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"魚群探知機"の能力を最大限に引き出すために!奥深き"送受波器"の話

フルノが世界で初めて実用化に成功した"魚群探知機"
その魚群探知機、いわゆる魚探がどのように海中の魚を探知しているかはご存知ですか?

陸上ではよく使われている光や赤外線といったセンサーは海の中では深くまで届かないため、超音波が使われています。
その超音波を海の中に発射しているのが"送受波器"とよばれるもの。今日は少しマニアックな話、「送受波器」についてお話しします!

魚群探知機にとっての目や耳のようなもの
送受波器って何?

魚探は基本的には、ユーザーが操作したり映像を確認するための"指示器"、そして海中に超音波を発射し、反射した超音波を受信する"送受波器"の2つで構成されます。
この送受波器には周波数や出力といった様々な特性があり、この特性によって海の中の見え方は大きく変わります。
この送受波器について魚探の専門家であるフルノのエンジニア、津島さんと川乱さんに詳しい話を伺ってみました。

左:津島さん noteには何度も登場しているお馴染みのフルノアングラー。
右:川乱さん プロ向けからレジャー向けの魚探開発に携わり、送受波器の知識も豊富。

そもそも送受波器とはどういうものなのでしょうか。

川乱さん「送受波器の中には"振動子"とよばれる素子が入っていて、振動子面が震えることで海中に超音波を発射します。また逆に海中から反射して返ってきた超音波を振動子面でとらえ、電気信号に変えて魚探の映像に変換しています。この振動子の特性によって、送受波器の出す超音波の周波数は決まります」

津島さんと川乱さん曰く、この送受波器はかなり奥が深いとのこと。発射する超音波の周波数や出力、さらに船体への設置箇所によって海中の見え方やフィッシングにおける魚探の使い勝手まで変わると言います。

津島さん「送受波器から発射される超音波は船の真下方向に集中して送信されます。我々はビームと呼ぶのですが、この送受波器の作り出すビームには独自の指向性があって、この特性によって海中における探知能力は大きく左右されます。指向性が決まる一番大きな要素は送受波器の周波数です」

川乱さん「プレジャーボートで使用する魚探の周波数は50 kHzと200 kHzが一般的です。50 kHzが低周波、200 kHzが高周波ですね。送受波器のメーカーや型式によって多少の差はありますが、50 kHzは45 度前後、200 kHzは10 度前後の探知角度があります。50 kHzの方が探知範囲が広いということになります」

周波数と探知範囲のイメージ

近年の魚探は2周波を左右に並べて表示する機能があり、一度にそれぞれの周波数で捉えた海中の様子を映像として確認することができます。
アングラーでもある津島さんは釣りをすることだけでなく、魚探の映像から色んな情報を読み取り自身のフィッシングに活用することが楽しいと言います。

海中のイサキを捉えた映像(左:低周波 右:高周波)
低周波側では指向角が大きいので群れが通過するまで長時間にわたり反応が表示されている

津島さん「高周波はビームが狭い代わりに、分解能が高くきめ細かい映像を得られるメリットがあります。そのため、高周波の魚探映像には映っているのに、低周波には映らないターゲットなどは小さい魚かな?と判断することもできますね。
また反対に低周波のみに映っている場合は船の真下ではなく、端の方にいるターゲットだと考えることもできます。こんなふうに自分と魚の位置関係を意識できると、どのように仕掛けを下ろすかなどを考えるのも楽しくなると思います」

設置箇所は魚探の性能を大きく左右する?!
フルノフィールドテスターに聞く設置箇所の重要性

続いて、実際に船への取り付け方でどう使い勝手が変わるのかをフルノフィールドテスターである小野信昭氏の元を訪れ、お話を伺いました。

友恵丸・友恵丸III 船長 小野 信昭さん
北は北海道から南は沖縄まで、全国を飛び回ってボートフィッシングを楽しむアングラー。スキューバダイビングの経験も豊富で、水中の様子も把握した上での魚探の解説には定評があり、雑誌の連載や各地での講習も人気が高い。また、ボートフィシングにおける安全面やルール、マナーの啓発にも力を入れており、自身のウェブサイトや雑誌の連載でも啓蒙活動を続けている。著書『必釣の極意』、共著『魚探大研究』(いずれも舵社刊)

小野さん曰く送受波器を掘り下げた情報は少ないので、すでに魚探を使っているアングラーはもちろんのこと、魚探を購入検討しているアングラーにとってもたいへん興味深いテーマと述べた上で、送受波器の重要性についてお話くださいました。

