エドワード・ゴーリーの絵本が好きな司書が見つけた奇妙な熊の物語『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』
こんばんは、古河なつみです。
今回紹介するのは怖くてちょっととぼけたキャラクター達が魅力の大人向け絵本の作者エドワード・ゴーリーさん! ……がお好きな方にオススメなシニカルでダークな世界観の小説を見つけたのでご紹介したいと思います。
エドワード・ゴーリーさんといえば、下記の表紙イラストからも分かる通り黒色の陰影が印象的なゴシック感のあるのイラストと、不条理な展開で紡がれていく物語に定評のある作家さんです。
実はこの作家さんは2000年に亡くなっています。
翻訳家の柴田元幸さんのお力で多くのゴーリー絵本が日本語訳で出版されていますが、いずれ未邦訳のものがなくなってしまうと、あのゴーリー的な世界はもう味わえないのかも……一冊、一冊を大事に読まなければ……! と少し寂しい気持ちになっていた所、全く違う著者のこんな作品を見つけました。それがこちらです。
『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』……タイトルからして変わり種の雰囲気満載です。作者はミック・ジャクソンさん。ブッカー賞の最終候補に入った事もある方です。
この物語はイギリスの人々が熊を狩りつくしてしまい、現代イギリスには本当に野生の熊が生息していない、という事実を前提としながら、「精霊熊」「罪食い熊」「下水熊」など奇妙な力を持った熊たちが人間の前から姿を消していく時に起きた騒動(喜劇なのか、悲劇なのかは皮肉の受け取り方次第です)を描いた寓話的な物語です。
表紙の画像を見ると、大きな熊が人間を抱き締めています。熊と人間の友情物語かしら? ――と思って物語を読み進めると「鎖に繋がれた熊」の章でこの挿絵に再び出会う事になります。
そして、頭を抱えてこう思うはずです。
「なんでここの挿絵使ったの~!?」
それこそが装丁の狙いだと思うのでネタばらしは控えますが、物語を読んだ後に表紙を見た時にぞっとしました。なんと言えばいいのか……『ギャシュリークラムのちびっ子たち』の熊版みたいなノリです……。
そして個人的に嬉しかった点は、通常の文庫形態でありながら、このコワカワな熊のイラストを担当されているデイヴィッド・ロバーツさんの挿絵が40点以上もふんだんに掲載されている事です。表紙の熊さんの姿がいいな、と思った方は是非手に取って中のページを見ていただきたいです。
そして、物語を書いたミック・ジャクソンさんとイラストを担当したデイヴィット・ロバーツさんのコンビ作はもう一冊翻訳されています。
こちらの表紙も見た瞬間にエドワード・ゴーリーさんやティム・バートンさんの造形がお好きな方にはビビッと来るのではないかと感じました。お話の内容もちゃんと吹っ飛んでいるので(!?)変わったショートストーリーを探している方には大変オススメです!
最後に余談ですが、記事内容のチェックのために改めてエドワード・ゴーリーさんのブックリストを確認したのですが、まだまだ未邦訳作品がありました! まだもう暫くはゴーリー絵本が出版されるのを待つ楽しみが続くようです。
2024年の4月末にも今まで未邦訳だった絵本『青い煮凝り』が出版されます。オペラをテーマにした作品のようで、表紙のデザインが劇場ポスターのようで素敵ですね……! エドワード・ゴーリーさんはポスターのグラフィックを担当される事もあったので、一枚のイラストで目を惹くデザインが本当にオシャレです!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
それでは、またの夜に。
古河なつみ
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