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うろ覚え尾道

ちょうど3年前に尾道に行ったことをFacebookが教えてくれた。

当時の仕事仲間が「尾道はいいよ」とミーティングの前に言ってたことがきっかけで、その週の土日で弾丸で行った。

その時のことを思い出しながら、尾道への旅をおぼろげに書く。


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「尾道によく行くんですよ。めっちゃいいところです。海は近くて、自然もほどほどにあって、商店街とかもありつつ、コンビニとかスーパーとかもあって住むにはそんなに困らない。いつか尾道で暮らしたいですね」

同僚たちとの打ち合わせの中、いつもやっている冒頭のアイスブレイクで1人の同僚が笑顔で尾道の良さを語る。その時のアイスブレイクのテーマは忘れてしまった。「思い出の地」とかたぶんそんなテーマだったように思う。

そんなにいいところなのか、と思って「尾道」とGoogle検索するとそれはロープウェイで上がった山?の上から撮られた街並みが画面に出てくる。それから人気スポットとか、観光情報とかがスクロールすると出てきて、自分が知らなかっただけでかなり人気の観光地であることがわかる。
そうか、広島にあるのか。割と近い。

アイスブレイクが自分の番に回ってきて、何を喋っていたか忘れた。
たぶんこれまで旅行に行ったところをあげたような気がする。北海道とか。

それから打ち合わせを終えて、ずっと尾道のことが頭に残っていた。広島。関西からだと新幹線でわりとすぐに行けるし、在来線でもまあ、いけないことはない。

年に一度青春18きっぷを使った旅行をしていて、まだそういえば今年は行っていなかったし、ちょうどいいのでは?

だいぶ前の仕事で最近まとまったお金も入ったし、これはと思って旅行サイトを見て、いい感じのホテルがあり、海道のすぐそばにあるホテルで新しく、じゃあもうここでいいなとなって寝た。週末、尾道へ行くことになった。


週末の土日に行くことにしたのだけど急遽仕事が入ったので、その翌日の月曜火曜の2泊3日にする。ホテルの予約はまだ取っていなくてこれ幸いで、とにかく平日に行くことになったので人も少ないだろうし結果的には良かったのかもしれない。

青春18きっぷで行くことにしたので経路を調べる。兵庫県を通って、岡山のどこかの駅で乗り換えて、広島へ向かうらしい。

始発の電車で行き、それでも夏真っ盛りだったので微妙に暑く。なんで僕はこの季節に1人で尾道へ向かっているのか、そんな問いと一緒に出かけることになった。


早朝から電車を乗り継ぎ、時折漫画(Kindleで買った東京リベンジャーズ最新刊セットみたいなやつとヒロアカの最新刊)を読みつつ尾道へ向かう。電車内の冷房がかなり効いていた時期だったので救われた。

そうしてお尻を痛めつつ、尾道駅に着く。
思ったより早く、昼前ぐらいに着いたのでお昼ご飯を食べる必要がある。

見知らぬ土地の駅に降り立ち、目の前に広がる尾道水道のキラキラした光の風景に感動するより先に空腹と夏の暑さに抗いながらお昼ご飯を食べられる場所を探す。

思ったよりキラキラしてない曇ってた

尾道へ向かう途中の車内で行きたい場所を探していたのだが、眠気と東京リベンジャーズに気を取られてあんまり探せていない。ホテルの場所しか記憶に残っていないので、ふらふらになりながら商店街のほうへ向かう。

1日目のお昼はそんな感じで、どこでお昼ご飯を食べたか記憶にない。

どこかのお店に入った気もするし、そうでなく適当に買ったおにぎりとか何かを食べた気もする。そんな感じで過ぎて、なんとか難を凌いだあとにホテルでチェックイン。暑さでやられた体を冷やして、荷物整理して昼寝していた。

夕方、オンラインで打ち合わせが入っていたのでホテルの部屋でパソコンを繋ぐ。このためだけにパソコンを持ってきていた重い。
ホテルのWi-Fiが弱くてzoomがうまくつながらず、スマホのテザリングでつないで打ち合わせ。

打ち合わせ終わり、すっかり暗くなって19時ぐらい。尾道らしいものが食べたいよなと思ってGoogleマップであたりを調べ、尾道ラーメンのお店があることを知り喜び勇んで向かう。