小野さん「どの送受波器を選ぶかは魚探本体を選ぶときと同じくらい大切だと思っています。どんなスペックの送受波器を選択するか、そしてボートのどこに、どのように設置するかはフィッシング中の魚探の使い勝手に影響するからです」

送受波器から水中に超音波を届ける方法として、一般的に3つの設置方法があります。船底真下へ突出させるスルーハル方式、船底の内側に設置するインナーハル方式、もしくは船尾のトランサム部というところに設置するトランサム方式です。

スルーハル方式:船底に穴をあけ、送受波器が直接海中に触れた状態で設置する方式。海中に接していることから効率良く発信、受信することができる。
インナーハル方式:船底の内面に送受波器を設置する方式。船底と送受波器面の間の空気を除去することが大切。底板を通して超音波を送信・受信するため、超音波のパワーがスルーハル方式に比べて減衰する。
トランサム方式:船尾のトランサム部に直接送受波器を設置する方式。設置も簡単でスルーハル方式と同様、送受波器が海中に接しているため効率は良いが、エンジンノイズや泡の影響を受けやすいといったデメリットもある。

小野さん「スルーハル方式、インナーハル方式、トランサム方式にはそれぞれメリット・デメリットがあります。大きな違いとしてはスルーハル方式とトランサム方式は送受波器の超音波の発射面が直接海中に接しているのに対して、インナーハル方式は船底を挟んでいるという点でしょうか。
超音波の発信・受信において、スルーハル方式とトランサム方式は船底による減衰の影響を受けずに済むことから、インナーハル方式に比べると有利になります」

インナーハル方式は船底を挟んでいるため、送信・受信で2回も超音波のパワーが減衰していまいます。そのため超音波が深くまで届かなかったり、微弱な反応が消されてしまうとのこと。
ではトランサム方式が楽そうにも思いますがここにも違いがあるのだと言います。

小野さん「トランサムは取り付けもしやすく、メンテナンスもしやすいメリットがありますが、エンジンや海面が近いこともあり、走行に伴うエンジンノイズや泡の影響を受けやすいです。ちょっと実験してみましょうか」

そんな小野氏の見解を確認すべく実際に船に乗って海上実験を実施。トランサム方式とインナーハル方式で比較をしてみたところ船の速度によって差ができることがわかりました。
低速(4kn=時速7.78km以下)で走行した場合は映像に差は見受けられませんでしたが、4kn以上になるとトランサム方式では映像に乱れが発生しました。エンジンが出す泡などの影響で、超音波がうまく送受信できていないことがわかります。

「普段、送受波器の比較を目的に海に浮かぶことはないので、なかなか興味深い実験になりましたね」と小野氏

小野さん「今回は速度で比較しましたが、そもそも喫水が浅いボートではトランサム方式の場合、船の揺れによっては送受波器が海面から出てしまい、映像が途切れやすくなります。また、スルーハル方式やインナーハル方式でも、船底を伝わる泡の流れ方次第では影響を受けることになります。
送受波器は一度設置してしまうと“この魚探での映像はこういうものだ”と思ってしまいがちですが、魚探の能力を引き出すためにも、送受波器の設置については設置方式と取り付け場所の検討を十分行いたいですね」

小野さんの愛艇 友恵丸III
この船ではスルーハル方式とトランサム方式で送受波器を設置しているとのこと

自分に合った送受波器はどう選べばいい?

最後に"送受波器選びはどうしたらいいのか"を改めてフルノエンジニアのお二人に伺ってみました。

津島さん「まずは自身の釣りをする海域がどのくらいの深さなのかを把握することが重要ですね。
深場が見たいとなるとどうしても高出力というイメージがあると思いますが、高出力の送受波器はどうしてもサイズが大きくなりかつ高価になります。また使用できる魚探も限られてきます。
周波数が高いほど水中で減衰して深くまで超音波が届かないので、深場を見るという点では低周波も候補に入れてもらえればと思います。
その上で自身の船の大きさや予算などから深さに対して周波数で合わせるのか、あるいは出力で合わせるのかを検討するのが良いですね」

高出力タイプの送受波器となると津島氏の顔よりも大きいモノも

川乱さん「最近人気になっているCHIRPタイプの送受波器では低周波と高周波のいいとこ取りをしたような、中周波タイプの送受波器も登場しています。オールマイティーに使えるので幅広いスタイルの釣りがしたい方にはオススメですね。ひとつの魚群探知機でも数十種類の送受波器が接続できますから、どんなスタイルの釣りをしたいのか、船のどこに取り付けるのかを念頭に置いて、自身に合った送受波器を選択してもらえればと思います」

中周波タイプの送受波器の映像
津島さん、川乱さん、ありがとうございました!

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