見出し画像

聖人と美術・聖ヤコブ(大ヤコブ)

こんにちは。今回は聖ヤコブ(使徒ヤコブ)をご紹介します。
イエスの直弟子、いわゆる十二使徒の中にはヤコブという名の方が二人おられるので、「ゼベダイの子のヤコブ」を大ヤコブ、「アルファイの子のヤコブ」を小ヤコブと呼んで区別しています。本日のご紹介は大ヤコブさんです。

聖人名の一応の基準として私はカトリック教会での呼称を使っていますが、正教会ではヤコブさん、「イアコフ」と呼ばれるそうです。
英語では「ジェームズ」です。えっ、「ジェイコブ」じゃないの?と私は思いましたよ。はい。「セント・ジェームズ」なんですって。

さて、両ヤコブさんの大小、どうして「ゼベダイの子・ヤコブ」が「大ヤコブ」で「アルファイの子・ヤコブ」が「小ヤコブ」かということについては、イエスの弟子になった順番、年齢の差、体格の大小などの説があるようです(ノルウェー・カトリック公式サイトでは弟子になった順番説がとられていました)。

聖ヤコブ(大ヤコブ)(3年頃~44)

弟の聖ヨハネとともに十二使徒に数えられています。伝統的に十二使徒のうちで一番年上なのが大ヤコブ、弟の聖ヨハネは一番年下ということになっているそうです。この兄弟聖人はかなり気性が激しかったらしく、イエスには「雷兄弟」などと呼ばれています。
聖ヤコブは布教活動の末、44年にエルサレムで殉教しました。十二使徒のうちでは最初の殉教者です。

聖ヤコブは生前スペインに渡り布教したと伝えられています。でも、これは実際のヤコブの足跡から見てありえないというのが現在の研究者の認識で、「スペイン人以外は信じていない」らしいです。逆に言えばスペインの民間信仰ではそういうことになっているということですね。

スペインではさらに聖ヤコブの墓(と信じられたもの)が9世紀に発見されます。エルサレムで亡くなった聖ヤコブの墓がスペインで見つかった奇跡については、これまたいろいろな伝説的逸話で説明されています。

墓の発見後、「聖ヤコブがスペイン軍とイスラム軍との戦いで姿を現し、スペイン軍側にに加護を与えた」という伝説も広まっていきます。こうして聖ヤコブはやがてスペインの守護聖人となりました。

さて、聖ヤコブの墓が発見されたという町がスペイン、ガリシア州のサンティアゴ・デ・コンポステーラです。「サンティアゴ」とはガリシア方言で聖ヤコブのことで、聖ヤコブ伝説が町の名の起源になっています。
聖ヤコブの墓とされた場所には教会が建てられ、時代が下るにつれて巡礼地として多くのキリスト教徒の旅の目的地となりました。その教会というのが現在のサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂です。

このキリスト教信者の巡礼との関連で、美術作品では13世紀ごろから聖ヤコブ自身が巡礼者として描かれることが多くなりました。アトリビュートは巡礼帽旅用の杖。杖には水筒として使われたひょうたんをひっかけるための鉤がついている場合もあります。ずだ袋を持っていることも。

それからホタテ貝も聖ヤコブの重要なアトリビュートです。ホタテ貝の由来は諸説あるものの、実際には不明とのことです。

画像2

でもホタテ貝といえば大ヤコブ、そして巡礼のシンボルということで、今でもサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼とホタテ貝は切っても切れない関係があります。巡礼の最終目的地である大聖堂のロゴにもホタテ貝が使われていますし、巡礼達成者に発行される巡礼証明書にもホタテ貝の絵があしらわれています。聖ヤコブは当然ながら巡礼者の守護聖人となっておられます。帽子職人の守護もなさってるそう。巡礼帽との関連でしょう。

画像2

巡礼者姿の聖ヤコブが世界中で一般的なのに対して、ほぼスペイン限定で用いられた聖ヤコブのモチーフが、「ムーア人殺しの聖ヤコブ」(サンティアゴ・マタモロス)です。
すでに少し触れましたが、9世紀に起こったと言われるスペイン軍とイスラム軍の戦い(実際には歴史的に存在しない戦いだそう)で、白馬に乗った聖ヤコブが現れスペイン軍に加勢したという伝説に基づき、スペインでは異教徒を討伐する騎士の姿の聖ヤコブが描かれました。このエピソードから、彼は戦士の守護者ともなっています。

画像3

「聖ヤコブが異教徒討伐に加護を与える」というロジックは、スペインがアメリカ大陸に進出した際、原住民に対する戦いの正当化にも利用されました。聖人の名のもとに虐殺や略奪行為などが行われたことは気が滅入りますし、いろいろ考えさせられます。

では、本日の作品鑑賞です!(特段表記がないかぎりはウィキメディア・コモンズにリンクしてあります)。

「聖ヤコブ」レンブラント・ファン・レイン
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rembrandt_-_Sankt_Jakobus_der_%C3%84ltere.jpg?uselang=ja

「聖ヤコブ」ギル・デ・シロエ(読み方違うかも。日本語表記見つかりません。)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Saint_James_the_Greater_MET_DP102881.jpg?uselang=ja

ギル・デ・シロエの「聖ヤコブ」をあらゆる方向から鑑賞したい方はこちら。(ニューヨークのメトロポリタン美術館のサイトです。英語サイト。)
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/471884

万一、シロエの「聖ヤコブ」がもともとくっついていた棺ってどんなかな~?と気になる方がいらしたらこちらです。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cartuja_de_Moraflores_(Burgos)_-_Tumba_de_Juan_II.jpg?uselang=ja

「ムーア人を討伐する聖ヤコブ」ジョバンニ・バティスタ・ティエポロ
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Giovanni_Battista_Tiepolo_-_St_Jacobus_in_Budapest.jpg?uselang=ja


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?