地元の常連客のかたがたがいっぱいで、平日なのに賑わっていた。

尾道ラーメンっぽいものを頼んで待つ。少しでも観光客っぽさを滲ませないようにスマホを見るのではなく、店内にあったテレビを眺めていた。野球中継。さっぱりわからなかった。
スマホを取り出して、明日行ってみたいところを探す。

尾道ラーメンが届いて、食べる。醤油の味がうまい。チャーシューが特に美味かった記憶。

結局観光客丸出しで食べていた気がする。お会計をして、それから夜の街を散歩。

街道がすぐそばにあるせいかうっすらと潮の匂いが漂う。水の音がする。気がする。

ホテルに近い道は街灯が付いているがぼんやりとした灯りで、歩いている自分にまるで日常感がない。観光できているので当たり前なのだが。旅行に出ると、1人の時にあからさまな異分子としての自分を意識する。同じ国で、新幹線を使えば2、3時間ぐらいで到着するぐらいの距離なのに、どうしても自分の場所が不安定になるというか、そんな感覚。

この場所を日常としている人からすれば、なんでもないようなことに驚き、感動している自分はどう見られているのか、心細くなっていく。

でも一方で単純に知らない土地、知らない風景にわくわくしている自分もいて、不安はたしかにあるけれど、それを忘れるぐらいの感動もあるのが旅のいいところだと知っている。それがなければ、旅になど出られない。怖すぎ。

近くのコンビニ、たしかセブンイレブンに入って、ご当地のドリンクみたいなやつとレモンサワーと、広島レモン味のおつまみ的なやつを買ってホテルへ戻る。

こういう旅に出て観光地のコンビニに行くとだいたい駅前のお店にはご当地の何かが売っていて楽しくなる。お酒とか。クラフトビールとかも最近よく売っている気がする。


ホテルの部屋は水道と、水道を挟んだ島の景色が見えるめっちゃいいポジションで恵まれていた。たぶん全室そんな景色が見えますよみたいな触れ込みのホテルだった気もする。

夜になって暗さを増した海の色。
昔、別の場所で泊まった旅館の近くで見た夜の海と似ていて、吸い込まれそうで、それはとても不気味な、その先を見通せない海。昼間はあんなに存在感があるのに、夜はまったく光を通さず、その存在が見えないのに、見える時より身の危険を感じる。


そんな怖さを酔っ払ってなんとかしようとして、コンビニで買ったアルコールを開ける。

酔っ払いながら目の前にある尾道水道のことを調べる。

尾道水道は、広島県尾道市の瀬戸内海のうち、本州と向島に挟まれた東西に長い幅約200から300メートルの狭隘部の呼称である。尾道水道沿岸には重要港湾に指定されている尾道糸崎港尾道港区が立地し、古くから瀬戸内航路の主要商港として機能して来た。

尾道水道Wikipediaより引用
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/尾道水道

Wikipediaで調べた尾道水道に思いを馳せつつ、おつまみを食べて、お酒を飲み、明日の観光するところを検索して、シャワーを浴びて、そういえば着替えたやつを洗濯したい。コインランドリーとか、洗濯機とか使える場所はないかなと思って1日目は寝た。




2日目は早めに起きて、早朝の散歩。

駅の方まで歩いていくと、通勤通学の人たちがたくさん電車から降りてきていて、この場所で日常を過ごしている人がいるんだよなと実感する。

海道を挟んだ島にはどうやら船を使って移動するみたいで、自転車に乗った学生さんとか、バイクで移動するスーツの人が船にどんどん乗り込んでいく。

船が出発するのを近くのベンチで休憩がてら待ちながら、船の近くで友達と話す学生さんたちを見ていると、きらきらした海道が彼ら彼女らを照らして眩しい。こういう風景が日常にある人はどんなことを考えているのだろうと思う。自分が暮らす山に囲まれた場所に来た時、息苦しいとか、土臭いとか思うのだろうか。

自分が気づかない山の美しさとか、夕日が山の向こうに消えていく儚さを思ったりするのだろうか。


船に乗る人たちを勝手に見送ってから、ホテルに戻る。シャワーを浴びて、着替えて、ホテルにあった洗濯機を使わせてもらって洗濯。たぶん有料だった。洗濯が終わるまで待ち、10時ぐらい。暑い。

