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生きるんだ古橋ちゃん #1



1.クロミちゃんは文学である


 サンリオピューロランドに行きました。幼い頃に行って、それっきりだった場所。社会人3年目。仕事にも慣れてきて、その分負担も増えてきて、何かに癒されたいという気持ちが大きくなってきた今日この頃。周りが韓国アイドルや乃木坂46を推していく中で、古橋ちゃんが手に入れた唯一の癒し!それがサンリオキャラクターズでした。

 古橋の職場のデスクはキャラクターものばかり。職業柄、文房具を使うことが多くって、メモ帳やボールペンをはじめ、ステッカーやシール、リングノート、クリップ入れ、印鑑ケース、「見ました」スタンプ、USBのハブ……すべてをサンリオで統一しています。とりわけマイメロディがだいすき! ピンク色の乙女チックなマイメロさんがいるだけで、曇り空のような殺風景かつ安上がりの社畜デスクがどれだけ可愛くなることでしょうか! そのほかにもカレンダーやハンドクリーム、ひざ掛け、持ち運び用のトートバッグも、キャラクターものなんですね〜。同僚は、古橋さんの仕事用具はどこにあるんだ、などと笑いますが、わたしにとってはこれら全てがモチベーションを高めるための仕事用具なので、全然気になりません。

 そんなわけでサンリオキャラクターズにハマってるわたくし。先月大学時代の友人から、遊びに誘われた際、行きたいところある?と尋ねられ「それならサンリオピューロランドにいきたい!」と力強く答えたのでした。

 ピューロランドって、多摩の方にあるんです。新宿からだと、50分くらいかかるのかなあ。古橋とそのお友だちの住んでいるところからはやや遠くて、2時間ほどかかりました。ふだん小田急線に乗らない古橋は、耳にしたこともない駅で降りてしまい、小田急線は小田急線でも別の種類の車両に乗ってしまったことに後々気づいて、大眩暈アンド大遅刻。友人を30分以上も待たせてしまったのです……『山椒魚』ではないけれど、なんたる失策であることか! しかし女神のようなお友達はにこやかに、大変だったねと声をかけてくれ、しかもリファのプレゼントまで用意してくれていました。ありがとう、結婚して欲しいです、こころから。

 わたしたちははしゃぎながらマイメロさんとキティさんのカチューシャをつけ、写真を撮りまくり、いろいろなグッズを買い、金なしになりながらも(それは古橋だけかもしれませんが)楽しみました。そしてもう二度と来ないであろうこのアミューズメントパークで、何をとち狂ったのか、50分待ちのマイメロディーのゴーカート(プーさんのハニーハント的なもの)に並んだのでした。

 50分待ちとはいえ、乗り物のために時間をかけて並ぶのはけっこうしんどくなってきた25の代。昔は100分でも150分でも、余裕で待っていられたのですが、不思議なものですね。わたしたちより前に並んでいた、ちょこちょこと動き回ってなぜかいつも古橋の膝に突撃してくる女児と、それをまったく見ることもなくヘラヘラしている謎夫婦に能面の悪魔になりながらも、50分間、じっと待ちました。順番が進んでいくとアトラクションの様子が見えてきます。古橋の好きなマイメロさんは車のかたちになっていて、それはまるでアンパンマン号のようななりでぐるぐる回っているのでした。ああ、これぞピューロランド! やっぱり大人たるもの、死ぬほど乗りたくなくてもそれっぽいことはして、偽善的な楽しみを見出し、思い出に残したいもの。ついにわれわれもマイメロさん号に乗り込み、彼女の人生を追体験していったわけです(アトラクションの内容はマイメロさんが生まれた時から大きくなったまでの物語なのでした)家族に愛され、友人に愛され、兎なりに恵まれた人生であったようで、自分との違いに軽く絶望を覚えました。

 乗った後に調べてみると、どうやらこのマイメロアトラクションを運営しているのは、クロミちゃんらしいんですね。クロミちゃんを知らないおまえに説明すると、サンリオ公式HPでは次のように説明されています。

 自称マイメロのライバル。乱暴者に見えるけれど、実はとっても乙女チック!?イケメンがだ〜い好き。黒いずきんとピンクのどくろがチャームポイント。趣味は、日記をつけること。恋愛小説にはまっている。

サンリオ公式HPより


 “自称”マイメロのライバルという言葉が切なぃ。マイメロさんはそんなクロミさんの事情はつゆ知らず(だってマイメロさんの人生を辿るアトラクションに、クロミさんは一瞬だけしか出てこなかったんですよ!?)勝手に自分の顔をゴーカートにされているわけです。古橋は知らなかったのだけど、お友だちによると、どうやらアニメ版でもクロミさんが一方的にマイメロさんに絡んでいっているとか。クロミさんは彼女の子分や自分自身をゴーカートの要素にするのではなく、あえてライバル(?)であるマイメロさんの車を作り出したんですね。マイメロさんの幸福かつドラマティックな人生を、われわれに提供してくれたわけなのです。自分の人生よりもマイメロの人生のほうが圧倒的に需要があることをわかっているのでしょうか。なんだか闇が深い話です。


 マイメロさんは圧倒的なヒロイン。可愛らしくもありながら、ときには芯の強さも垣間見えます。朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』という作品に「ピンクが似合う女の子って、きっと、勝っている。すでに、何かに」という、思春期の脳みそをかち割ってくるような一文がありましたが、キャラクターの世界でもそうなのでしょうか……だって知名度的にクロミよりもマイメロが勝っているし、ミミイ(キティの妹)よりキティさんの人気の方が勝っている。



 クロミさんというのは「ピンクが似合わない方」、つまり「じゃない方」の人生を歩んでいる方なんですね。そしてこれからもずっと「じゃない方」であり続けなければならない。何を持っていてもマイメロさんには勝てないのです。それはピンクが似合わないから。ピンクが自分の役割として割り当てられていないから。そしてそれを自覚しているから、自分の中で道化的に振る舞おうと決めてしまっている。


 けれども「そうじゃない方」の人生こそ、文学というものではないでしょうか。そうじゃない方の心の真ん中に、真実を見いだすこと。存在そのものが文学であるマイメロと、日記を書く趣味を通して、自身の存在を文学として語ろう(言い張ろう)とするクロミ。つねに「じゃない方」として生きてきた、語ってきた古橋からすると、やはりクロミには同情をせざるをえない。記憶してください。私はこういうふうに生きてきたのです、でしたか。『こころ』の一節にもそんな表現がありました。人々に強烈な印象を残すマイメロの人生と、語らなければ記憶されずに消えていくであろうクロミの人生。この落差よ。ああかなしきかな。


 お土産屋さんでは、マイメロディの文具をたくさん買いました。「じゃない方」の人間は「じゃない方」のクロミさんを選びませんからね。ま、ほんとうの理由は黒よりもピンクが好きだからですけど……



 少し切なくなった大人のピューロランド。友人はバツ丸くんを応援していました。なかなかのアナーキズム。見習って、わたしもクロミさんのことを密かに応援していきたいものです。


 ちょっと遠いけど大人でも楽しめる施設でした。
 ぜひぜひ、行ってみてください、るん!

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