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絵はどのようにできるのか

前回は「詩はどのようにしてできるのか」について書きました。
今回は絵について。

『変身物語』鉛筆画シリーズ

これらの絵の経緯を書いてみます。
ずいぶん昔に描いた絵で、忘れていたことも多かったのですが、展示に来られた方々と話したおかげで、色々思い出すことができました。

①人の動きの型
②神話『変身物語』のイメージ
③生成する線

①人の動きの型
かつてわたしは画家・美術批評家の宇佐美圭司氏の作品に興味を持っていました。氏はワッツ暴動の写真から抜き出した4つの人型(身振り)を元にした宇宙観シリーズを描いており、とても印象に残りました。

宇佐美圭司「100枚のドローイング」

そして制限された人の動きの型から、無限に広がりを持つ絵画空間に興味を持つようになります。
また以前から、歩く・走る・跳ぶ・投げる・・・こうした基本の人の動きは汎用性を持ち、美しいと思っていました。

②神話『変身物語』のイメージ
そこで頭に浮かんだのが、愛読していたギリシア神話・オウィディウス『変身物語』です。
そこでは強烈な感情が劇的に演じられ、人の感情の型ともいうべき深みがありました。

オウィディウス 変身物語

これまで様々に描かれてきたようなギリシア神話(物語)の挿絵としてではなく、断片的な場面から想像を広げた、エモーショナルな人の動きの型を描きたいと思うようになります。

③生成する線
では実際にどのように絵として展開していくのか。
絵の要素には大きく分けて色彩と線がありますが、わたしは線に、特に曲線にずっと惹かれつづけてきました。
当時、線で影響を受けていたのはやはりハンス・ベルメールです。艶めかしい線の魅力は比類のないものです。

ハンス・ベルメール「ドローイング」

そうして、古代において獣骨のヒビから占ったように、気ままな偶然の線から発生した形をすくい上げ、ゆっくりと絵を進めていくきます。埃のような微細な線も見逃さないようにします。陰影の階調は時に線の力を弱め、光と奥行を錯覚させ、ますます曲線を複雑に混迷させる重要な要素となります。
できるだけ迷うこと。
まるで闇夜を這って進むようですが、そこでの星や月明かりこそが、上述の人の動きの型であり、『変身物語』の場面のイメージです。
そうした手がかりを元に、形象の無意味と意味の綱渡りを行うことが、このシリーズの創作の核でしょう。

また、より曲線を強靭にするため随所に直線を導入しています。曲線は直線によって分断されますが、しぶとくおおらかに生成をやめることはありません。むしろ、陰影のリズムに広がりや深みを誘発するものとなりました。

こうして、『変身物語』鉛筆画シリーズはできたのでした。


-展示のお知らせ-
6月まで、上記の絵も展示しています。
(展示自体は8月中旬まで)
よろしければ。


※追記
ハンス・ベルメールに興味のある方は、京都・アスタルテ書房さんにて、2022年5月18日まで展示開催中です。作品数は少ないようですが、ベルメールに接する国内での貴重な機会ですのでぜひ。


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