駅近くまで歩き、そのまた西向こうに歩くとレンタサイクルがあるので、電動のやつを借りる。風になりたい。
お店のおっちゃんに指導を受けてから電動自転車に乗り、未だ行ったことのない場所を走り、ひたすら走る。車がすぐそばを走るような道もあって危ない。
電動自転車の快適さにびっくりしつつ、これが普通の自転車だったら暑くてぶっ倒れている実感をもちつつ移動。

行きたかったU2に行って、オシャレさに落ち着かないままコーヒーを飲み、いろんなものが売っていて楽しく、瓶に入った何か珍しい調味料?か何かを買おうと思ったけれど今じゃないなとかぶりを振って、さらに西へ向かう。


自転車で走りながら水道のほうを眺めると工場が連なっていて、昨日Wikipediaで読んだ造船所とか、その名残なのかもしれない。ヴィーン!!という機会の音が工場を抜けて、自転車で走る僕の体を通って、すぐ横を走る車の音にかき消されていく。

工場地帯を抜けたら住宅街が右側に広がっていて、ここを抜けたらなんかいい感じのエリアに出るのではというなんの当てもない直感を信じ、坂を登ったら工事中の道しかなくて裏切られて何も見るところがなく引き返して、またU2に戻ってベンチに座って休憩し、駅を通り過ぎて商店街のほうへ向けて走る。


行きたかったお弁当屋さんがあったのでそこで唐揚げ弁当を買い、暑い、それから食べる場所を探して今度は東へ。全く何もなく、西へ戻る。帰り道にロープウェイがあったけどスルーして、近くにあった休憩所みたいな場所でお弁当を食べる。美味しい。

ロープウェイは観光客の人が使うものなのだと勝手に思ったが平日の昼間でも結構お客さんはいるようで、地元の人が日常で使っているものなのかもしれない。旅の前、尾道を検索したらロープウェイの画像があったり、乗った先から見た街の風景の写真が写っていて、きっと尾道に旅行しに来た人は大半がこのロープウェイに乗っていくんだろうなと思って、でも自転車も借りたままだし、これ以上太陽に近くなって干からびそうになるのは嫌だなあと思ってやっぱりスルーした。

今から思うと逆張りだったのか、単純に面倒臭かったのか判別つかないけれど、2泊3日で来ている以上この日が尾道をゆっくり回れる日だったのだから行っとけよと思う。今度尾道に行ったら真っ先にロープウェイを上りたい。

商店街のほうを自転車を押しながら歩くと、レトロな雰囲気のカフェがあったり、かと思いきや新しい感じの珈琲屋さんとか、食堂とかがあったりして楽しい。なぜ俺はここに昨日の昼たどりつけなかったのか。いや辿り着いていたのかもしれない思い出せないだけで。

それからレンタサイクル屋さんに自転車を返しに行き、「よく回れた?意外と早かったね」と笑顔で声をかけてもらい、おかげさまでいいところいっぱい見ましたと返して、気分よく駅前へ。それからホテルへ一旦変える前に「おやつとやまねこ」に行ってかわよいプリンを買い、手作りのアイスとか売ってる店でアイスもなかを買って、ついでにそこで売っていたコーラからなにかを買い、急いでホテルに戻って部屋で涼しさを味わいながら食べる。食べてばっかりいる気がする。

アイスもなかはもう若干溶けていて、手がベタベタになった。気づいたらもう夕方ぐらいにはなっていて、うとうとしながらまた散歩。

ホテル近くにはシネマ尾道があって、写真で見るより思ったより街の中に溶け込んでいて、存在感というより、立派だなという感覚。

TOHOシネマズとか、そういう大型の映画館でしか映画を見てこなかった自分としては、こういうローカルな映画館というのは憧れというか、小さい、やっている映画も独特で、個性が持てるような若い感覚があったような気がする。

何者かになりたいみたいな、人より秀でることとか、大多数の人とは違う道を行くことが人生をよく生きる方法みたいな、正解を探すみたいな感覚でもないけれど、なんとなくそういう欲望があるような感覚。

