見出し画像

「新しい観光まちづくりへの期待と観光地経営」を読む

 今回は2021年の論文。これまでの論文が少し古かったため、最近の観光まちづくりの動向を知る身としては読んでなんとなくモヤモヤしてたのですが、一気に解消する爽快感がありました。北陸先端科学技術大学院大学の敷田麻美教授の論文です。


超要約すると…、

 ① 観光は、時代により有名観光地を巡る団体旅行得難い体験を得る極地ツアー→知識により楽しみを得るエコツアー→SNSにより自分が主人公のナルシズム消費へと変遷した。その結果観光は、観光地が提供する観光資源サービスの体験から、旅行者個人が観光地の意味を見出すことへ変化した
 ② バブル崩壊と地方分権改革による財政削減で観光に十分な財源を確保できない自治体が増え大規模な財源投入をせず地域資源や地域環境を活用して観光収入による経済振興と地域社会の賑わい創出として観光まちづくりが必要となった。
  地域資源や地域環境を観光の装置として利用した場合、その保全費用を観光から回収できないと管理できなくなる。新たな管理の仕組みを考えるには、地域外部に要因があるため地域外にも管理への参加を可能にする必要があるため、観光まちづくりにはガバナンスが必要となった。
 ④ 既存の地域資源管理方法が衰退した場合、公的管理以外に管理を地域外部と「シェア」する方法がある。シェアにより、外部からの参加が期待しやすくなる。

「観光」の変化を現場から考える

 透明度の高い池がモネの絵のようだ、ということで客など全く来なかった岐阜県の池に観光客が殺到したそうですが、モネの絵っぽいという意味(=価値)を見つけた人がおり、その意味づけに興味を持った人が殺到したと説明できます。わかりやすい!私の好きな山城も同じ。単なる山と捉えられていた場所が、実は先人の知恵と工夫を凝らした殺人の仕組みだった、と意味づけたと言えます。なぜ城に興味がない人が面白がって聞いていたのかを考えるに「価値の転換」を楽しんでいたのか、と、思い至ったわけです。
 SNSのインフルエンサーと呼ばれる人は、なんらか新たな価値を見出す、付加することが上手な人で付加価値にフォロワーがいる、と考えられます。インフルエンサーに宣伝を頼む時は、単にフォロワー数の多さだけでなく、そのインフルエンサーがどのような価値観をフォロワーと共有しているのかを確認する必要があるな、と、思います。
 また、観光ガイドをよくお願いするのですが、一度、一方的に捲し立てられてドヤ顔をしていたガイドに大変興醒めしたことがあります。しかし、話下手で知識が少なくても、こちらの話を聞き会話をしてくれたガイドさんは思い出に残ります。流暢さよりも観光客側の価値観でガイドしてくれた方が楽しかったと、言えます。
 「おもてなし」とは、客側の価値観に寄り添うことと言えますね。

観光まちづくりの変化から「地域資源管理」を考える

 観光まちづくりって、まちづくりなの?観光なの?どっちなの?との混乱について以前回答が得られたと思った(以前の記事↓)のですが、さらに深く教えてもらったのが今回かと。

 観光まちづくりにより多くの方が訪れるようになりオーバーツーリズムが発生してしまった、あるいは、少子高齢化で地域の担い手がいなくなり観光に利用していた地域資源が管理できなくなったなど、従来の取組では地域資源や環境を管理しきれなくなった時どうするのか?地域内部と外部のステークホルダーを結び、地域外部からも参加できるオープンな地域資源管理の仕組みが必要になる。ただ、仕組みが複雑になるのでガバナンスが必要。だからこそのDMOか。
 しかし、観光DMOにそこまでできるのだろか?予算に限りがあるDMOでは雇える人が限られますし、田舎での信頼度は行政に勝るものはないからです。また、住民の「納得」を得るような仕事の進め方というのは、案外と難しい。説得ではなく納得。納得だとその後の協力が得られますが、説得は相手方が完全に腹落ちしてないので協力が得られにくい。こうした手法はNPOなどが得意とする分野でもあるので、色々と地域事情に応じた仕組みづくりが考えられそうです。
 なお、本論文では見えないコストを負担する例として宿泊税を挙げてます。観光客によるゴミの片付け、道路補修など「観光客から見えないコスト」の負担をどうするかは大きな問題です。こうしたコストにかかる人手をエンタメ化することで共存共栄を図る動きがボランティアツーリズムや関係人口とも言えます。現場レベルでは必要に駆られて実施されてますが、これまでの流れを整理すると必然的な動きだったのか、と、気付きました。「観光客から見えない名もなきコスト」問題を観光地から発信すると、売れて傲慢になったと勘違いされる危険もあるため、地域外部から発信してくれると助かります。

「シェア」を考える

 以前、自分が人口減少地域のまちづくりに携わった時、「シェア」が街を動かす原動力になると感じたことがあります。若い人は理解してくれましたが、年配の方の理解はなかなか得られませんでした。移住者は、十分な資金、資産を持っていないので、生活コストを下げるには保有よりもレンタルする方が合理的なことが多い。所有者も先祖代々のモノを手放す必要なく管理負担を免れることができる。人口減少地域では労働力すらシェアの対象となる。シェア経済はお裾分け文化にも見ることができると思います。
 シェアは、成立する場所とできない場所が発生するので行政主導よりも民主導の方が向いているように感じます。

まとめ

今回は自分が気になった資源管理やシェアを中心にまとめてしまいましたが、これ以外にも、本論文では様々なことが述べられています。自分の能力では、論文の言いたいことがちゃんと述べられていないことも多いことでしょう。しっかりと読み込むと面白い内容になってます。本論文が気になる方は下記からご覧になれます。
ぜひ。おすすめです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?