてお尋ねしたいのですが…」と切り出したところ、即座に「選挙ハガキの件につきましては、これから申し上げます番号にお問い合わせをお願いします」とのことだった。なるほど、選挙事務所の受付担当の方では答えさせないという仕組にしているのだなと直感した。そのこと自体に異論を言うつもりはない。自分の勤めている会社でも、代表番号の方に製品の問い合わせがあった場合は「お客様相談窓口」の方を案内する。受付の人間が製品知識を持っているわけではないから、きちんとした製品知識のある部署に回すのは当たり前のことである。

 この対応から見えたのは、「選挙ハガキについての問い合わせというものがある程度存在し、それについて知識のある人間がその対応に専門にあたる」ということである。早速指定された電話番号にかけてみたが、話し中でなかなかつながらない。選挙期間中ということもあって電話が殺到しているのだろう。何回かかけ直してようやくつながった。主なやり取りは以下の通りだ。(以下は、録音をしていないため、メモと記憶を頼りに書く)。

党:〇〇(政党県組織の名称)です。

私:先日、地元選出の△△県議会議員の推薦で選挙ハガキが届いたのですが…。

党:〇×(選挙区候補)の名前でしょうか、それとも□□(比例候補)の名前でしょうか。

私:〇×さんの方です。推薦者の△△県議を支持したこともありませんし、党の方に個人情報を提供したこともないのですが、なぜ私の住所と氏名宛に選挙ハガキが送られてきたのでしょうか?

党:選挙管理委員会には選挙人名簿というのがございまして、こちらは法律に基づいて政党関係者は閲覧できるのです。おそらく△△県議の方で閲覧をして、それで当たったのではないかと思います。

私:なるほど、その選挙人名簿というのはコピーや撮影は可能なのですか?

党:それはできません。ただ、手書きで控えることはできますので、△△県議か関係者の方で手書きで控えたのではないかと思います。

私:手書きというのは大変ですね。ただ、今ご説明いただいたのはあなたの推測ですよね?詳細は△△県議に確認をした方が良いかもしれませんね。たとえば、第三者から名簿を入手したということも考えられますよね?その場合、個人情報保護法に違反するということにはなりませんか?個人情報保護法第18条では、「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない」とあるわけですが、この条文と照らし合わせると選挙ハガキの送付に用いるのは「目的外使用」に当たりませんか?

党:選挙の場合は「目的外使用」には当たらないとされています。

私:なるほど、よくわかりました。いずれにしても、私が将来にわたって〇〇を支持することは絶対にありませんので、今回そちらで入手された私の情報の一切につきまして削除いただきたいと思います。

党:承知しました。不快な思いをさせて大変申し訳ありません。それでは削除させていただく住所と名前を教えていただけますか?

私:(住所と氏名を伝える)。今後、そちらの党の関係から連絡があった場合は今回の依頼を誠実に履行していないということになりますので、その場合は法的措置を検討させていただくこともありますので、必ず削除してください。

党:承知しました。△△県議の方に伝えまして、情報の削除の方を行いましたらその旨ご連絡させていただきます。ただ、選挙期間中ですので少しお時間をいただくことになるかもしれません。

私:失礼ですが、お名前をお聞きしてよろしいですか?

党:〇〇事務局の××と申します。

私:では、ご対応よろしくお願いします。

ある意味よどみなく会話が進んだこともあり、電話を切ってから確信した。この政党事務局にはほぼ間違いなくクレーム対処マニュアルがあるということを。マニュアルがあるだろうということは、この手のクレームがこの事務局にはよく来るということなのだろう。虫唾が走るほど嫌いな政党であるものの、この手のクレームは感情的になるとかえって相手を有利にさせかねない。クレーム対処マニュアルがあるということは、おそらく電話内容が録音されていると考える方が自然だ。感情的になるのではなく、自分が調べた内容について時に知らないふりをしつつ、冷静に疑問をぶつけてひとつひとつ確認してゆくことが重要なのだ。

 党からの回答を得ることができたので、その後の情報削除の連絡を待つことにした。その一方で、選挙人名簿の閲覧に関してある疑問が浮かんだ。それは、「選挙人名簿を誰が閲覧したのかという記録が選挙管理委員会に残らないのだろうか?」というものである。選挙という「公益」のためとはいえ、政党や政治団体が選挙人名簿を閲覧でき、それを手書きで控えることができるというのは、個人情報保護の観点からは少しずさんな気がする。選挙人名簿の目的外利用を防いだり、目的外利用があった際に閲覧者を追跡する仕組がおそらくある、そう考えたのだ。

 早速、地元の選挙管理委員会の方に問い合わせを行ってみた。以下はその時のやり取りの要旨だ。ちょうどよい機会だったので、政党事務局から説明されたことが法律上問題ないかについても尋ねてみた。

 私:選挙ハガキについてお尋ねしたいのですが…。先日参議院選の候補者から選挙ハガキが送られてきたのですが、その住所と氏名は選挙人名簿を見て書いたということなのですが、そういった名簿あって公開されているのでしょうか?

選:公職選挙法で定められた名簿で、政党や政治団体の関係者が所定の手続きを踏めば閲覧可能です。

私:その名簿はコピーや撮影は可能なのでしょうか?

選:それはできません。ただ、手書きで控えることはできます。

私:なるほど。では、選挙人名簿を閲覧した人については公開されるのでしょうか?

選:(一旦、保留して部内で確認してから)選挙人名簿を閲覧した人については告示をしております。ただ、今回の参議院選挙についてはまだ告示されておりません。毎年4/1~3/31の1年分を6月頃に告示することになっています。ですから、今回の参議院選の閲覧者の告示は令和5年6月頃となると思います。

やはり選挙人名簿を閲覧した人を特定することは可能なのだ。つまり、来年告示される閲覧記録に△△県議やその関係者の名前がなかった場合、党事務局側が行った説明は虚偽ということになる。来年6月までこのことを覚えているかどうかはわからないし、それを調査するだけの時間と気力があるかはわからない。ただ、今調べられることはとりあえず調べ切ったような気がする。

私自身も昔少しだけ選挙を手伝ったことがあるのだけれども、その時にあるベテランの都議会議員の方が仰っていたことを思い出した。

「選挙というのはね、一般の有権者からすれば、日常生活を破壊されるものなんだよ。閑静な住宅街に大音量の街宣車が駆け巡り、住宅の壁にポスターが貼られることは明らかに景観を損ねる。候補者やスタッフはね、一般の有権者に迷惑をかけているんだという気持ちを忘れてはいけないよ」

 もう20年くらい前に聞いた言葉で、その言葉を聴いた時にも感銘を受けたものだけれども、自分自身が選挙運動をする側でなくなってから、この言葉の意味が改めて重く響いた。たしかに、昨年の衆院選の際、在宅勤務でオンライン会議をしていた時に街宣車が大音量で駆け巡り、会議の邪魔をされたのは不快そのものだった。この件に関しては複数の政党の選挙事務所にクレームを入れた。

 今回の選挙ハガキなんかもそうなのだけれども、絶対に支持しないと決めている政党からのアプローチというのは、有権者の心証を悪化させるだけだ。逆に支持している政党から選挙ハガキが来ても、そのことがプラスに働くことはないようにも思う。これはおそらく電話なんかもそうだろう。時代と有権者感情に合わせて、選挙のあり方も変化させてゆく必要があると言える。

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