いつの間にか遠くの船着場に視線は吸い寄せられていて、その先にある水道を眺めていたら波がゆらつき、船が帰ってくる。

たくさんの人が向こう岸にある島から帰ってくる。あっという間に近くにあったベンチが学生たちのおしゃべりの場所になっていく。そんな風景の邪魔になりたくなくてさっさとホテル方面へ歩く。

晩御飯は地域の居酒屋に行きたくて、ホテル近くのところへ赴き、いい感じのお店があったので入る。日本酒が美味しく、というか出てくるもの全てが美味しくてめちゃくちゃに酔っ払ってお会計する。

夜の尾道水道を街灯に照らされながら眺めていたら、近くのベンチに座っていたおっちゃんもお酒を飲んでいてなんとなく仲間みたいな感じで、楽しかった。

それから船から帰ってきた学生さんたちがベンチに座っておしゃべりしている風景を思い出して、海がそばにある、島に渡る、そこから帰ってくるというのが日常というのはどういう心持ちなのだろうと思う。


自分とはあまりにも日常からかけ離れすぎていて、そんな経験をしている人は何かしら自分とは違う特別なのではないかと身勝手にも思ってしまう。実際は日常として送っている過程が違うだけで、大きな違いはないのかもしれないし、やはり違いはあるのかもしれないけれど。
特別な日常を送りたいという欲望はどこからくるんだろうか、平凡から抜け出したいという劣等感にも似たあの感情は、振り返ると若かったなあで済ませてあげられる気もするが、当時はそういう比較をして自分から傷を作っていたような気もする。

ただ、今振り返っても、海が近くにあって、それが日常になっていて、何にも特別でないように彼ら彼女らが当たり前に過ごしているのがとても良かった。

知らない街に行って、良い街だなあと思って、もし自分がそこで生まれ育っていたらどんな日常だったんだろうと夢想する。

けれどうまくイメージできなくていつも途中でやめてしまう。今いる街が良いと思うのは、この街で生まれ育ったわけでないからで、そうなるとたぶん同じなのかも知れない。いや、そんなことはないのかもしれないけれど。

でも、生まれたり、育ったり、働いたりする場所が違うだけで、当たり前に人生は変わるんだろうなとも思ったりする。

出会う人も。
拠り所にする場所も。
どんな働き方をするのかも。

そんなことを思って、ホテルに帰って、酔っ払った頭で昔別れた恋人との風景が浮かんできてなんか涙が出てきて、一瞬で素面にもどった。気持ちが悪い。シャワーを浴びて、どんどん暗さを増していく部屋から見える水道の風景と、うっすら遠目に見える島の明かりにカーテンをして眠る。

3日目の朝、早起きして、昨日の飲酒を体が引きずっていて二日酔い一歩手前みたいな感じ。

行きたいパン屋さんがあったのでホテルを出て商店街へ。
昼間は夏日にふさわしい暑さなのだけど、早朝の空気はやさしくて、過ごしやすい。

早朝から開いているパン屋さんで、すでに何人か並んでいる人がいる。地元の人に普段なら萎縮してしまうけれど、眠気と二日酔いみたいな感覚がそれを消し去って、お店の中に入って何かのパンとメロンパンを買って変える。メロンパンだけは覚えている。

帰りにコンビニでコーヒーとR-1か何かを買い、ホテルに戻って朝ごはん。
日差しを浴びて光を取り戻していく水道、海を眺めながら、やっぱり昼間に見える海が一番綺麗。と思って身支度をして、出る。

チェックアウトと宿泊のお礼を伝えて、駅前へ行くと、もうすでに通勤、通学の人たちは落ち着いた時間帯なのか、人が少ない。この街の日常が、もう自分から離れていくのを感じる。ただ勝手にきて、勝手に変えるだけなのだけど。

それから最後にセブンイレブンによってお昼ご飯になるものとか、飲み物とかを買って電車に乗る。電車の帰り道、車窓から水道とか、海の景色が見えるといいなと思って窓に近いところに座る。

帰りに海が見えたかはほとんど覚えていない。
勝手に旅して、勝手にいろんなことを思って、勝手に帰る身勝手な突発的な旅行は終わって、また日常に帰っていく。


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