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痣と夏と短パンと

僕の左足には痣(あざ)がある。

サイズを測ってみると、全長6センチ。

まぁまぁデカい。

そして、その痣を埋め尽くすように軽く100個オーバーの黒子(ほくろ)が存在する。

生まれたときは痣だけだったらしいが、その後メラニンさんが大暴走したようだ。

痣の中に、大量の黒子。

これがなかなか厄介。

夏、短パンが履けない。

気になる。

気になる。

どうしても痣が、気になるのだ。

どれだけ気温が上昇しようとも、短パンを履いて外出する気分にはなれない。

街で誰かがこの痣を発見した瞬間、視線がわかりやすくフリーズするんだ。

そりゃそうだろう。

誰も悪くない。

ただ、なんとなく視線を送るだけのこと。

悪意も、敵意も、あるはずがない。

アレ、何?

それくらいだろう。

誰もそんなの気にしていない。

わかってる。

わかってる。

ただ、それが一日中続くと、やっぱり嫌になる。

いつのまにか、右足で痣を隠すようになる。

短パンは、もうやめとこう。

そう思うのは自然だろう。

僕の夏、

いや

僕の半生は

この痣に支配されてきたと言っても過言ではない。

街を涼しげな短パンでニコニコしながら歩く人が、どれだけ羨ましかったか。

暑いくせに長ズボンの自分の姿を、どれだけ情けなく思っていたか。

大人になった今は、まだいい。

短パンを強要される小学生の頃なんか、一年中ハイソックス。

長さが膝まである、安心安全な靴下。

だけど朝、

うっかりハイソックスのゴムが緩いのを履いてしまうと、体育の時間なんかパニックだ。

どうしよう。

どうしよう。

痣を、みんなに見られてしまう。

どうしよう。

その対策として

痣に一年中絆創膏を貼ることを思いつく。

不治の擦り傷だ。

何があっても

絶対に

隠さないと。

隠さないと

みんなに嫌われてしまう。

こんな思いをするのは、もう嫌だ。

こんな痣があるからだ。

そうだ、

消してしまえばいい。

ある日、

そのために

僕が選んだのはコンパス。

もう嫌だ。

もう嫌だ。

足が、真っ赤になった。

かさぶたが剥がれる頃になっても

まだ

痣は消えてなかった。

だけど、もうやめた。

そういうの、もういらない。

手放そう。

この夏、

短パン生活はじめました。

その新生活に

必要だったのは

金曜日ユニクロに行くこと、

ついでに

ユニークな痣を受け入れること、

それだけでした。






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